君想いマカロン
君想いマカロン本編から2年後です。夏海受験生で追い込み中。進路が決まった頃に新規の仕事の依頼があったのですが……。
「みーくん、相談があるんだ」
学校の中間テストが近い、ある日の夜。私はいつもの様にみーくんの所で勉強を見て貰っていた。
今度の成績で志望校が決まる予定なのだが、学校を休みがちな私はかなり自信がない。
「何?仕事?学校?」
「うんとね、仕事」
私が何を言いたいのか分かったみーくんもブリーフケースから書類を出してくれた。
「これだろ?夏海」
「うん」
いつもの様に君想いマカロンの打ち合わせでコンビニ会社に言ったら、太田さんから新企画があるんだよってみー君が見せてくれた書類があった。
そこには、私が主役の君想いマカロンのCM展開の企画書が書いてあった。
「いいじゃないか。あの世界を誰よりも分かっているのは夏海だと思うよ」
「それはそうかもしれないけど、キャッチコピーをアレンジしたらいけないのかな?」
「いいと思うよ。元々は男の子が意中の女の子を想う設定だったから、逆なら君に会いたいはおかしいだろうよ」
「そのままだと……ちょっとアレかなって思ったから。良かったアレンジありなんだ」
「でも、相手役は俺になるかはまだノープランなんだ。ひょっとすると。相手役が変わるかもしれないんだ」
「そうなの?」
「うん。カメラテストしてみようかなって高山さんと話はしているんだ」
相手役はみーくんじゃないかもしれないんだ。その一言は私を落ち込ませるには十分なものだった。
「大丈夫。結局は俺になると思うよ。安心しなよ」
みーくんは自信満々で答えてくれる。そこの根拠はどうしてだろう?
「社長からのオーダーでこの件は終了。そう思わない?」
「そうだね。スケジュールは、CMソングの収録が最初なんだって」
私は今日貰った大雑把なスケジュールを見せた。
「ほらっ、夏海は受験生だからそこの配慮はあるんだよ。一応私立を希望しているでいいんだよな?」
「うん。今のところは問題なく試験には受かる学力はあるらしいけど……あそこって大変なんでしょう?」
私が目指しているのは、超進学校といわれる大学院まで揃っている一貫校だ。母達は中等部からここに入れたいと思っていたみたいだけども、通学時間に思った割にかかってしまうので、断念して公立校にした経緯がある。
今回は、マンションからだと歩いて通学できる距離な為にダメ元で受けたらどう?って親に進められた。
制服もかなり可愛い。仕事をしながら学生ができるのか不安になったのだが、社長が言うには学業優先で成績をちゃんと維持しているのであれば不問になると教えてくれた。それにセキュリティー関係もしっかりしているから、夏海が通うには最適な環境だと思うとこれまた勧めてくれた。
「いいんじゃないか?そこがダメだったらどうする予定だ?」
「みーくん達が通った通信制になると思う。だからどっちに転んでも私は平気なんだ」
平気って言っているけど、本音は私立校に入りたい。高等部の受け入れ枠は一クラスあるかどうかなので、倍率は凄く高いのだ。
「俺も手伝うよ。頑張って合格しような」
そう言うと、みーくんは私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ねえ、マカロンポーズってあのままかなあ?」
「ん?流石にあれは恥ずかしいよなあ。手の中に入れて見つめるってのもいいんじゃないか?」
私が気になっていたマカロンポーズのことを聞いてみた。
ってことは、スチール撮影までには、ポーズを決めないといけないってことなのね。私も高山さん達と一緒に考えていくらしい。ちゃんとみーくんの様に意見を言えるかなあ。
「夏海は夏海らしくしていて?誰よりも可愛いヒロインに慣れるように俺達が努力するよ」
「えっ?みーくん?」
「だって、マカロンは俺のプロデュースだよ。キャストを決めたりするのは俺も参加できる訳」
君想いマカロンはみーくんが高山さん達と作り上げたコンビニスイーツ。レアマカロンの形とか、日持ちできる様に完全な焼き菓子に変更とか一杯のアイデアが詰まっている。
私も途中から企画に参加させて貰っているから、みーくんがどの位この製品の事を想っているかは十分な位理解しているはずだ。
「大丈夫。夏海らしい表現方法でいいんだよ」
「本当に。みーくんならどんなポーズがいい?」
「まあ、俺としては俺と同じポーズをして欲しいけど……ねえ、今からして貰えない?」
「えっ?ここで?」
「うん。僕だけが見る為に。それならなっちゃんだってできるだろう?」
みーくんに言い含められてしまって私は顔を真っ赤にしながらマカロンポーズを取った。
「どう?おかしくない?」
「分かった。一枚だけ撮らせて?」
みー君はそう言うと。タブレットで私のマカロンポーズを撮影した。
「ほらっ、見てごらん。そんなに夏海が思うほどおかしくないよ」
「そうかなあ?」
「このぎこちなさは夏海じゃないとできないと思うんだ。初めての恋の方がイメージできるけど」
ちょっとだけ意地悪く、みーくんが言う。みーくんが私の初恋の人だってことは知っているはずなのに。
「みーくんの意地悪」
「ごめん、夏海。あんまり可愛いからさ。つい苛めちゃった」
起こってソファーに腰掛けた私の隣に座らないで、みーくんは、私の膝の側に跪く。
「夏海、ごめん。でもあの表情はCMでして欲しくない。あの表情は俺だけにして?」
「どうしてそう言う事を言うの?」
「夏海を一人占めしたくなるから。夏海だって……俺の気持ちを知らない訳じゃないだろう?」
みーくんの気持ち……。うん、分かっている。私の事を好きでいてくれること。
「ごめん、そんなつもりじゃなかった」
「いいんだ。俺が夏海を欲しくなっただけだから。今、そんな関係になるにはまだ早いだろう?だから、勝手に気持ちが盛り上がった俺が悪いの。夏海は……男は変わる事があるってことを理解して?」
私が欲しくなったって……それってそういうことでいいのかな?自分をそういう風に見てもらえる事が嬉しかった。
「嬉しい」
「夏海?そこは喜ぶ所じゃないだろう?」
「だって、みーくんが私の事を好きだと言ってくれていても、自信がなかったの。ちゃんと女の子として見てくれているか……不安だったの」
私が心の中に隠していた不安を漏らす。ずっと不安だった。みーくんにはいつまでたっても幼い子供のままだと思っていたから。
「大丈夫。ちゃんと女の子として好きだよ。そうじゃなきゃ……こんなにならないよ」
私の頭を引き寄せて、みー君の胸元に押し付けるように抱き寄せた。
凄く早いみーくんの鼓動にびっくりする。
「分かる?俺の鼓動。さっきのポーズからずっと動揺したままなんだけど」
「それって私のせい?ごめんね」
「まあ、夏海だけが悪い訳じゃないよ」
「うん。でもこれからは気を付ける。みーくん大好き」
「うん。俺も好きだよ」
貴方に会えないから、貴方を想う……みーくんが作った君想いマカロンの世界を私らしくアレンジするとこうなるかな?
「貴方に会えないから、貴方を想う……みーくんのコピーをこう変えてもいいかな?」
「僕はいいと思うけど、君を貴方に変えるだけでもいいと思うよ」
うーん、確かにみーくんのコピーは誰が使っても基本的には違和感ないよね。
「今度ゆっくりと高山さん達と考えよう。もうもう少しだけ……このままでいさせて」
私もみーくんのちょっと早い鼓動をもっと聞きたくて、ゆっくりと腕をみーくんの背中に伸ばしたのでした。




