Pure Pop
事件後の1学期の期末テスト終了後の二人です。
「テスト終わった!!」
「思った割に出来なかった」
期末テストが終わった教室。あの事件で教室に入るのが怖かった私を皆は根気よく待っていてくれた。
私が皆の所に戻れたのは、期末テストが始まる直前だった。
「すう?皆で打ち上げするんだけど……薫君と一緒に来る?」
「皆は薫君がいてもいいの?」
「気不味いのは徹だけ」
「俺達は、すうがリラックスして打ち上げにいてくれるのならどっちでもいい」
仕方ないので、スマホを取り出してかおちゃんにメールを送る。
―クラスの打ち上げに誘われたんだけど……かおちゃんも一緒に来る?―
メールを送ったらすぐにかおちゃんから着信があった。
「すう?メール見たよ。俺の元バイト先だから俺は事務所で時間つぶししてもいいんだよ」
「いいの?」
「すうは、家を出るまでが不安だろ?カラオケに着いても不安だったら一緒にいるよ」
「うん。それがいい。じゃあ皆に言うね」
「そうしておいで。ご飯作って待っているよ」
着信が切れて、皆が私をジッと見ている。
「あのね。薫君、平気なら皆と過ごしなさいって。辛かったら傍にいてくれるって」
「ああ、やっぱり。元バイト先だから事務所で待機するって言うんでしょ。いいじゃないねえ?」
「うんうん。薫君は今さらだろ。A組のもう一人の生徒みたいなもんじゃん」
「徹にはキツイだろうけど」
「そんなことねえよ。俺だってふっ切ったもん。でもさ、こいつが義理の姉って言うのがな……」
「ごめん。それはどうにもならないや」
皆が私を優先してくれるのが嬉しいのと、申し訳ないと思うのがせめぎ合う。そんな私に気が付いたのか、はっちゃんが不安そうな顔をした。
「すう?私達はすうの負担になりたくないの。こうやってここに戻って来てくれた事が一番嬉しいのよ」
「そうそう、あの事件でさ俺達の目標が決まったんだ」
「目標?」
「ああ。俺達は三年間誰も欠けることなくこのメンバーで三年間を過ごすってな」
「そんなこと……無理よ」
いくらなんでも三年間A組が変わらないなんて……無理だって。
「そうでもないさ。逆はあるじゃないか」
護があっけらかんと言ってのける。確かに、うちの学校のクラス編成はテストの点数重視。中学の時は学年が変わる時の入れ替えは五人いるかいないか位だったはず。下位のクラスは確かにメンバーの変動はない。
「そこと同じってのはどうなのかな?少なくてもB組だとA組入りを意識するだろうし、外部組はかなりの激戦のはずだよ。実力テストを入れても、後五回で絶えず皆がトップ30なのでしょう……」
「大丈夫。すうのノートが救ってくれるから」
「それでいいの?私のノートそんなに書き込んでいないわよ。かおちゃんのノートの方がちゃんとしているよ」
「ここでもかおちゃん……徹、ここでも負けていたんだ」
「もうほっておいてくれよ」
完全に徹君はへそを曲げてしまった。
「徹君、今夜は家に泊まるんでしょう?かおちゃんがお昼ごはん用意してくれてあるから、一緒に家に帰って来いって」
「ラブラブハウスにお泊まりって……きっついなあ」
「そんなことないよ。だって、今は別々の部屋だもん」
「はあ?」
「あんた達……まだなの?」
皆さん、何を期待しているのでしょう。
「かおちゃんがゆっくりでいいって。学校に戻る事を優先しちゃったから。まだね、学校と病院以外は外出するの辛いんだ。今日の打ち上げがそういう意味では初めての外出なの」
私は正直に皆に自分の状態を打ち明けた。
「買い物は?」
「ネットスーパー」
「急にお菓子食べたくなったら?」
「我慢して食べない」
「洋服とかは?」
「ネットショッピングとかおちゃんの家が使っているデパートの外商さん」
かおちゃんが洋服を買ってあげるってなってデパートに行ったんだけど、気分が悪くなってしまって買い物せずに戻った事があった。私の家の外商さんは若い男性だったから、かおちゃんの家の担当の人に変えて貰ったんだ。だから、下着とかも買えるようになったんだ。
私がその事を話すと皆が秘密会議を始めてしまった。そんなに気にしなくてもいいのにな。
「今日のすうは、薫君同伴。それで打ち上げ後に街でデートすること。明日は学校休みだから」
「うん……分かった」
こうして、私の今日の放課後の予定は皆によって決められてしまった。
「「ただいま」」
一度自宅に戻ってから13時に今日は駅前のカラオケにしゅうごうになっている。薫君も同伴だから私達は薫君の車で駅前まで行くのだろう。
「おかえり。手を洗ってすうは着替えておいで。徹は俺の服で着たいものがあれば着ていいから」
「はーい」
「それと、換えの制服が二人はあるんだから、カラオケに行く前にクリーニングに出しに行くぞ」
今日は、かなり暑いんだけど、カラオケの店内がクーラーがキツイとかなり寒暖差があるなあとぼんやりと考える。
「今日はデパートの駐車場に車入れるから。徹は帰りどうする?」
「いいよ。クラスの連中と一緒にいるから。兄貴たちだって夕飯食ってから帰るんだろう?」
「そうだな。一度電話してくれ。そうしたらまだ外だったら待ち合わせにしよう」
私達は打ち上げ後の予定を確認して、ダイニングテーブルに着く。今日のお昼は、ひやむぎ。
徹君には物足りないかな?
「徹が来るのが分かっていたから、簡単に天ぷら作っておいたぞ」
最近、かおちゃんは天ぷらを作る事がマイブームでちょっとだけ困っている。夜に食べると次の日の朝が辛いって言ったら、お昼にこうやって作ってくれるのだ。今日はシーフードミックスを使ったかき揚げがメインだ。
「兄貴……主夫を目指しているのか?」
「そういう訳じゃないけど。楽しいだろ?」
私達は薫君の作ってくれた天ぷらでひやむぎを食べた。でも、いいお婿さんになれると思うよ。
その後に、出かける支度をしてリビングに言ったら、薫君にダメ出しされて着替え直すことになってしまった。ちょっとだけバタバタしたけど、無事に待ち合わせの時間前に着いたからいいとするよ。
「それじゃあ、またね」
「今度は球技大会の練習をするぞ」
打ち上げのカラオケも終わって、私達はお店の前で解散する。
「おいで」
かおちゃんは私に手を差し伸べてくれるから、私はその手に自分の手を載せる。
「やっと俺の隣に戻ってきた」
「ごめん。恥ずかしいから」
「そんなこと分かっているよ。さて、お嬢さん久しぶりにお散歩しませんか?」
今の街は直前にゲリラ雷雨があったみたいで、ちょっとひんやりとしている。
「うん。」
私達はのんびりと駅まで向かう道を歩き始める。暫くするといつもお世話になるコンビニが見えた。
「コンビニでちょっと冷たいもの食べようか?スナック菓子は摘まんだけど喉渇かないか?」
「そうだね、ご飯食べるから今日は初恋ショコラ禁止」
「まあな。それならマカロンは買って帰るか?」
「あったらね」
手を繋いだまま店内に入って、デザートコーナーに進んでいく。そこには、先行発売と大きく書かれた発売前の新商品があった。
「これって……」
「うん、海の日の連休から発売予定って言っていたよね?」
私達の前には夏の新製品Pure Popが陳列されていた。どうしてあるんだろう?
「この店は、本社直轄のトレーニング店なんですよ」
そう言われると、このコンビニは他のコンビニに比べると少しだけ新製品の陳列が早い。ってことは、経営戦略のサンプルにもなっているのだろうか?
「へえ、そう言う事はスタッフさんは皆さん社員さんなんですね」
「ええ、社員は全員各エリアにあるトレーニング店で店舗勤務が必ず半年以上あるんです。店舗を知ってお客様と触れあう事が重要という会長の方針なので。いつもご利用ありがとうございます」
あれ?私達を覚えているって事。そんなにいつも来る訳じゃないのにね。
「どうですか?新製品のジュレは」
「ジュレ?ゼリーとは違うの」
かおちゃんのその質問は当然だと思うの。そういう時は食べるのが一番。
「かおちゃん、食べたいの一つ買ったら?ご飯前だし、半分ずつ食べようよ」
「それでいいのか?」
「うん。それとアイスカフェラテね」
「はいはい、家で食べるマカロンはも……だろ?」
「忘れてた。ありがとうかおちゃん」
私達はこうして発売前に新製品を食べることになった。
このコンビニはレジの横にカウンターがあるから食べる事が可能だ。
お店の人が食べ方を教えてくれた。折角二層になって綺麗なのに、かき混ぜてしまうんだって。
お好みで弾けるキャンディーをいれて下さいって言っていたけど、最初はかき混ぜた状態で二人で食べることにした。
ラムネの味とブルーハワイのシロップの味が混ざって甘いのにさっぱりとしている。
「これ、意外に上手いな。ゼリーは苦手だけどこれなら食えるぞ」
「本当。それじゃあ、弾けるキャンディーを入れてみるね」
私は容器の上から弾けるキャンディーをふりかけて更に混ぜる。それだけで既にパチパチという音で
興味が沸いてくる。
「じゃあ、かおちゃんどうぞ?」
私はいつもの方に一匙掬ってかおちゃんの口元に寄せる。
「ああ。これも美味しいぞ。また今度買おうな。残りはすうが食べていいぞ」
ゼリーがあまり好きじゃないかおちゃんはそれ以上食べなかったけど、気に入っているらしい。今はアイスコーヒーを飲んでいる。
「今年の夏は皆から羨ましがられる恋人にならない?」
「えっ?」
「婚約したし、一緒に暮らしてはいるけど、恋人の時間も楽しみたくない?」
かおちゃんの言う事は一理ある。私達は互いの想いが通じたのはいいけれども、事件後私を一人にしてしまうわけにいかないという両親の我儘を聞いて婚約したのだ。
「すうだって、俺と16歳になってすぐに入籍するんだぞ。恋人の期間は4カ月しかない事……気が付いていないのか?」
事件の後が、余りにも早い展開だったからそう言う事をあんまり深く考えていなかったようだ。かおちゃんにいわれてようやく世間的にも電撃婚と言われる状態なことに気が付いた。
「俺が好きなのは、誰よりも分かるけど……こうやってデートしたりしたくない?」
「したいかも」
「じゃあ、このジュレの様に弾ける恋をしてみませんか?」
「かおちゃん……うん、いいよ。二人でキラキラな眩しい恋をしよう」
私達は顔を見合わせて笑い合う。
「で、最初は何をするの?」
「そうだな。皆が爆ぜろ、リア充って罵る位に仲良くしようか」
サラッとかおちゃんは言うけど、そんなことできるのかなあ?
「大丈夫。すうはすうのままでいて。そうしたら俺が一杯甘やかしてあげるから」
それもそれでちょっと嫌だなあって思ったけれども、それは私の心の中に置いておくことにします。




