君想いマカロン
入籍1カ月前の二人です。
コンビニスイーツでI Love You企画の『あなたに会いたくて』に話が少しだけクロスオーバーしています。
もちろん知らなくても読めます。
『きみに会いたい……だから君を想う』生徒会室でBGMとして流しているラジオから聞こえてくるお馴染みのキャッチコピー。今話題の君想いマカロンだ。
「はあ、ここまで思われていると嬉しいわね」
学園祭のお手伝いで生徒会室に出入りしているのは私と徹君とはっちゃん。
中学でもずっと役員だった私達は学園祭の執行部のメンバーとして召集された。他にも元役員仲間が一緒に参加をしている。
今の私の作業は、当日の高等部の講演会の英訳翻訳。徹君は当日のタイムスケジュールの最終チェック。はっちゃんはパンフレットのデザインのチェックだ。
「そういえば、徹はミッキーからマカロン貰った言っていなかった?」
「言っていた。ミッキーの場合は本気だよね」
私とはっちゃんが中等部の後輩から貰ったマカロンの事を言っている。何でも職業体験でコンビニ会社の本部でお仕事だったとかで、一杯のサンプルを貰って帰って来たのだ。
「あれって、やっぱりそう言う意味で考えなきゃダメか?」
ちょっとだけ、顔色が青い徹君が答える。丸いマカロンだったら意味とか考えなくてもいいだろうけど……徹君が貰ったのは、ハート形のレアマカロンだったのだから。切ない女心を分かれというのは、鈍い徹君には難しいのかもしれない。
「そっか。それじゃあ、ミッキーにちゃんと答えないといけないよな」
徹君はボソリと答えてから無言で作業を続けた。そんな徹君をこれ以上構うと厄介なことになるから私達も作業を続けることにした。
「ねえ、かおちゃん。ちょっとおやつにしない?」
学校帰りにかおちゃんと一緒に夕飯を食べてしまったので、少しだけ小腹が空いた午後9時。宿題が終わった私はリビングで寛ぐかおちゃんをお茶に誘う。
「別にいいけど。食べてからダイエットなんて言わない?」
「大丈夫。今日は言わないから。ね?紅茶を淹れてくるから待っていてね」
「分かったよ。俺の方は、メールを送ったら終わるからダイニングテーブルにセッティングしておいて」
「はーい」
私は返事をして、紅茶を沸かし始める。かおちゃんと駅前で待ち合わせだったからその途中にあるコンビニで君想いマカロンを一つだけ買ったんだ。夕食後のおやつなら一袋で十分だと思ったからね。
マカロンの袋を開けると、定番のバニラとレモンのマカロンがお行儀よく入っている。
マカロンを見て、私は淹れるお茶をダージリンにする事に決めた。
ゆっくりと丁寧に抽出をして、ティーポットとカップとマカロンを淹れた小皿に移してダイニングに並べた。
「かおちゃん、お茶にしようよ」
「うん、ダージリンか。上手に淹れる様になったな」
「えへへ。今日のおやつはマカロンよ」
「ああ。君想いマカロンだな。何かあったのか?」
「特に意味はないよ。途中のコンビニにあったから買ったの」
「ふうん、そういう事にしようか。ありがとう」
私達はいつものように隣り合って座ってお茶の時間を過ごすことにした。
「そういえば、これが出てすぐの頃に、マカロンポーズが恥ずかしいって言っていなかったか」
「そんなこともあったね」
「それって……今もか?」
「えっ?」
「菫のマカロンポーズを見たいなって……ダメか?」
あの事件の後、私達は婚約して今は一緒に同居している。流石に入籍するまではけじめとして同じ部屋で夜は共にしていない。今ではかおちゃんと一緒にいることが自然で当たり前になっていた。
いきなりのかおちゃんのおねだりに私はフリーズする。
「ごめん、今の……忘れてくれない。ちょっと悪いジョークだったな」
そう言うと、私の頭をポンポンと撫でてくれる。私が不安になると落ち着けてくれようとするサイン。
「かおちゃんは……見たら嬉しいの?」
「もちろん、すうだから見たいんだよ。俺が言っている意味は分かっているよな」
「うん。だったら……する。マカロンポーズ。楓太君も制服だったから、私もこのまま……やるね」
私は、ちょっと緊張しているけれども、レモンのマカロンを手にとってそっと唇に寄せた。
私がマカロンポーズを取ったら、かおちゃんは私を抱き締めた。
「かおちゃん?どうしたの?」
「すうが大事に、本当に大事にマカロンを持ってポーズを取るのが凄く可愛いから抱き寄せたくなった」
「でも、紅茶が渋くなっちゃうから、お茶にしようよ」
「そうだな。今度は……もう一度俺にマカロンポーズを見せてな?」
「いいよ。別に。それでどうするの?」
ちょっとだけ不安になったから……私はかおちゃんに聞いてみる。
「どうしようかな……俺のすうコレクションにしようかな」
「それ……凄く恥ずかしいんだけど」
「大丈夫。誰にも見せない……すうの両親にはメールで送ろうよ。あんなに可愛いすうを俺だけが独占するのはやっぱり勿体無い」
なんか……話がどんどん大きくなっていってない?かおちゃん?
「そこまでしなくていいから。私はかおちゃんだけが知っていてくれる方がいい」
「そんなに可愛い事を言われると、俺は試されているような気がするんだけどね」
そう言って、私の頬にキスをする。
「そんなつもりじゃないよ。私……」
「分かっているよ。その位。すうはすうのままでいて?」
「本当にそれでいいの?」
「俺がいいって言うんだから、信じなさい」
「うん。分かった。そうそう、今日もイタリア語教えて?」
「少しずつでいいんだぞ。それに俺が問題なく使えるし、すうは英語があるだろう?」
「それでいいの?」
「いいんだよ。休憩はお終いだよ。それじゃあイタリア語の勉強をしようか」
私達はいつもの様に勉強をする。イタリア語の前は、かおちゃんにパソコンソフトの使い方を教えて貰っていた。一通り使えるようになったから、ようやくイタリア語のレッスンに入ったんだ。
「イタリア語もいいけど、検定の方はどうなっているんだ?」
「ビジネス英語は来年に受ける予定だよ。だから教えてね」
「英検とかは?」
「英検はもう取れているよ。これからはビジネス系統の資格を取る予定なの。社会に出る時は絶対に必要でしょう?」
「そうだな。そこも抜かりなく計画しているってことでいいのか?」
「うん。それでいいと思うよ。早くかおちゃんのお仕事でお手伝いできる様に頑張るね」
私がにっこりほほ笑むと、かおちゃんはイタリア語のテキストを閉じてしまった。
「かおちゃん?」
「何?今日は俺が教える気になれないからお終い」
「どういう意味?」
「さっきのすうのマカロンポーズに悩殺されちゃって、そんな気になれない」
「それは、私のせいじゃないよね」
「そうだね、俺のせい。たまには勉強を休んでもいいの。もう少しだけこの幸せに浸らせてくれよ」
こうなったかおちゃんを私は止める事が出来ない。微妙にこの人は女子力が高いなあと思ってしまうのでした。
菫の薫君の呼び方が作品によってずれていると思います。
今回の菫は、ふたりきりでは『かおちゃん』です。
誰かがいると、『薫君』になります。




