参 「旅立ち」そして“独白”
遠くなる背中。
浮かべていた微笑みが、ニヤついたものにかわりそうで、口元を隠す。
十七年と数ヶ月。
人としては、長い時間に入るだろ。けれど、私にとっては、とても刹那程の時間だった。
でも、刹那程の時間も今までの暇で暇でしょうがない時間よりも楽しくて、ワクワクした、時間だった。
やっぱり、あの時、思いついた暇潰しは良いものだった。一人でつまらない時間をずっと過ごしてきて、あの時、思いついた暇潰し。それは、とても有意義な時間をくれた。
魔王の私に立ち向かう勇者様。
私は、聖女様なんかじゃないの。
正真正銘の魔の王。魔物の統率者。圧倒的な力を有し君臨する。だけど、とっても暇な魔王よ。
私は、強かった。生まれ持った圧倒的な力。そのせいで、敵う者はもういない。だからこそ君臨できているのだけど。
正直、つまらないの。だって、誰も敵う者がいないなんて。つまらない、つまらないわ。
だからこそ、私に敵う者を自分で作り上げましょうと。
そこで、私は、この村に目をつけたの。赤ん坊を腹に抱えた女がいる村。
私は、村に催眠をかけて私の正体を隠し、村の周りに結界を張って強い魔物を寄せ付けないようにしたの。目的の途中で死なれたりしたくなかったから。
祝福だと言って、女の腹にいる赤ん坊に魔力を送り続けた。あの高い魔力は、私が与えたもの。そうとも知らずにライは、その魔力を高め続けた。もとの持ち主をたおすために。滑稽なことだわ。
ライが産まれた時。嬉しかった。やっと、一歩前に進んだと嬉しくて嬉しくて。ライを目の前にした時、笑みを隠しきれるか心配だった。
そうそう、“ライ”という名はね、嘘、偽るという意味よ。あの子にぴったりでしょ。
“偽りの勇者様”
我ながら、笑えてくるわ。フフフ。
確か?シバニアだったかしら。そいつも、私が用意したの。魔術だけでは、ダメでしょ?魔術だけなら、魔法使いでことたりるわ。わざわざ、王都にまで行って、王宮騎士団の隊長を連れてきたんだから。もちろん、催眠をかけてただの冒険者だと思い込ませたわ。そのかいあって剣も上達した。もともと才能があったみたいだけど。
フフフ。いい子を選んだとあの時は思ったわ。魔術書だって私が自ら集めてきたんだから。
ライが外の魔物と戦いたいと言った時は、ちょっと考えたわ。だって、人の子よ。ただでさえ、まだ子どもなのに、死んだら今までの時間がぱあっになるでしょ。まあ、ワクワクして少しは暇潰しできたから、よかったけど。でも、逆に今、ライがどれだけの力量を持っているのか見れるでしょ。だから、了承したの。
結果は、上々。まあ私なんかと戦う前に死んでしまうレベルだけど。それから、ライは、たくさん、たくさん、同胞を葬ってくれた。成長していくのを見るのはとても楽しかったわ。
そして、先、あの子は、旅立た。
旅立つ、と聞いた時。やっと、やっと、ここまできたんだと思ったわ。笑いがこみ上げて、止まらなくなりそうで、大変だったわ。
あの子は、ライは、いつ私の前に現れるんでしょう。楽しみで、楽しみで、ワクワクして、笑ってしまう。
「フフフ。早く。早く。強くなって私の前に現れなさい。偽りの勇者様」
だって、あなたは、勇者なんだから。
ライは、旅立ち。そして、聖女のふりをした魔王は、一人、独白した。
これが、物語の事実。