弐 「成長」そして“始まる”
僕は、あの日、彼の御方より力を賜った。そして、今まで育った。
村の人達は、僕のことを遠巻きにするでもなく、かといって他の子と同じ扱いをするでもなかった。
だからと言って腫れ物扱いでもなかった。何か、神聖なものを扱う様な感じがした。
僕は、人よりも魔力が強く、剣術の才があった。聖女様がおっしゃたように、僕には魔王を倒す力を彼の御方に確かに賜ったようだ。
やっぱり、僕は、勇者なんだ。
僕は僕なりに、魔術や剣術を練習した。勇者なんだからと言って、何もしないわけがない。
聖女様だっておっしゃた。
「いつか、魔の王のもとまでいくのでしょ。ライ、あなたは、彼の御方より確かに力を賜りました。けれど、その力を使いこなすには、自らの力も必要です。力を伸ばしなさい。あなたは、勇者なんですから」
聖女様のおっしゃた通り僕は、自らの力を伸ばそうとしていた時だった。村の近くの森で、迷っている冒険者をたまたまみつけた。
村は、王都から離れていて滅多に人は来ない。これといった物もない村だ。
だから、非常に珍しく狭い村だからすぐにそのことは広まった。もちろん、僕の耳にも入ってきた。
僕は、その人に会いにいて頼んだ、僕の剣術を見てもらえないかて、優しい人で二つ返事で了承してくれた。
「オレの剣なんて、そんなに大したものじゃないぜ?そんなんでいいならかまわないが」
「かまわないです。教えてもらえるんだったら」
冒険者のシバニアさんは、当分の間、村にとどまるらしく、その間泊めてもらうお礼と森で助けてもらったお礼をかねって村にいる間、僕の剣術を見てもらえることになった。
シバニアさんは、素人目でもすごいと思えるほど剣術に長けていた。本当は、ただの冒険者じゃないのかもしれない。
魔術の方は、教会にあった魔術書を見て勉強した。聖女様は、こころよく魔術書をお貸しくださた。魔術を見てくださる時もあった。
「あなたは、勇者なんですもの。貸さない理由の方がありません」
前半は、聖女様の口癖だ。よく、聖女様はそうおっしゃる。あたりまえのことだけど、聖女様に言っていただくと、再確認して身が引き締まる。
ああ、僕は勇者だ。
彼の御方より賜った力を。聖女様やみんなの期待を裏切らないように僕は勇者として、魔の王を倒さなくちゃいけない。
いや、倒す。それが、僕の決められた道だ。
だから、早く強くなる。僕は、勇者だから。
「外の魔物と戦いたい?」
唐突だから、聖女様は驚いていらしゃる。それに、僕はまだ、
「ライ、あなたは、まだ、九才のはずよね」
「はい」
たしかに僕はまだ、両の手にも足していない歳だ。けれど、僕は勇者だ。このまま、戦いもしないでいったてしょうがない、何の進歩もない。
「そうね。あなたは勇者なんですもの、ね。いいわ。でも、村の大人と私もついて行きます。魔物も弱く一匹でいるものとしか戦いません。いいですか」
許可が、だされたのに、断るはずがない。
初めて魔物をたおした時、やっぱり、僕は勇者なんだと確信した。自惚れているわけでもない。勝つことが当たり前なんだ。
聖女様も褒めてくださった。
「あなたは、勇者なんですもの。」
ああ、僕は勇者だ。
僕に、たおせない魔物なんていない。魔王であっても。
九才の時から、僕はずっと、魔物をたおし続け、八年、長い日々だった。
この日、とうとう僕は、旅に出る。魔物をたおし、魔王を討つ旅に。
「彼の御方に、賜りし力とその剣技を使い。必ずや魔の王のもとへたどり着きなさい。あなたは、勇者なんですから」
聖女様は、僕に美しい笑みを向けながらおっしゃた。
「大丈夫です。聖女様。僕は、勇者です。魔王などたおしてみせます」
僕も笑いかえす。
聖女様や村のみんなに、見送られ僕は、進む。
僕は、勇者なんだから。
僕は、大きく成長した、身も心も。そして、始まる、魔の王のもとへと向かう旅が。