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序章 休み時間

 2-A

「ちょっと兄貴!」

 数学の授業が終わったその時には、もう体育の授業は切り上げていて菫は教室に戻ってきていたらいし。

 一学年下のはずの菫がすぐにここに現れたのはそれぐらいしか不可能だろう。

「あぁ、菫いいところに。ちょっと俺の席の前に立ってくれないか?」

 指示をすると、怒って入ってきたもののすんなりと指示に従って俺の席の前に菫は立った。

 当然の事ながら、制服はスカートにブレザーと一般女子生徒の着る服だ。体育の授業も体育着だって女子と同じものを使っているのだからそれは至極当然といえる。

 俺の前に立たせて暫く、菫をじっと見つめて止まる。

 菫はなぜ指示されたのか全く理解できていないらしくきょとんとした顔で俺の視線を受け続けていた。

「ちょっと胸大きくなった?」

 最後の言葉を発すると同時に鋭い膝蹴りが飛んできていた。

 椅子に座っていた俺はそのまま後ろに飛ばされて横の席の生徒にぶつかる。と思ったが、ぶつかった瞬間受け流されて地面に叩きつけられた。

「大きくなるわけないだろ!」

 赤面しながら訴えかける姿はどう見ても女子の仕草で、別にぺったんこでも違和感が皆無だ。

「春人…お前いいかげんに菫ちゃんに変なことするのはやめろよな」

 地面に俺の背中をたたきつけた奴が、立ち上がってそう告げる。そして菫に近づいて

「な、菫ちゃん今日僕とデートに行こう」

 隣の席は女子。そいつは自分のスカートをまさぐると一本のカーネーションが出てきて、それを菫に差し出した。

 菫にとっては、いつもどおりなのだがこう何度もやられたからといって、この行為になれるわけでもない。その気持ちをどう対処すればいいのかわからない。当然、この女子の気持ちを受け取ることは即ち……。

 率直に

「死ね!」

 といえたら楽なのだろう。

 毎回それを代行するのは俺の役割である。当然今回も俺が目の前の女子にグーパンチで成敗してやったのだが。

 パンチと共に女子が横に倒れると、菫の前を、というか俺の席を取り戻した。

「ったく、紗織さおりは毎回毎回懲りない奴だな…」

「ありがと、兄貴」

 気恥ずかしそうに礼を述べる。

「んで?ここまで来て何か用でもあったんだろ?」

「あぁそうそう、はい兄貴。お弁当。せっかく僕が作ったのに忘れるなんてひどいよ」

 攻撃されたりしたりで全く気にしていなかったが菫の右手には巾着に入った弁当が持たれていた。

 今朝は、昨日撮ったカメラのデータを取り替えるのを忘れていて、パソコンにつなげデータの転送をしていたりで時間が無かった。それの所為で忘れていたらしい。

「てめぇ!菫ちゃんの料理を無視して家を出るとはどういう嗅覚してやがるんだ!そこに直れ!首を切って菫ちゃんの供物にしてやるわ!」

 倒したと油断していたが、どうやらもう復活したらしい。

「チッ、回復の早い奴だな」

 こちらに啖呵を切る紗織。髪はセミロングだが髪を後ろで縛ってポニーテールにしてあり黒髪である。釣り目で胸の発育もそこそこに一般レベルまであり、静かにしていればかわいいはずなのだが菫一筋なのが明白なためあまり人気が高くない。そもそも菫自体が人気が高いので一緒にいると菫に皆視線は集まるせいかもしれない。言葉遣いが荒いのも相乗して人気を貶めているのである。

「へっ、春人。菫ちゃんの料理を家に捨て置く貴様には、菫ちゃんの弁当をたべる資格はない!これがお似合いだ!」

 そう言ってまた、スカートの中をまさぐると、小さな袋が一つ出てきた。

「ん?マンゴーグミ?」

「いつもいつも美味そうな料理を食いやがって…その美味い料理をないがしろにする奴はグミでも食って僕に菫ちゃんの料理をよこせ」

 グミの袋をすっと俺に向けて差し出す。

「これってお前の昼飯か?」

「………」

 質問を投げかけると返答が返ってこない。

 顔が少し赤面しているところを見るとそれが事実であること肯定している。おそらく、自分の昼飯と俺の昼飯を交換で等価交換だと言いたいのだろうか。

「さもしいな…」

「うるさい…だから交換してくださいって言ってるんだろ」

 荒い口調から敬語に変わってさらにさもしく聞こえてくる。さっきまで、こちらを射抜かんばかりの視線だったのに、今ではこちらを見ることも菫を見ることもできずにいた。

「しかも、お前それスカートの中から出したよな。俺にそれを食えってちょっと」

「…………………………」

 さらに顔が赤くなって差し出したマンゴーグミを引っ込めてしまった。

「春人の馬鹿ー!菫ちゃん愛してるー!!」

「あっ!待てこら!」

 対極の感情を俺らにぶつけてそのまま紗織は廊下へと走り去っていってしまった。

 その間ずっと、自分が持ってきた弁当を紗織に渡すべきなのかとしどろもどろしていた菫も、消え去った紗織の方向を見て唖然としていた。

「あぁ、弁当ありがとな」

 何事も無かった様に俺は菫から弁当を貰う催促をする。いや、何も無かったな。ただひもじい学生が俺に等価交換と称して、普通の綺麗な石と金を交換してくれとせがんだだけだ。

「えっ、あ、紗織ちゃんはいいの?」

「……確かにちょっと気になるな」

「どうするの?」

「どうするか。そうだな、あいつがあのまま走って行くとすると菫の教室で、菫の机の匂いでも嗅いでそうだからな。ちょっと厄介だな」

 次の授業は地理。教室移動は無いはずだから教室を抜け出すとするとすぐに返ってこないとおかしい。これぐらいでへこたれる様な奴ではないから厄介だ。

「あ、いや…うん、じゃぁ僕教室戻るね」

 置いてけぼりの菫はそのまま、自分の教室へと戻っていった。沙織が潜んでいるかもしれないが、別に危害を加えるわけではない。いや、最初の求愛からして害はあるか。

「ま、ほっといても大丈夫か。じゃぁな菫」

 ある程度は自分でも対処できるだろうと踏んで、俺は菫をそのまま見送った。

一応菫は、見てくれは女子にしか見えないって言う設定のもとです…

男の娘って奴だな!

男の娘ってのは最高だな!

by筆者

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