1 日々の生活
1 日々の生活
「それとってくれる。」 マスターの声が聞こえた。
「はい」 僕は言った。
大学の講義も終わり、バイト先の喫茶店までは10分かからない、地方出身者の僕にとっては、とても便利なバイト先を見つけた。東京に出てきて3年近くになるが、いまだに東京になれない。
「直樹、コーヒー」ぼっとしているのが、マスターに気づかれてしまったようで、少し怒っていた。
「すみません、今します。」 焦ってしまって、声が裏返ってしまった。店内にいた、数人のお客さん、からは笑い声が聞こえた。
バタバタした時間が過ぎ、お店が落ち着きだすと
「直樹、上がっていいぞ。」とマスターに言われた。
「わかりました。」
バイト先の喫茶店は、昔ながらの喫茶店で、営業時間は、マスターの気分次第だった。なので、僕のバイトの時間も、その日によって、短かったり、長かったりした。僕的には、喫茶店自体、気に入っていたので、特にないも思わなかったが、大学の友達は、「お前のスケジュールが読めない」とよく言われていた
地方出身者としては、バイトをしないと生計が立てられないという、悲しい現実がある。ただ、普通の大学生なら、もう少し、キチンとしたバイト先を選んで、遊びとバイトを両立させていくと思うが、僕の場合、あまり他人に興味がないので、今のバイトのシステムは気に入っていた。(断る理由ができるからだ) 友達がいないわけではないが、自分の時間を大事にしたいと思っている。
自分のアパートまでは、自電車で20分くらいのところにある。1Kの部屋だが、住み心地は非常にいい。
自電車を止めて、ホストの中を見たときに、1つの広告が目に入った。
「今の自分が好きですか?なりたい自分になろう。」
アルバイトの募集のチラシだったが、思わず笑ってしまった。
「このバイトしたら、なりたい自分になれるのかよ。」部屋に戻り、バイト先からもらった、コーヒーを飲みながら、僕は思った。
でも、「今の自分が好きですか?」という言葉は忘れられなかった。