とっさに役に立たないセリフ
いきなり何か話せと言われて話せる人間がいったいどれだけいるだろうか。
今、僕はちょうどその状況に置かれていた。
春休みに入り、外に出ることが少なくなっていた僕はふと思い立ち、散歩をすることにした。
近くの通りを一周回って家に帰る。そのつもりであった。しかし、なにやら路上調査とかでいきなり女性にマイクに向けられ話せと言われたのだ。
当然、そんなことを言われても応えられる筈もなく、僕とその女性との間には微妙な空気が流れている。とてつもなく、気まずい空気が。
しかし、女性はそんなことは気にもしてない風であり、ズイズイとマイクを自分に押し付けてくる。
僕は悟った。この人は、僕が何か言わない限り絶対に引くつもりはないのだろう。もちろん、僕としてはこの状況から早く抜け出したい。この『気まずい』という概念がないのではないかと疑ってしまうほどのテレビリポーターと我慢比べをするつもりはない。
だからこそ、僕は口を開いた。早く何か言葉を発しこの空間から逃れるためにだ。
「僕は、子供が大好きです」
本当のことを言った。僕は、将来幼稚園の先生を目指しているぐらいだ。何一つとして嘘偽りはない。
だが、言葉とは時に不便なものである。そう、世の中には『ロリコン』と言う言葉があり、そして今僕はそれを疑われる発言をしたのだ。
もちろん僕にはそんな特異体質があるわけがない。しかし、人から見ればどう思われるか分かったものではない。
もし、すぐに何か言葉を付け加えれば何とかごまかす事はできたのだろう。
だが僕の中にある疑問を抱いた。
この女性は、『気まずい』という概念すらなさそうな人間である。もしかすると『ロリコン』という概念もないのかもしれない。
僕は、その可能性を信じつつ、女性の顔を見た。
そこにはものすごく冷ややかな目があった。そして、僕が顔を見た瞬間に顔を背けた。そして、女性はそそくさと立ち去る。
一方、残された僕は目から流れた何かを拭い。この春休みは外に出まいとそっと心に決めたのであった。
読んでくださってありがとうございます。
ふと思い立って書いた作品ですのであまりちゃんとはしてないかもしれません。暇つぶし程度になれば十分な作品です。
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