第二話・愛しい人
「きれいだ、そしてお酒も美味しい。」
「じゃろ。やっぱり花見は夜桜が一番。
そして、この酒。これがいいんだよ。月も満月だしの。」
ジャンヌを久しぶりに可愛がった日の夜。
ジャンヌは寝ていたので、じいさんの相手をした。
この人とは、かれこれ長い付き合いだ。
じいさんが子供の時に会ったんだから、百年以上の付き合いだ。
「お前さんと出会ったのは、お袋が連れてきたのが最初じゃったな。
あの時は驚いたぞ。なんせ、いきなり新しい父親なんてお袋が言い出したんだからの。」
「フィオナですか。彼女は最高の女性でしたね。
なんせ、僕が惚れた人なんですから。」
「ほっほっほ、よく言うの。
まあ、良い女じゃったのは、大正解じゃけどな。」
フィオナ・ダルク。じいさんの母親で、ジャンヌの祖母。
そして、僕の最初の奥さん。
今は亡き、この世でもっとも愛した人。
「ジャンヌには、言っとらんのじゃろ。
我が娘ながら、かわいそうじゃの~。
自分の愛している男が自分とは違う女を愛しているとは。」
「ジャンヌも愛していますよ。
ただ、それ以上にフィオナを愛していたんです。」
「それは納得しとる。
ワシだって、妻を亡くしてるから、お前の気持ちは分かる。
ただの、ワシは吹っ切れた。もっと大事な存在がいるからの。」
「ジャンヌ、ですか。」
「そうじゃ。妻のことにばかり集中してたら、ジャンヌを一人にしてしまう。
だからワシは、妻のことは仕方ないと思い、娘を大切にすることにしたんじゃ。
まあ、お前さんの場合は知らんがの。」
そう言って、じいさんは立ち去っていった。
過去ではなく今、かあ。そりゃそうだ、分かっている。
でも、心が分かろうとしない。
多分、自分がフィオナを忘れるのが怖いんだ。
あれだけ愛した女性はいなかった。
そして、自分をあんなに分かってくれた人もいなかった。
「なんで僕は、助けられなかった。」
僕は今日も、明日も、この先も
この罪にむしばまれるんだろう。
「ゴメン、フィオナ。ゴメン、ジャンヌ。」