*翼
「じゃ、じゃあ彼らは自分たちの造りだした人間に依頼しているって訳か? こいつぁ笑える!」
マークはヒ~ヒ~と咳き込みながら大爆笑した。それにベリルも笑いを浮かべる。マークはひとしきり笑うと視線を落とした。
「!」
「君が無事で……本当に良かった」
ベリルは困った顔をして苦笑いで発する。
「今の方が大変ですよ」
「大変?」
「何せ『不死』ですから。何度捕まったか知れない」
「! ああ、それなら僕も調べてみたい」
「冗談でしょう?」
「半分、本気だ」
「言ってくれる」
「ああそうだ」
「?」
マークは思い出したようにつぶやくとメモに何か書き始めた。それをベリルに手渡す。
「……墓地?」
「彼らに会いたいだろう?」
「!」
一瞬ベリルの表情が曇る。
「本当はもっと早くあなたに会いたかったのですが」
「監視が邪魔だったろ」
「ええ。やっといなくなったのでようやく会う事が出来ました」
「30年……か。長かったな」
「そう、長かった」
2人はしばらく沈黙した。互いの視線を交わしそれだけで30年という長い時間を縮めた。
「恋人はいるのかい?」
「! 恋人? いません」
「なんだ、恋人の1人もいないのか」
「興味が無くて」
ベリルは苦笑いを返す。
「君らしいよ」
青年はグラスをテーブルに乗せ静かに立ち上がった。
「! 行くのか」
「ええ。会えてよかった」
言って上着のポケットから小さな箱を取り出した。
「奥様に」
「! ありがとう」
「ネックレスです」
箱の名前を見る。
「これ、かなり高級なやつなんじゃ……」
「独り身だとお金の使いどころが無いんですよ。こういう時にドカッと使わせてもらいました」
笑って言ったベリルにマークは照れながらポケットにしまいこんだ。
ベリルを玄関まで送る。
「また来ます」
「元気でな」
「あら、もうお帰りになるの?」
ローラが買い物から帰ってきた。ベリルは彼女に笑いかける。
「! そうだローラ。彼から君にプレゼントだよ」
彼女が持っている荷物を受け取り箱を手渡した。
「まあ! ありがとう」
「それではお元気で」
「また来てちょうだいね。今度は夕食でもごちそうしますわ」
「ありがとうございます。是非」
「元気でな」
「貴方も」
マークは彼の後ろ姿をいつまでも見送った。
見送ったあと荷物をキッチンのテーブルに置きリビングに向かう。テーブルの上にあるベリルが持ってきたボトルに目を向けた。
「……」
ゆっくりと歩み寄りボトルを両手で握りしめてうずくまる。
「ベリル……よかった」
マークは静かに涙を流した。ずっと心に消えないしこりのように彼を苦しめていた過去がようやく解き放たれた。
これで悔いはない。僕は、はばたく翼をこの目でたったいま見たのだから……マークはいつまでも琥珀色の液体が揺れるボトルを握りしめた。