*心の傷
「ベリル!」
マークはようやく救援に向かった軍のヘリに同行した。
「どこだ!? 返事をしてくれっ」
マークは必死に探し回る。
「ベリ……ル」
まさか奴らに連れ去られたのか? 彼はモルモットにされるのか? そんな事、許さない。荒い息を整えながら宙を睨み付けた。
まだ肌寒いこの季節、放置されていた遺体はあまり腐蝕していない。広い敷地を見回ったがベリルの遺体は無かった。
「やっぱり……連れて行かれたんだろうか」
マークはそんな考えを振り払うように激しく頭を振った。
「!」
ふと遺体の横に……
「花?」
しおれた小さな花が遺体の横に置かれていた。襲撃に来た奴らの服にでも付いていたのだろうか……?
「?」
それをそっと手にとって他の遺体を見る。
「!」
他の遺体にも目立たないが同じような花が添えられていた。
「まさ……か!」
マークは再び走り出した。
数十分後──
「はあ、はぁ、は……っ」
走り回るマークに兵士たちは怪訝な表情を浮かべる。さすがに走りすぎて疲れたのかマークは通路の壁に右肘を付いて大きく溜息を吐き出した。
「ふ、ははは……」
そして笑い出す。笑いながら歩き出し外に出た。
森に囲まれた施設、晴れた空がマークを迎える。涼やかな風を全身に受けマークはへたり込んだ。
「!」
その隣にあの花があった。
「ベリル……生きてるんだな。逃げ延びたんだな」
小さな花を手にとってマークは確信した声になる。全ての遺体に花が添えられてあった。襲撃した奴らがそんな事をするハズがない。
誰がやったか? 決まってる。ベリルだ。
「フ、はは……あははははっ」
マークは嬉しくて草原に体を投げ出した。そしてゆっくりと立ち上がる。
「そうだ、それでいい」
僕たちの事なんか待たなくていいんだ。君は自分のしたい事をすればいい。僕は信じてるから……君ならばきっとその知識を正しい事に使ってくれると。
ベルハース教授。あなたたちは素晴らしいよ。自分たちが犠牲になるかもしれない予測まで立ててベリルの名前を伏せていたなんて。
マークはいつまでも笑いが止まらなかった。
「ここは大きな家族だったんだ……」
ベリルの家族だったんだ。だから彼は花を添えて旅だった。
僕は決して君の名を報告しないよ。君はようやくはばたく事が出来たのだから。それを見届ける事は出来なかったけれど満足してるよ。
君の足で歩き君を生み出したこの世界をその目で見てくれ。君の存在が善か悪かなんて僕たちが決める事じゃあない。
「ベリル……元気でな」
マークは澄み渡る青空を見上げてつぶやいた。