*思い出
「次の視察は来年だけど。何か欲しいものはあるかい?」
「……」
ベリルはしばらく考え込む。
僕は馬鹿な質問をしたかもしれない……と、マークは頭をポリポリかいた。パッと考えれば大抵の物は彼が希望すれば手に入るんだ。
「あの……」
「! なんだい?」
ベリルは少年らしい笑顔でマークに応える。
「あなたの写真が見たいです」
「! 僕のアルバム……? そんなものでいいのかい?」
静かに頷いた。
「OK! 今度持ってくるよ」
アルバム……何故だろう? マークはヘリに乗り込み施設をあとにした。
数日後──
「! どうしたの? あなた」
何かを必死に探していたマークに妻のローラが尋ねた。
「ん……僕のアルバムってどこだったかな」
「アルバムならこっちよ」
ローラはいぶかしげに案内する。
「ああ、あった。よかった」
「突然どうしたの?」
中身を確認しながらマークは嬉しそうに口を開いた。
「アルバムを見たいっていう友達がいてさ。探してたんだ」
「まあ、そうなの」
「! そうだ、君のアルバムも見せていいかい?」
「私の? 恥ずかしいわ」
「そんな事無いさ」
マークは言いながら彼女の額にキスをする。次の視察まで待ちきれなかった。
「! これが……?」
「ああ、そうだよ」
12歳になったベリルはマークが持ってきたアルバムを食い入るように見つめた。チェックの時に止められるかもしれないと思ったが意外とあっさりOKが出た。
「……」
じっくりと眺めるベリルになんだか恥ずかしい気分になる。
「……楽しいかい?」
聞かれてベリルはマークに顔を向けた。
「ええ、とても」
その目は今までで一番輝いて見えた。こんな風に他人の写真を見る人なんていただろうか? どうしてベリルは……?
「!?」
そうか……彼には家族はない。それ処か普通に生まれてすらない。照れた顔の自分を映してくれる相手などいないのだ。
「これはどういった時のものですか?」
「ああ、これはね」
「マークの奥様はとても綺麗な方ですね」
一緒に食事をするマークに嬉しそうにベリルは話しかけた。
「僕の一目惚れさ」
「だと思った」
いつもは食事のマナーを教える教師と2人で食事をするベリル。確かにマナーは完璧だ。12歳とは思えない上品さがある。
「……」
ふいに少年は食事の手を止めた。
「! もういいのかい?」
ベリルは目を伏せて頭を横に振った。そして愁いを帯びた瞳で静かに発する。
「思い出……というものは良いですね」
「え?」
「それが良くも悪くも記憶に残る。私にももちろんあります」
「ベリル……」
「今までの『記録』を見せて欲しい。と言えば見せてはくれます。しかしそれは思い出とは言い難い」
「……」
マークは何も言えなかった。
「思い出はいつも同じ背景です」
そうしてベリルは困ったような笑顔を見せる。
それは……自分の運命を受け入れた笑みだ……
「……」
視察を終えて家のベッドで考え込むマーク。
「あの顔、自分の境遇に悲観してるモノでもない……ただ自分なりに受け入れた。というだけなんだ」
彼は彼なりに自分の出来る範囲の中で人生を楽しもうとしている。
遺伝子を学んだ者として初めは好奇心が先走っていたマークだが現実に直面し、いかに己の考えが愚かだったのか気付いた。
人道的なんてレベルじゃない。
「普通の遺伝子研究してた学生時代の方がはるかに楽だったよ……」
本物の人間の遺伝子を使った実験。成功した結果がこれだ。
「そりゃ考えた事はあったさ。でも想像と現実は……全然違う」
ベリルはもう『成功例』なんかじゃない。
「僕の……友達だ」




