ailes d'ange -2
ここ最近杳は公園に出かける時、誰かに会える気がしてならない。
誰かが待っているような感覚。
時折、散策する自分のそばに何かを感じる。
それが何なのかはわからないが、自分の顔に笑みが浮かんでいる事に気付いて慌てる。
大抵は愛しいという感情と共にやって来る。
不思議なのは、自分が愛しいと思っているのか、自分が愛しいと思われているのか判然としない事だ。
彼女は幼い頃から僅かな気配に気付く事が多かった。
無心で何かをしている時に感じる事が多かったように記憶する。
絵を描いているときやピアノを弾いているとき。
1人で居た筈なのに、誰かが静かに傍に居た気配。
杳は神に祈ったりする子では無かったが、見えない存在を否定する事も無かった。
だからそんな気配を感じても、特に意識する事はなかった。
成長するにつれ、そんな感覚は希薄になったと思っていたのに、昨年辺りからまた頻繁に感じるようになった。
彼女のその感覚は不思議なもので、時折ではあるが、他人の感情まで感じてしまう事がある。
気分が沈みがちで仕事に行く気にもなれない、と朝からだるく感じていた日だった。
午後、上司が長い会議から戻ってきた。
杳は解った。
ああ、彼の気分が流れてきてたのか。
最初は公園の木々の喜びや花の歌うような姿が、自分の感覚や感情に影響を与えているのだと思っていた。
杳は自分の心にもうどんな色彩も映らない事をわかってはいたが、それでも草花の歌や、木々を渡る風が踊るそのざわめきは自分にもまだ感じられるのだと、単純に考えていたのだ。
「俺たちは完全ステルスじゃなきゃならないからな」
ジャックが溜息をつくように言った。
「赤ん坊の頃なら兎も角、成人した人間に気付かれたり見られたら、懲罰ものだ」
ダニエルはうんざりした顔で「わかってる」と答えた。
杳がそれを強く意識したのは初夏だった。
自分の病気が治らないものだと知ってから、どうしようも無い程、生に対する執着が無くなってしまった。
呼吸をするのも億劫になるほど考え出した答えを、実行出来ないまま春が過ぎたそんなある日、何時もの様に帰り道近所の公園に立ち寄った。
視界に木々の青々とした光景が広がった時、ふと何かが心を被って居たものを風に乗せて取り去った様な感覚に包まれた。
実際そうなのだと思っている。
今も鮮やかにその時の光景を思い浮かべる事が出来る。
急に目の前が開け、明るさを増しただけではない。
あんなに鬱々としていた自分の心が軽やかになったのだから。