表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

ailes d'ange -11

 杳の本体は、夢の奥深くでダニエルが言った通りに寝ていた。

 無数に広がった思考の一部が杳の気配を色濃く残したまま、夢を織りなしていたのだ。

 杳自身が自分の夢の中に現れる事は少ないが、皆無と言う訳でもない。

 時々ほんの僅かに現れて、周囲の残滓たちを吸収しては消えて行く。


 そんなある日、ダニエルが一体に目を付けあとをつけていると、その杳の残滓が振り返った。

「何時も側に居てくれる人でしょう?」

 ダニエルはドキリとしたが、それには応えず、周囲の登場人物のように振舞った。

「一度お礼が言いたかったの」

 杳はにっこりと笑った。


 消えてしまう残滓は何処へ行くのか。

 そこに杳が居るのではないだろうか。

 そうは思っていても、どうしてもトレース出来ない。

 ダニエルは諦めたように夢の中を徘徊した。


 空間と空間が重なり合うような、多重露出された写真のような場所に出ると、そこに一匹の犬が居た。

「立ち入り禁止」

 ダニエルは自分に向かってそう言う犬を見た。

 昔彼女が飼っていた犬の面影がある。

 それを無視して進もうとすると、また声がした。

「立ち入り禁止」


 周りを良く見ると、重なった景色の中にドアがある。

 犬の言葉を無視してドアを開けると杳の部屋だった。

「そう言う漠然としてお願いをされても、人ぞれぞれ幸せの定義って違うし、困るんだよね」

 声がする。

 家具に隠れて様子を窺うと、杳の視界ぎりぎりに良く知った気配があり、それが杳に話しかけていた。

 杳はそれを聞きながらも手際よく荷造りをしている。

 現実と同じく荷は少なく、小さな旅行鞄に必要最低限の物だけを詰めていた。

「ああ、この前の初詣の事ね」

 杳はほとんど毎年、初詣の際「みんなが幸せになりますように」と祈る。自分だけ幸せになったとしても、周囲の人が困っていたら、結局幸せではない、と言う事なのだが、どうやらその気配はそれについて愚痴をこぼしているようだ。


 神に願いを叶える気が有るなら、幾らでも伝えるさ。

 ダニエルは思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ