ailes d'ange -10
「どうだ、何かわかったか」
数日後ジャックが来た。
「いや。
ただ、夢なのに妙にリアルなんだ」
ダニエルはジャックがまめに自分の所に来る事を心配した。
「大丈夫だ。
うちの人は驚くほど何も無いから」
確かにそうでなければ、ダニエルの監視自体が無理だろう。
と言う事は、ある程度判るのだろうか。
何かが起こりそうな人間と、平平凡凡と波風無く過ごせそうな人間が。
「たまたまだろ」
ジャックは言った。
「接敵不可能ってところだ」
ダニエルが溜息をつく。
「おいおい、敵じゃないだろ」
ジャックは笑った。
「ここまで本体が見えないと、流石に焦る」
杳の残滓たちは、分離分裂を繰り返しても杳の気配を強く残すものが多い。
分裂して薄くなると言うより、そのままコピーを作り出しているようだ。
どれをトレースすれば本体に近づけるのかわからない。
目をつけた残滓を追いかけても、いきなり何もない空間へ入り、それ自体も気配も消える。
「夢の中で本体は夢を見ていないのか」
ジャックが呟くと、ダニエルは真面目な顔で言った。
「ああ、そうかもな」
「そんな事ってあるのか」
「さあ」
「じゃあ誰が複製に夢を見させ、新たな複製を製造してるんだ」
ダニエルは暫く考えて言った。
「脳が作る一定のパターンに簡単なアルゴリズムを組んであるとか」
そう言いながらダニエルは夢の中に、ロボットやアンドロイドなどが度々出てくる事を思い出した。
かと言って、その夢が夢らしいかと言うとそうでは無く、かなり現実的である。
「そうであったとしてもだ、本体はどこで何をしているんだ」
「さあ。寝てるのかな」
ジャックの問いにダニエルは疲れたように答えた。
「何処に居るんだろうな」
ジャックは続けた。
「本体が見つかりませんと報告するか」
「もう暫く待ってくれ」
ジャックはダニエルの顔を見ると、頷いた。