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鏡像の私が哂ったので

作者: ちと
掲載日:2026/04/16

ひとつの狙いを上手く書けるか否かが掌編小説の難しいところであると思ってる。

 ある日の昼さがり、私が洗面所で鏡を確認すると、鏡の中の私が哂っていた。

「何がそんなにおかしいのかね」

 私は不機嫌になって意地悪く尋ねた。

「何も。何も。逆に聞くがね——」とますます愉快だと言わんばかりに鏡像は笑った。

「何故、そう不機嫌なのかい」

 私は震える拳を振り上げて、鏡の中の私に一発喰らわせてやろうとした。鏡像の私は笑い声を上げながら、鏡の中から飛び出てすぐさま逃げ出した。

 カチコチ、時計の音が鳴る。

 私は彼を追う。

 カチコチ、時計の音が鳴る。

 私は彼をとッ捕まえて、引き倒す。

 カチコチ、時計の音が鳴る。

 私は彼とくんずほぐれつ、殴る蹴るの大騒ぎ。

 カチコチ、時計の音が鳴る。

 私は涙目の彼が、私を押しのけ押しのけ、鏡の中へと逃げ込むのを見ている。

 カチコチ、時計の音が鳴る。

 鏡の中の私は、不貞腐れている。

 私はそれを見て哂っている。

 鏡の中の私が非難がましく問いかける。

「何がそんなにおかしいのかね」


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