そして旅立ちへ(第1部完)
円形の広間での戦いを終え、俺たちは戦いの報告と、迷宮での成果を王に伝えに城へ来ていた。
「アルフレッド様、無事でしたか……!」
王宮の門をくぐると、護衛たちが驚きと安堵の入り混じった表情で出迎える。
アルフレッドは彼らに律儀に一礼を返すと、迷うことのない足取りで謁見の間へと進み出た。
「陛下。第三十層の攻略、完了いたしました。得られた戦果、および迷宮の深淵にて目にしたすべてを、ここに報告いたします」
玉座に鎮座する王は、俺たちの言葉一つひとつを噛み締めるように聞き入っていた。
前線を支え抜いた戦士としての逞しさ、深淵の理に触れた賢者の魔力、そして奇跡を体現し続ける聖女の祈り――。
王はその鋭い眼光で、俺たちの魂に刻まれた「変化」を見抜いたのだろう。
「……そうか。貴殿らはすでに、新たな階梯に手をかけておるのだな」
王は深く玉座に腰を沈め、満足げに、どこか誇らしげに頷いた。
「して……これよりはどう動くつもりだ?」
「魔王の顕現は未だ確認されておりません。ですが、各地で不穏な異変が相次いでいると聞き及んでおります」
アルフレッドの声は静かだが、鋼のような決意を秘めていた。
「我らはこれより大陸を巡ります。苦しむ人々に手を差し伸べ、来たるべき決戦に備え、己をさらに研鑽するつもりです」
それは、彼が以前から抱いていた信念だった。
アルフレッドは何より、勇者は人々と共にある存在だと思っている。
だからまずは、目の前で助けを求める者を救うことが、未来の決戦に向けた第一歩だと信じているのだ。
もちろん、俺自身には別の狙いもあった。
各地には勇者装備の伝説が散らばっている――その力を、決戦の前に集めておきたい。
それが、仲間と世界を守るための準備になるのだから。
王の前での報告を終えると、俺たちは城を後にした。
城門をくぐると、空はまだ明るく、柔らかな風が吹いていた。
その風が、これからの旅路を優しく、しかし確実に後押ししてくれているように思えた。
「これで正式に勇者パーティーに加入ですね!」
セラフィーナが珍しくはしゃいでいる。
両手で地図を広げながら、目を輝かせるその姿は、いつもの落ち着きからは想像できないほどだった。
「まずは大陸の西。海沿いの街道を目指そうと思っています」
アルフレッドが仲間たちに向けて声をかける。
「そういえばクレハはこれからどうするんだ?」
「……ニャ?」
突然の質問に、クレハはビックリした表情を浮かべる。
「もちろん勝手についていくニャ!」
胸を張り、誇らしげに言い切る彼女に、フィリアが軽く肩を竦めた。
「あなた、そんなこと言っていいの?私たちの目的は魔王討伐よ?」
「関係ないニャ!仲間に入る気はないけど、協力はするニャ!」
それを聞いて、シャオはくすりと笑った。
「まあ、仕事であれば手伝いますよ」とだけ短く答える。
彼の表情はいつも通り無表情だが、目の奥に確かな覚悟が光っていた。
俺はクレハの尻尾の動きやセラフィーナのわくわくした表情を見ながら、少し微笑む。
こうして仲間と共に歩き出す一歩は、何よりも心強いものだ。
まだ見ぬ冒険と、これから待ち受ける試練を胸に、俺たちは歩き出した。
――――
港町の広場の片隅、誰も気付かぬように二人の影が揺れる。
双子の女――占い師のミランダと、踊り子のレナリア。
「ようやく私たちの出番のようね」
「ええ、姉さん」
その瞳は、柔らかな光の中にも暗い影を宿していた。
表向きは平和を楽しむかのような微笑みを見せるが、裏ではこの世界の“深部”に手を伸ばす計画を進めている。
まだ物語は序盤に過ぎない。
光と影、勇気と陰謀が交錯する大陸の旅路は、ここからさらに深く、複雑に動き出す――。
城を遠くに背負い、海風に髪を揺らしながら、俺たちは未来へと進む。
まだ見ぬ仲間、まだ知らぬ敵、そして未知の試練。
すべてが、これからの物語を形作っていくのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 これにて第1部「迷宮踏破編」は完結となります。
「勇者が、ちゃんと勇者している物語が読みたい」 そんな思いをきっかけに書き始めた作品ですが、ようやく一行を広い世界へ送り出すことができました。
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新作もありますのでよろしければどうぞ。
ナニカが視える俺と、ナニカが分かる君
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