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正統派王道RPGの世界~戦士はだいたい苦労役~  作者: あどん


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第27話:【勇者】と静寂の三十層

その広間は、圧倒的なまでに静まり返っていた。 ここまで耳にこびりついていた魔物の咆哮や戦いの喧騒、そして自分たちの荒い呼吸音すら、ここでは不自然なほどに吸い込まれて消えていく。ただ、肌を刺すような冷え切った空気だけが、重く、よどんでいた。


思わず背筋が伸びる。 まるで、この空間そのものが巨大な一つの意思を持ち、侵入者である俺たちを冷徹に値踏みしているかのようだった。


広間の中央には、祭壇と思わしき巨大な台座が鎮座している。 黒ずんだ石で組まれたそれは、長い年月を経て角が摩耗しているはずなのに、不思議と他を圧倒する威圧感だけは失っていない。その上には、一文字の亀裂も許さぬ古びた石板が、一枚だけ静かに据えられていた。


刻まれている文字は、俺には読めない。 だが、それがただの飾りではないことは理屈抜きで理解できた。この三十層という節目に置かれている以上、それは重要な――あるいは、致死的な何かだ。


「ここが……三十層……」


フィリアが小さく息を呑む。 声を抑えているはずなのに、この真空に近い静寂の中ではやけに鋭く響いた。


俺は一度、深く肺に空気を溜め、ゆっくりと吐き出してから後ろを振り返った。


アルフレッド。 背筋を正し、剣の柄に自然な所作で手を添えている。表情はいでいるが、その双眸の奥には、濁りのない決死の覚悟が宿っていた。


フィリア。 杖を胸の前で抱きしめ、視線を忙しなく巡らせている。魔力の揺らぎを敏感に感じ取っているのか、その指先はわずかに震えながらも、呪文をいつでも紡げる準備を整えていた。


セラフィーナ。 祈るように瞼を閉じ、一瞬だけ小さく頷く。この場所が“聖”に満ちているか、あるいは“邪”に侵されているかを、魂の深部で見極めているのだろう。


クレハ。 耳をぴくりと動かし、尻尾を低く構えて重心を落としている。いつもの軽口はなく、獣人としての鋭敏な本能が、ここを「絶対的な危険地帯」だと告げているのが、その毛並みの逆立ちから伝わってきた。


そして――。


壁際に寄りかかるように佇むシャオ。 気配を完全に消し、影そのものと化したようなその存在感。俺が視線を送ると、彼はいつもの無表情のまま、短く顎を引いた。


「異常なし。敵影も……感知できない。ただし……空間が“鳴って”いる。嫌な感じだ」

「鳴っている……?」


フィリアが怪訝そうに首を傾げる。


「説明しにくい。だが、この先は――層のルールそのものが書き換わる」


シャオはそう告げると、階段の先に広がる濃密な闇を見つめ、静かに歩を進めた。 その後を、俺たちも一歩ずつ追っていく。


足音が、硬い石段に跳ね返る。 誰も喋らない。ただ、革の靴底が擦れる規則正しい音だけが、不気味なリズムを刻んでいた。


第二十九層までとは、完全に別の世界だ。 空気の密度、重力、魔素の質。すべてが今までとは比較にならないほどの“質量”を持って、俺たちの肩にのしかかってくる。


やがて、巨大な扉の前にたどり着いた。 黒曜石のような艶を持つ、未知の金属製の門。縁には禍々しくも美しい古代文字が刻まれ、左右には二体の巨大な守護像が立ちはだかっていた。 竜の鱗を思わせる質感の像は、どちらも長槍を構え、侵入者を一歩も通さぬという意志を持って門を護持している。


「着きましたね。ここが継承の迷宮の、最初の終着点――。この先がどうなっているかは、私にも分かりません」


セラフィーナが祈るように両手を合わせる。


「そういえば、クレハが言ってた『獣人の伝説の武器』ってのも、この先にあるのか?」


俺が水を向けると、クレハは強気な笑みを浮かべて胸を張った。


「ニャ? 当たり前ニャ。ウチの勘が、この奥で眠ってるって言ってるニャ!」

「なんだ。本当に目的地まで一緒だったのね」

「ふ、ふんっ! 勘違いするなニャ! 伝説の武器を手に入れたら、あんたたちを置いてさっさと一人で先に進むんだからニャ!」


そう言って尻尾を逆立てるクレハを見て、フィリアがようやく苦笑を漏らした。


「クレハってば、すぐそうやって意地を張るんだから」


セラフィーナも、花が綻ぶように微笑む。


「ふふ、でも、そういう素直になれないところがクレハさんの可愛らしいところですわね」

「ニャア! 可愛いとか言われても全然嬉しくないニャ!」


張り詰めていた空気が、彼女の怒声でほんのわずかに和らいだ。


「さて……そろそろ行こうか」


アルフレッドが前を向く。ここまで来た以上、引き返すという選択肢は、俺たちの誰の心にも存在しなかった。


三十層。 この先に待つものが、神の祝福なのか、悪魔の試練なのか――あるいは。


「行こう」


俺の言葉に、全員が無言で頷いた。


アルフレッドが扉に手をかざすと、地響きのような重低音とともに、巨大な門がゆっくりと、深淵へと向かって開いていった。

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