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正統派王道RPGの世界~戦士はだいたい苦労役~  作者: あどん


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第25話:笑う筋肉の【商人】

継承の迷宮から帰還した俺たちは、夕暮れ前には王都の土を踏んでいた。 宿の個室で装備を外すと、蓄積した疲労の色が目に見えて現れる。剣の微細な刃こぼれ、盾の縁に生じた歪み、鎧の継ぎ目に走る無数の亀裂。


「……やっぱり、相当酷使してたんだな」


盾の表面を指でなぞると、魔物の爪痕や衝撃で削れた傷がびっしりと刻まれている。裏打ちされた衝撃吸収材も、所々が剥げ落ちていた。


「これほどの消耗ぶりでは、装備の寿命も近いかもしれません」


セラフィーナが防具の状態を確認し、穏やかに、しかし深刻に頷く。


「深層に耐えうる新しい大盾……となると、安く見積もっても金貨二十枚は下らないでしょうね」

「ああ……今の貯えだと、正直かなり厳しいな――」


その時だった。 宿の重い木扉が豪快に蹴り開けられ、鼓膜を震わせるような野太い声が室内に響き渡った。


「やれやれ、ようやく見つけたぜ。テオ坊!」


現れたのは、視界を塞がんばかりの巨漢だった。 眼鏡をかけ、仕立ての良い服を着た丸みのある体型。だが、その布地の下には岩石のような筋肉が詰まっていることが一目で分かる。男は豪快に笑いながら、俺に向かって太い腕を上げた。


「バロンさん……!? なんで王都に?」


懐かしさと困惑が交錯し、俺は思わず立ち上がる。


「おう。久しぶりだなぁテオ坊! 相変わらずヒョロっとしてやがるが、顔つきは良くなったじゃねぇか」

「だから……もう坊はやめてくださいって。俺もこれでも15歳。【ロール】だって貰ってるんです」


苦笑しながら訂正するが、バロンは意に介さず、白く輝く歯を見せて笑う。


「いいや。お前は俺にとっちゃ、あのハロルドの泣き虫息子、テオ坊のままだ」


バロンさんは、俺の親父――ハロルドが若かりし頃に組んでいた冒険者パーティーの一人だ。俺が幼い頃、彼はよく家に遊びに来ては、親父と一緒に朝まで泥酔していた。今は引退して商会を営んでいると聞いていたが。


「……ものすごい迫力ですわね。商人というより、オークを素手で絞め殺しそうですが」


セラフィーナがやや引き気味に呟くと、バロンは自慢げに胸を張った。


「だろ? お嬢ちゃん、これが『商人の筋肉』だ! 悪どい交渉も、最後はフィジカルが物を言うからな!」


「……商人?」


クレハが不思議そうに首を傾げた。バロンはその耳と尻尾を一目見るなり、鑑定士のような鋭い目で細めた。


「ほう……獣人の武闘家か。柔軟でいて芯の通った、いい筋肉をしてる。そこの勇者の若造より見込みがあるぞ」

「なっ……! いきなり何ニャ、このおっさん!」


クレハが毛を逆立てるより早く、バロンは俺に視線を戻した。


「聞いたぜテオ坊! なんでも勇者パーティーのメインタンクを張ってるんだってなぁ!」

「まあ……いろいろ縁がありまして」

「そいつは最高だ。親父が生きてりゃ腰を抜かして喜んだだろうぜ」

「いやいや、死んでないし」


ひとしきり俺を褒めちぎった後、バロンは床に置かれた俺の装備一式を見渡した。その瞬間、商人の眼光が鋭く光る。


「やれやれ、随分と無茶な使い方をしてやがるな。だが……まだ『装備の命』までは使い切っちゃいねぇ。限界を見極め、ギリギリで守り切る。その道具の扱い方、まさに親父譲りだ」

「……ありがとうございます」

「だが、三十層。いや、その先を目指すにゃ今の装備じゃ役不足だ。……買い替えの金に悩んでる顔だな?」

「お見通しですか。良いものを揃えたいんですが、予算が追いつかなくて」


バロンさんは一瞬考え込むように顎をさすると、不敵ににやりと笑った。


「よし! 合点だ! テオ坊、お前に投資してやる。これを持っていけ!」


そう言って彼が付き人に持ってこさせたのは、重厚な漆黒の盾に、ミスリル配合のプレートアーマー。いずれも現在の俺の装備より、二ランク……いや、三ランクは格上の逸品だ。


「えっ!? ちょっとおじさん、これタダでくれるの!?」


フィリアが驚愕して叫ぶ。バロンはガハハと笑い飛ばした。


「んなわけあるか! 俺を誰だと思ってやがる。……代金は金貨百枚だ!」


「ひゃ……っ!? さすがに払えませんよバロンさん!」


俺は冷や汗をかいて首を振る。だが、バロンは俺の背中を、骨が折れんばかりの力でバンと叩いた。


「わかっとるわ! 今すぐ払えとは言ってねぇ。……出世払いだ!」

「え……いいんですか? 商売あがったりでしょう」


「バカ言え。これは俺とハロルドの友情の証だ。それに、お前さんはあの勇者の隣で盾を構えてるんだろ? 将来性は抜群、投資先としちゃ最高だ」


バロンは冗談めかして笑い、最後に真剣な目を俺に向けた。


「代金は、いずれ倍にして返せ。だから……必ず生きて戻って来いよ、テオ坊!」


バロンの豪快な笑い声が、狭い個室にいつまでも響いていた。

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