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正統派王道RPGの世界~戦士はだいたい苦労役~  作者: あどん


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17/21

第17話:【盗賊】という空白を求めて

第五層からの撤退を決めた、翌日のことだ。 俺たちは迷宮から戻ると、休息もそこそこに、王都の冒険者ギルドへと足を運んでいた。


昼下がりのギルドは、相変わらずの熱気と喧騒に包まれている。 酒場スペースでは粗野な冒険者たちが下品な笑い声を上げ、依頼掲示板の前では新人らしき若者たちが、食い入るように依頼書を睨みつけている。


「勇者様、お待ちしておりました。こちらへ」


顔なじみの受付嬢に促され、俺たちは奥の相談窓口へと通された。


「用件は……聞くまでもないか」


応対に出てきたのは、白髪混じりの年配職員だった。 使い込まれた革張りの手帳と、周囲を鋭く観察するその眼差しから、現場の酸いも甘いも噛み分け、事務方まで知り尽くしている熟練者であることが分かる。


「腕のいい【盗賊スカウト】を探している」


俺が単刀直入に切り出すと、職員は一瞬だけ目を細めた。


「……なるほど。継承の迷宮か」


昨日の撤退劇を含め、俺たちの状況はすでにギルド内でも共有されているらしい。情報は武器であり、生存に直結する。そのスピード感はさすがだ。


「正直に言おう。迷宮の中層以上を歩けるスカウトは、例外なくどこかのパーティーに囲い込まれている。この業界じゃ、戦士より先に埋まる希少職種だからな」

「無理に引き抜くのは、ギルドとしても推奨しない……ということですね」

「そうだ。引き抜きは遺恨を生む。依頼をこなす前に刺し合いになっちゃ世話ねえ」


現実は甘くない。 『勇者』という看板があれば、都合よく有能な人材が列をなして集まってくる。なんてゲームのような展開は……。


「だが――」


職員はそこで、少しだけ声を潜めた。


「一人だけ、例外がいる。事情があって、今は単独で動いている奴だ」


俺たちは自然と身を乗り出した。


「無口な奴だ。愛想は壊滅的だが、仕事は確実だ。特に罠の探知と解除の精度に関しては、ギルドとしても折り紙付きだと言える」

「ソロ、ですか?」

「ああ。少し前、組んでいたパーティーが迷宮で崩壊してな。それ以来、一人で小規模な依頼だけをこなしている」


フィリアが不安そうに、小さく首を傾げた。


「性格に、問題がある人なの……?」

「極端な人見知りと、独特な距離感があるだけだ。素行に問題はない。……だからこそ、ギルドとしてもこのまま腐らせておくのは惜しいと思っていてな」


一瞬の沈黙。


「……会わせてもらえますか?」


セラフィーナの静かな問いに、職員は迷うことなく頷いた。


「ああ。ちょうど今、戻ってきているはずだ。正式な斡旋という形で引き合わせよう。互いに条件が合えば、そのまま組め」


それを聞いて、アルフレッドが静かに、安堵の笑みを浮かべた。


「少し待っていろ」


職員は席を立つと、奥の控え室で他の職員と短く言葉を交わす。 俺たちは黙って、その様子を見守った。


「件のスカウトは、話を聞くそうだ。……っと、もう来たか」


その時。 受付の奥にある薄暗い通路から、音もなく小さな人影が現れた。


小柄で細身の体躯。灰色のフード付きケープを深く被り、その輪郭を隠している。 フードの隙間から覗くのは、日焼けした褐色の肌と、どこか猫を思わせる冷涼な翡翠色の瞳。 表情を一切変えぬまま、カウンター越しにこちらを値踏みするように一瞥した。


「……」


挨拶も、名乗りもない。 ただそこに立っているだけで、周囲の空気が急速に冷え、張り詰めるのを感じた。


(この子が……)


俺たちは自然と口を閉ざした。 何も語らずとも、その立ち居振る舞いだけで「本物」だと分かってしまう。 沈黙に耐えかねたように、受付職員が咳払いをして仲介に入った。


「シャオだ。【盗賊】のロールを持つ中堅冒険者。腕は私が保証する」


シャオは微かに頭を下げたが、やはり口を開こうとはしない。


「シャオ、お前に仕事だ。見ての通り勇者パーティー。お前の腕が必要だそうだ」


その言葉に、シャオはわずかに眉をピクリと動かし、短く吐き捨てた。


「……条件は?」


それが、シャオが発した最初の言葉だった。 凍てつくように冷たいが、同時に甘さを一切排除した、プロフェッショナルの響きがそこにはあった。

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