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正統派王道RPGの世界~戦士はだいたい苦労役~  作者: あどん


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第15話:【僧侶】の仕事は回復だけじゃない

第二層へと続く階段を下りると、通路の幅が僅かに狭まり、天井に設置された魔石灯の数もまばらになっていた。 それでも極端な暗さを感じさせないのは、迷宮全体に淡い燐光が漂うよう設計されているからだろう。


十分に明るい――だが、その分、影が薄い。 物陰に潜伏される心配は少ないが、逆に空間の奥行きが掴みづらく、気配の変化に乏しい。前衛を務める身としては、あまり好みの構造ではなかった。


「モンスターの種類が変わってきたな」


俺は盾を構えたまま、陣形を維持して呟いた。 先程から遭遇しているのは「コボルド」――犬の頭部を持つ、狡猾な二足歩行の魔物だ。 ゴブリンよりも知能が高く、錆びた剣や粗末な盾を使いこなす個体も混じっている。


知能があるということは、学習するということだ。 単純な力押しは通用しにくくなり、こちらが隙を見せれば即座に背後へ回り込もうとしてくる。油断すれば、包囲されるのはあっという間だろう。


今のところは、アルフレッドの鋭い剣捌きと俺の牽制で問題なく対処できていたが。


「ですが、被弾の頻度が上がっていますわね」


後方から冷静な声が飛ぶ。セラフィーナだ。 彼女の視線は、ただ前方を見ているだけではない。俺たち全員の挙動を、冷徹なまでに観察していた。


傷の有無だけではない。 剣を振るう速度の鈍り、盾を構える高さの僅かなズレ、疲労による足運びの乱れ。 誰が、どのタイミングで余裕を失いかけているかを、実戦の中で正確に拾い上げている。


「無理は禁物です。……次、来ますわ」


その警告の直後、通路の曲がり角から複数の足音が重なった。


「来るって――」


問い返す間もなく、三匹のコボルドが殺到してくる。 俺が盾を突き出そうとした瞬間、足元に幾何学的な光の紋様が広がった。


「《聖域展開サンクチュアリ》」


短い詠唱。 俺たちの周囲に刻まれた簡易結界が、大気を震わせて展開される。 敵の突進を受け止めた瞬間、俺は奇妙な違和感に気づいた。


(……軽い。衝撃が死んでるのか?)


盾越しに伝わるはずの重い衝撃が、届く直前に霧散したような感覚。 これは単なる治癒ではない。戦わせ続けるための「支援バフ」だ。


「防御力と反応速度、僅かに底上げしていますわ」


激しい戦闘の真っ最中に、精密な魔力操作を並行して行うのは容易ではない。 だが、彼女はそれを呼吸をするように、当たり前の所作としてやってのけている。


「助かる、攻めるぞ!」


俺が正面の敵を圧壊させ、アルフレッドがその隙に横から一閃。 さらにフィリアの魔法が後方からトドメを刺し、敵の群れは一気に瓦解した。


第三層に入ると、戦闘の密度はさらに跳ね上がった。 通路は複雑に入り組み、視界の切り替わりが異常に早い。


曲がり角を抜けた刹那、左右の死角から影が動いた。 数は五。反応が一拍遅れれば、脆弱な後衛に牙が届く距離。


「前、左を押さえて。右が薄いわ!」

「了解!」


セラフィーナの声が、混乱しがちな戦場を瞬時に整理していく。 誰が前に出すぎているか、誰が無理を承知で踏み込もうとしているか。 彼女はそれらを一瞬で把握し、最適解となる言葉だけを投げてくる。


「《回復の聖光ヒール》」


光が走り、俺の腕に走った浅い傷が即座に塞がる。


「《範囲防御エリアガード》、三十秒維持します!」


俺たちの周囲を包み込む、目に見えない防御の膜。 これがあれば、たとえ多少の被弾を許しても致命傷には至らない。


「今のうちに数を減らして!」


フィリアの氷結魔法が敵の足を止め、俺とアルフレッドが確実に仕留めていく。 戦闘自体は苛烈だ。 だが、不思議と隊列が崩れる気配は微塵もなかった。


(……安定感が、さっきまでと段違いだ)


敵が弱いわけではない。 それでも、敗北という不安が入り込む隙間が、どこにも見当たらないのだ。


剣を振るいながら、俺はその理由を探した。 だが、この時点ではまだ、明確な言葉にはならなかった。


戦闘が終わり、通路に束の間の静寂が戻る。


「……なんか、やけに楽だったな」


アルフレッドが、剣の血を拭いながらぽつりと言った。


「俺もそう思った」


俺が答えると、彼は少し考えてから言葉を継ぐ。


「体が軽いっていうより……判断を迷わずに済んだ感じだ」


その言葉で、俺の中でようやく全てのピースが噛み合った。


「そう? いつも通りに務めたまでですわ」


セラフィーナは不思議そうに首を傾げる。


「いや……」


俺は一度息を吐き、彼女を見据えた。


「ただ傷を治してるだけじゃない。俺たちの判断が鈍る前に、お前が全部、状況を立て直してくれてるんだ」


一瞬、彼女は驚いたように目を瞬かせ――そして、くすぐったそうに小さく笑った。


「倒れる前に、支える。……それが、私の考える僧侶の仕事ですから」


その言い方は、あまりにも自然で、誇らしげだった。


その瞬間、俺は理解した。 僧侶の真価は、傷を癒やすことだけにあるのではない。 迷宮という極限状態で、最も脆く、最も先に崩れやすいもの―― すなわち、仲間の『判断』と『隊列』、その両方を背後から支え続けること。


彼女が後ろにいる。 だからこそ、俺たちは迷うことなく、死地へと一歩を踏み出せるのだ。

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