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正統派王道RPGの世界~戦士はだいたい苦労役~  作者: あどん


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第13話:【僧侶】はまだ戦場を知らない

それから数日間、俺たちは準備に明け暮れた。 王都随一と名高い“竜鋼工房”に赴き、武器と防具のメンテナンス、そして新調を依頼する。 店主は俺たちの姿を認めるなり、「ほう……【勇者】一行か!」と、商売人らしい鋭い光を瞳に宿した。


「素材はどうしやす? 竜鱗りゅうりんに水晶獣の爪、あるいは魔銀ミスリルも在庫がありやすぜ!」 「いや……そこまでの業物はまだ必要ない」


ジークヴァルトが淡々と、しかし撥ね付けるように答えると、店主は目に見えて落胆したように肩を落とした。 フィリアが不安そうに、俺の耳元でささやく。


「ねえ、もっと高いものじゃなくていいの? ケチって死んだら笑えないわよ」 「そりゃあ、良い物の方がいいに決まってるさ。でも予算は有限だからな……」


いくら王家が支援してくれるといっても、打出の小槌こづちではない。幸い、今回挑む『継承の迷宮』は三十層までは一般に開放されている場所だ。ある程度のデータは揃っている。 まずは手堅い装備で三十層までを駆け抜け、そこで浮かせた金を使って、未知の領域である「洗礼」の前に装備を最高級に更新する。それが、かつて数々のRPGを渡り歩いた俺の導き出した最適解だ。


俺は防具の棚を眺めながら、しばし思案にふける。 (軽量化を重視した革鎧か、あるいは防御力に全振りした金属鎧か……) 戦士タンクとしての立ち回りを考えれば、動きやすさと安全性のバランスは死活問題だ。俺が唸りながら悩んでいると、隣にいたセラフィーナが鈴を転がすような声で言った。


「無理に高価な一点物を揃えずとも、よいと思います。迷宮の中では装備の消耗も激しいですし、気兼ねなく使い潰せる実用本位の物の方が、かえって動きを縛られないかもしれません」


「……全くだ。特に入り口に近い階層なら、これで十分だろう」


結局、俺は鉄板を仕込んだ軽量のスタデッドレザーを選択。フィリアは魔力伝導率に優れたかしの杖とマント。アルフレッドは聖銀シルバーを用いた特注のロングソード。セラフィーナは結界の強度を底上げする宝飾品を中心に購入した。


あわせて食料品やポーション類も大量に買い込む。ちなみに【勇者】には【無限収納アイテムボックス】のスキルがあるため、運搬の苦労がないのは非常に助かる。


準備を終え、宿舎で荷物整理をしていると、アルフレッドが隣に腰を下ろした。


「テオドール、ちょっといいかな」

「なんだ? 改まって」

「……実は僕、少しだけ不安なんだ」


珍しく弱音を零すアルフレッド。だが、彼はすぐにいつもの眩しい微笑みを浮かべた。

「でも、同時に楽しみでもある。僕たちはまだ未熟だけど、この試練を越えれば、きっと本当の仲間になれる気がするんだ」

「……そうだな」

「だから、これからも支えてくれ」


彼の真っ直ぐな瞳に見つめられると、どうにも居心地が悪くなってそっぽを向く。 すると、その様子をフィリアがニヤニヤと眺めていた。


「なんだよ、文句あるか!」

「ううん、別にー? 友情ねえ、って思って!」


フィリアは楽しそうに笑いながら、逃げるように部屋を出ていった。まったく、あいつは……。 そんな騒がしくも温かい日常を経て、いよいよ出発の朝が迫っていた。


ーーー


その夜。 遠足前の子供のような高揚と、拭いきれない不安のせいで眠れなくなった俺は、鍛錬場の隅にある水飲み場へと向かった。 冷たい水で喉を潤し、ふと顔を上げると――。 月明かりの下、ベンチに腰掛けて夜空を仰ぐセラフィーナの姿を見つけた。


「眠れないのか?」


声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを振り返った。


「テオドールさん……」


その横顔には、昼間には見せなかった深いかげりがあった。


「明日からは、本物の戦場です。私が、神殿の期待通りに役目を果たせるのか……どうしても、自信が持てなくて」


膝の上で組まれた彼女の指先が、微かに震えている。


「神殿では、祈りと修練の日々でした。けれど、実際に返り血を浴び、命のやり取りをすると考えたら……」

「怖いよな。俺だって同じだ」


俺の言葉に、彼女は意外そうな顔をした。


「俺だって、死ぬかもしれないと思うと恐ろしくてしょうがない。前世……いや、昔から臆病なんだよ」


俺は星空を見上げながら、言葉を継いだ。


「だからこそ、一人で抱え込まずに周りを頼るんだ。勇者パーティーってのは、欠点を補い合うためのチームだろ。お前が震えてるときは、俺が盾を構えて前に立つ。それでいいじゃないか」


セラフィーナの目から、徐々に迷いの色が消えていく。


「……そうですね。私、難しく考えすぎていたかもしれません」


彼女は微笑んだ。聖女の仮面を脱いだ、ただの少女らしい柔らかな笑顔だった。


「私も、皆さんを信じます。そして、皆さんと一緒に未来を歩いて行きたいです」

「その意気だ」


俺は軽く拳を突き出した。 セラフィーナも少し戸惑ったあと、そっと手を伸ばし、俺の拳に自分の拳を合わせた。


それは、新しい仲間との「共犯関係」の証のような気がした。 この戦いは、一人では絶対に勝てない。全員で生き延びるために、俺たちは一つになる。

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