第11話:【僧侶】、洗礼への同行者
アルミラ姫が、優雅に、しかしどこか重々しい響きを伴って拍手をした。
「素晴らしい。これで四人のパーティーが結成されましたね。ですが――一つ、看過できない問題があるのです」
「問題、ですか?」
俺の問いかけに、アルミラ姫は柔らかな微笑を収め、その端正な顔立ちを引き締めた。
「彼女は神殿の秘蔵っ子。……正直に申し上げれば、勇者パーティーへの同行を快く思わない保守派も少なくありません」
その言葉に、場の空気がわずかに張り詰める。 当のセラフィーナは驚いた様子も見せず、ただ静かに両手を胸元で重ね、運命を受け入れるかのように佇んでいた。
「神殿にとって【聖女候補】とは、国そのものの象徴。死地を巡る戦いの旅に同行させるなど前例が少なく、反発が出るのも無理はありませんわ」
アルミラ姫は一度言葉を切り、俺たち一人ひとりの顔を射抜くように見渡した。
「だからこそ――抗いようのない“正当性”が必要なのです」
「正当性……?」
「ええ」
姫は静かに頷き、その瞳に強い光を宿して続けた。
「“継承の迷宮”に挑んでいただきたいのです」
「継承の迷宮……?」
思わず聞き返すと、アルミラ姫は少しだけ遠くを見るような、懐かしむような表情を浮かべた。
「正式名称は、王都管理第七地下迷宮。ですが、人々は敬意と畏怖を込めて“継承の迷宮”と呼びます」
「歴代の勇者が、旅の始まりに必ず挑んだ場所……でしたね」
アルフレッドの言葉に、姫は肯定を返した。
「その通りです。この迷宮は王都の直下に広がる巨大な訓練遺構で、三十層までは一般の冒険者にも開放されています。ですが――」
「そこから先が、本番というわけか」
俺が先を促すと、姫は意味深に微笑んだ。
「ええ。三十層よりその先は、【認められた者】のみが入場を許される聖域。迷宮そのものが意志を持ち、挑戦者の資格を問うとさえ言われていますわ」
選ぶ、か。 ただの訓練場なら「第七迷宮」なんて呼び方で十分なはずだ。わざわざ「継承」と呼ぶからには、そこには数値化できない“何か”があるのだろう。
「最下層で受ける“洗礼”の内容は、詳細な記録が残されていません。ただ……」
アルミラ姫の声が、わずかに低く沈む。
「洗礼を受けた歴代の勇者は例外なく、劇的な成長を遂げています。力としての能力だけでなく、自らの宿命を受け入れるだけの『覚悟』も含めて、です」
なるほど。神殿の老いぼれたちを黙らせるには、これ以上ない舞台だ。勇者としての「質」を証明してみせろ、ということか。
「……わかりました」
アルフレッドが、迷いなく一歩前に出た。
「我々一同、全身全霊でその試練に臨む所存です」
「ありがとうございます。その言葉を待っておりました」
姫は安堵したように胸をなでおろした。 その時だった。
セラフィーナが、静かに、しかし確かな意志を伴って歩み出た。
「……あの」
控えめだが、広間に凛と響く声だった。
「私自身、この旅が決して容易なものではないと理解しております。それでも――」
彼女は真っ直ぐにアルフレッドを、そして俺たちを見つめる。
「勇者様と共に歩み、共に試練を越えたいと切に願っております。どうか、私にもその機会をお与えください」
その瞳に宿る決意は、本物だった。 彼女はただ用意された席に座るだけの僧侶ではない。自ら濁流に身を投じ、その手で運命を掴み取る覚悟を、とうに決めていたのだ。
(……なるほどな)
俺は内心で小さく息を吐いた。 この洗礼は勇者のためだけじゃない。 セラフィーナ自身が、周囲の雑音を断ち切り、“選ばれるべき聖女”になるための儀式でもあるのだ。
アルミラ姫は満足そうに頷いた。
「その覚悟があるのなら、もう案ずることはありません。明日より直ちに準備にかかりましょう」
こうして俺たちは、新たな仲間――セラフィーナを加え、四人体制となった新生勇者パーティーとして、地下深くに眠る“継承の迷宮”へと挑むことになった。
それが、ただの通過儀礼ではないことを、この時の俺たちは、まだ深く理解していなかった。




