第1話:【戦士】という無難な役割
この世界では、十二歳を迎えると誰もが【職】という天啓を受け取る。それは神々の意志によるものだとされ、職業神と呼ばれる存在が魂の資質を読み取り、最も適した役割を与えるのだという。
どこかの誰かに人生を決められるような話だが、この世界ではそれが当たり前らしい。少なくとも、村のみんなはそう思っている。
そして今年も、その季節がやってきた。
年に一度、王都から派遣された聖職者が村を訪れ、【職】を授ける儀式が行われる。春先の収穫祭と時期を同じくし、村の広場には仮設の祭壇が設けられていた。
これまでは見守る側だったが、今年は違う。
――俺自身が、その対象なのだから。
正直、複雑な気分だった。俺には、別世界の記憶がある。
かつて俺は、現代日本で生きていた。
いわゆる転生者というやつだ。
だからこの世界が、剣と魔法の所謂ロールプレイングゲームに限りなく近い世界だということも、最初から理解している。
そして、こういう世界で【職】がどれほど重い意味を持つのかも。
赤髪の少年、それが今の俺――テオドールだ。
前世とは似ても似つかない姿だが、十二年も生きていれば、さすがに慣れた。
「ねえテオ! あんたどんな【職】になるんだろうね?」
隣で声を弾ませているのは幼馴染のフィリア。
緑色のツインテールを揺らし、いかにも楽しそうだ。村長の娘で、代々魔術師を輩出している家系でもある。
「俺はどうせ【農夫】とかだろ。地味だけど堅実でいい」
こんな農村で派手な【職】なんて、必要ない。
冒険者? 勇者? 誰が好き好んで命懸けの人生を選ぶんだ。
「そんなことないわよ! テオだってきっとすごい【職】を得るわ!」
「どこからそんな自信が出てくるんだよ」
「だって……勘が鋭いじゃない。変なところに気づくし」
それは多分、前世の感覚が残っているだけだ。
この世界の常識を、常に一歩引いた視点で見てしまう――それだけの話。
「それに、あなたのお父さんも戦士なんでしょ?」
「親父は親父。俺は俺だ」
血筋で【職】が決まるわけじゃない。ただ、似た系統になりやすい傾向があるだけだ。
「でも、【賢者】とか【聖騎士】だったらどうするの?」
「そういうのは、あいつに期待しとけ」
俺が視線を向けた先で、青髪の少年が手を振っていた。
「やあ、二人とも」
アルフレッド。
鍛冶屋の息子で、剣の腕は同年代でも抜きん出ている。整った顔立ちに、礼儀正しく穏やかな性格。村の誰からも好かれる、絵に描いたような優等生だ。
前世なら、クラスの中心にいるタイプだろう。
「テオドールも緊張してる?」
「全然」
「はは、君らしい」
三人で並び、祭壇へ向かう。
すでに何人かが儀式を終え、それぞれの【職】に一喜一憂していた。
この儀式で与えられる【職】は、基本的に生涯変えられない。
それは祝福であり、同時に役割の固定でもある。
「次の方、前へ」
フィリアが一歩踏み出す。
司祭の祝詞と共に水晶球が輝き、淡い光が彼女を包み込んだ。
「【魔術師】!」
歓声が上がる。
出自通りの結果に、村全体が沸いた。
「よかったー!」
戻ってきたフィリアは満面の笑みだ。
「おめでとう」
「ありがとう! 変なのじゃなくて安心したわ」
次は俺の番だった。
祭壇の前に立ち、静かに目を閉じる。
転生者である俺に、神託はどう作用するのか――正直、不安しかない。
どうか普通であってくれ。
光が収束し、司祭が告げる。
「汝の【職】は……【戦士】です」
静かな結果だった。
戦士――珍しくも、特別でもない。
便利で、都合のいい役割。
期待も失望もされない、そんな立ち位置だ。
「テオ、戦士なんだ!」
「まあ、無難だな」
戦闘力は必要だ。この世界で生きる以上、自衛手段はあって困らない。
そして、最後に残ったのはアルフレッドだった。
司祭の詠唱と同時に、水晶球がこれまでとは比べ物にならない光を放つ。
「これは……!」
広場がどよめく。
「汝の【職】は――【勇者】!」
歓声が爆発した。
勇者が現れた。
それは祝福であり、同時に――
(魔王も、現れるってことだ)
この世界が、この物語が、回り始めた証でもあったのだ。




