part5
3 デート?
事件の聞き込みに渦中の人物に会いに行ったのもおとといのことだ。
今はといいうと、木を中心に円形に敷かれた鉄製の椅子によれかかっている。
もう9月に入ろうかというのにまだまだ暑いなと木漏れ日に背筋に流れる汗を感じ、そう思う。
ちらちらと自分が人目を引いていることに気づく。黒目黒髪が大半の日本ではこの銀の髪は異質を感じさせるだろう。私服に愛用している帽子も蒸れてきてうざったかたので、取っ払ってしまったのは悪手だったか。
ちらりと時計を確認してみれば、約束の時間まではあと15分ほど残されてあった。
ちょっと神経質が過ぎる私は遅刻するのは勿論、5分前行動ですら気を悪くする。
この場合はもしかするとあえて遅れて「待った?」なんて声を掛ける方が逆に粋なものかもしれないなと益体もない。
待った?と駅の階段から小走りで駆けてくるのは葵。
いいえと軽く返した私に相変わらず早いやと彼は息を整えさせて言った。
「久々に二人で遊ぼうなんて珍しい」
白色のゆとりのあるズボンと半袖の白のシャツ、暑さのためか水色のカーディガンを右手に携えていれば見事に白白なコーデだ。
全身白という身なりに私があげた黒のチョーカーというのは特徴的だ。そも、チョーカー自体が珍しいファッションではあるが。
「単にデートしてみたい気分だっただけですよ」
何故かと問われているように感じたので、そうからかい交じりに言ってみたが。
「どうやらデートじゃないらしい」
なんだか粗雑に流されたようで、面白くない。そうフラットに付き合えるのは仲の良さ故だが、親しき仲にも。異性と認識されないのはもっと面白くない。
「どうしてですか? これでも気合をいれてきたつもりなんですが」
事実である。結構気合は入れた。
私は彼の腕と指を自分のと絡ませ、妖艶に言った。(つもり)
「お前は案外可愛い奴だからな。自分でデートだと思っているなら、口が裂けてもデートなんて口に出せないさ」
私は途端口を結んで何も言えなくなった。いや、逆に開けた口がふさがらなかったのかも。
図星だった。こういう感じで揶揄おうとしても、上手く反撃されてばかりな気がする。
「あ~、否定はしません。葵とただ遊びたかったから誘ったわけではありません。けれど、久々にそう思ったというのも嘘ではありせんし、プラン自体はもう決まっていますが、その過程をどう過ごすかというのは私たち次第ですよね?」
バツの悪いように頬を掻きながら、事件のためとデート、どちらに寄せたいのか自分でもわからないような言い訳を並べる。テンパっているなあと。
「そういうことにしておく。それで、どこに行くんだ?」
「とりあえず、映画にでも行きましょうか?」
「映画まで少し時間もありますし、適当にウィンドウショッピングしましょう」
「いいね。男にしちゃあ好きな方よ」
「ちなみに葵はひと月に大体いくらくらい服にお金かけますか?」
「二万いかないくらいかな。服とかはお小遣いの範囲外で買ってくれるからね。ただアクセサリーとかになると親も流石にキリがないと難色を示すからネックレスやらは小遣いの範囲で3カ月に一回くらい買ったりするかも」
さすが陽側の男子高校生、ちゃんとしてるなあ。
「そういう玖音はどうなんだ?」
「大体通販ですね。私って体小さいじゃないですか。だからぶかぶかなことが多くて、この歳にもなって今着ている服は兄とその同僚に買ってもらいました」
ふんす。
「で・か・け・ろ」
「外に出れないわけじゃないんですよ。ただ服屋を一人ではキツイです。じっくり吟味していたら、絶対声をかけられるじゃないですか。相手方もそれがお仕事ですし、絶対喋れないです。どうせ、サイズもろくに見ずにそそくさと買って帰るに決まってます。それなら通販と変わりないですし、それに自慢じゃないですけど、私ってこんな髪ですし、人目を引くじゃないですか。前に行ったときには店員の人の着せかえ人形にされてもみくちゃにされていい思い出がないです」
「ああね。確かに玖音の容姿は人形みたいで特に日本じゃ浮世離れして見えるよな。真昼も玖音は可愛い、剥製にして飾りたいとよく言っている」
ストレートに褒められて照れるが、照れるが、後半、なんて言った? 剥製? あの人イカレ過ぎてて怖い。
「葵と一緒なら頑張れそうかなって。妙に気さくな店員とか得意でしょ?」
「得意だね」
「それに正直、今どきの流行りとか、自分に似合う服装とかわからなすぎるので」
「真昼は何でも似合う美人さんって感じだが、玖音はっぷ、ちゃんと選ばないとな」
「最低だ!」
何も笑うことないだろう。確かに真昼と比べたら私の容姿なんて霞むかもしれませんけども。
「いやいや美人のベクトルが違うってだけで、今の玖音はかなり可愛いよ」
「失言を誤魔化しているだけじゃないですか?」