表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

part3

3 邂逅


無駄に長い黒のリムジンに揺られて30分、目的の場所へと到着した。

そも、その高校自体、普通の、むしろ設備も生徒の質も並以下であるので、当然立地が秀でているわけではない。集合住宅近くに位置しており、広い道路脇には位置していない。ので、この無駄に長いリムジンが空気にそぐわない、運転も難しいと、普通の乗用車でも細心の注意を払う細道であったので、途中で乗り捨てた。そのリムジンの運転手はこれから、この細道を逆行しつつ、帰りは自家用車で迎えに来いとぞんざいな命令を受けていた。私と葵は運転手に礼を伝えたが、顔は気まずさに引き攣っていただろう。

「淀んだ空気ね。刑務所か何かかしら」

校門前にすらポイ捨ての煙草が散見された。思っていたよりよほど、荒れた感じだ。あからさまに私たちに敵意を向ける者も少なくない。お坊ちゃん、お嬢さんが肝試しにでも来たのかと。

「そういうな。気を立てるなという方が難しい話だろう」

「それもそうね。さあ、玖音も早く帰りたそうにしているし、早速会いに行きましょう。今件の重要参考人兼有力容疑者のもとへ」




私たちは早足に歩を進める。そう広い敷地でもない。歩いていれば、いずれ件の彼に巡り合えるだろう。一つ難点なのは私や葵は彼の容姿を知らない点だ。流されるままに真昼に付いていっている。真昼は妙にずかずかと進んでいるが、きっと適当だろう。少し古びれた校舎も、視線の痛い彼らも真昼にとっては刺激的な享楽の一つでしかない。

「移動次いでにもう一度、その彼について聞いてもいいかな? もし、彼が事件に無関係なら何かしてやれることも、友達になれるかもしれない」

「いいね。私は意外と人付き合いが苦手なのよね。変に自己肯定感が低い人とか大概嫌われる自信があるわ」

どこが意外か。という言葉は私も葵も飲み込んだ。

「意外じゃないけど?」

言わなくていいことかなと判断出来てから言ったろ。

「確かに、初めて喋った時に意外と話が通じると思ったよ。今更だが、真昼は一旦、おいてきた方が良くないか? 喧嘩吹っ掛けそうで怖い」

相手は殺人犯の可能性が極めて高い相手だ。逆上したらどうする。

「全く同感です。毎度毎度、相手が殺人鬼の可能性があっても臆さず、挑発しますからね」

「二人とも、重ね重ね失礼ね。反発してこない相手に挑発なんてしないわよ。面白くないじゃない」

ずれた恐ろしい回答だ。相手が犯罪者や気に食わない相手なら何してもいいと思っているんだろうか。思っているんだろうな。そう思うと、友人としてちょっかいかけられている私と葵の扱いが犯罪者のそれと大して変わらないと不憫ではないか。特に私の方が。

「それで、その人物の人となりだけれど……、あそこの人もしかしたらそうじゃない?」

真昼が指を差した方を見てみると、ひとりの男子生徒が腹部を抑えうずくまっていた。

それを見た葵はすぐに駆けて行った。


腹部を蹴られた僕は廊下へと派手に吹っ飛んだ。運悪く鳩尾に入っていしまったため、すーはーすーはーと浅く、猫のような呼吸を繰り返すが、一向に肺に酸素がいきわたったように思えない。

そうやって、どうにか回復しようとしていると肩に手を掛けられた。さすがに追加攻撃は勘弁願いたいと思っていたが、予想外なことに大丈夫かとこちらを案じる言葉を投げかけられた。

そっと上を見上げてみると、まず端正な顔立ちが視界に入った。ワックスで綺麗に整えられた髪に、瞳の大きい愛嬌ある目つき。すぐに制服がこの高校の物でないことに気づいた。確か、近くのぼんぼん学校の望月学園の制服だったような気がする。道理で助けに入ってくれるわけだ。

「おなかを蹴られたのか。そこの三人か何考えてやがる」

声音や表情からは確かな怒りが感じ取れる。向かいの三人は予想外な出来事に意地の悪い表情を潜め、困惑の色が強い表情を見せた。

そこのと三人に詰め寄ろうとする名の知らない彼をその裾を引っ張り止める。未だ、息も絶え絶えなので手と頭を左右に振り、その必要が無いこと。僕がそれを望んでいないことを告げる。

でもと逡巡を見せたが、すぐに感情を抑えて、それ以上の追及をやめてくれた。

暴行を止めてくれた感謝よりも先に恨めしいという思いがある僕はやっぱり、嫌な奴だ。最初の頃は見せしめのように蹴られ、殴られされることに屈辱もあったが、今はそれが普通となってしまっているので、むしろ、こういった痴態をほかの人に知られること、また助けられることに暴行される以上の屈辱を感じてしまう。

助けてくれなければ、最初から知っていたと建前にも傷ついてしまうのに、助けられたらられたでその助けを拒んでしまう。その稀有な手を掴まなければ、このイジメは無くならないというのに、もしかしたら、彼が死んでしまうことも無かったかもしれないのに、どうしようもなく愚かで詰んでいる自分にほとほと嫌気がさす。

相手方も分が悪いと退いてくれた。後でしこたま殴られるんだろうなあ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ