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2話 祖父母の家の不思議

 それから五分後。


「……や、やっと着いた……」


 僕が目的地に到着した頃には、もう全身が汗だくだった。

 周りに目をやると近所にほとんど家はなくて、庭先の畑には瑞々しいトマトやキュウリが実っている。明日は爺ちゃんたちのお手伝いかな、と僕はやけに生活音のない古い平屋の家に目を向け、玄関のチャイムを鳴らした。


「……あれ? 誰もいないのかな」


 爺ちゃんたちに連絡はしてあるはずなのに、と不思議に思いながらドアを右に引く。カラカラ、と音が鳴ってドアが開いた。

 ……爺ちゃんたち、また閉めてないや。

 田舎だと盗みに入られる心配がないから、こういうことは珍しくないのだろう。


「おーい、爺ちゃーん! 婆ちゃーん! 遊びに来たよー!」


 そう叫んでみても、返事はない。が、タタタ、ドタドタ、と何か慌てふためくような物音がして、思わず首を傾げた。

 もしかして動物でもいたのかな。

 僕はひと気のない廊下を警戒しながら家に上がり、畳の部屋に入って机の脚に立てかけるようにしてリュックを置いた。

 ホッとひと息つくと、プルル……と黒電話の鳴る音がする。たぶん父さんと母さんだろう。

 僕は戸棚の上に置かれた受話器を取った。


「はい! もしもし!」

『ああ、陽太かい? 父さんだけど』


 柔らかい父さんの声は、さすがに心配そうだ。すぐに母さんと変わったのか、『もしもし?』と今度は母さんの声がした。


『陽太、大丈夫? 一人で行けた?』

「うん。大丈夫だよ。ちゃんと来れたから!」


 ちょっとだけ寄り道しちゃったけど、それは二人にはナイショだ。


『お爺ちゃんたちに挨拶はしたの?』

「ううん。家の中にいなかったから、勝手に入っちゃった」

『あら、どうしたのかしら? ちゃんと伝えておいたのに……。あ、さては張り切って隣町まで買い物に行ってるのね』

「そうなの?」

『ええ、たぶんね。そのうち戻ってくると思うから、心配しなくても大丈夫よ』

「そっか。わかった!」

『じゃあ、陽太。今日は疲れてるから早く寝るのよ?』


 母さんに言われ、僕は大きく頷いた。


「うん! また明日!」

『ちょっ、父さんまだ話し足りな──』


 ガチャリ、と勢いのままに受話器を置く。


「あっ……まあいっか」


 僕は気にせず台所に行ってサイダーの瓶を片付けると、畳の部屋に戻ってゴロリと寝転がった。

 そういや、あの物音ってなんだったんだろ?

 ふと僕は思い出してムクリと身体を起こすと、周りを見回した。婆ちゃんがこまめに掃除しているのだろう。部屋にはホコリ一つも見当たらないし、異変もない。


「爺ちゃんたちが帰ってくるまで、ちょっと調べてみようっと」


 ほんの暇つぶしに、と僕は立ち上がって畳の部屋を出た。

 そうして台所から寝室、爺ちゃんの書斎、押し入れの中まで調べていく。だが、どこも散らかっている様子はなく、あれから物音もまったく聞こえなかった。


「うーん……こっちの方から音が鳴ってたと思うんだけどなぁ」


 薄暗い廊下をしきりに見回すうちに、気づけば一番奥にある物置代わりの部屋まで辿り着いた。

 気のせいだったのかな。


「……まあいいや。戻ってゲームしよっと」


 こういう時は、いくら探したって目的のものは出てこないものだ。

 早くも喉の渇きを感じてきて、僕は一旦台所に引き返すことにした。きっと、そのうち爺ちゃんたちも帰ってくるだろう。


「──ん?」


 しかし、ふと。

 僕は何気ない違和感を覚え、背後に振り返る。


「……そういやこの部屋の角っこ、なんで壁が出っ張ってるんだろ」


 押し入れでもないのに、考えてみたら不自然だ。

 さっき外から見た時は何も気づかなかった。もしかして何か秘密があるのかも、なんて僕は期待に胸を膨らませる。

 だが、そこには。


「ま、そりゃ何もないよね。後で爺ちゃんに聞いてみようっと」


 僕は天井に向かって思いきり伸びをしながら独り言を口にして、部屋に戻ろうとする。


「ん? でもここ、なんか隙間が……うわっ、開いた!」


 木の柱と板壁の間に三センチほどの空間を見つけ、そっと指を差し込んだ。すると板壁がガタリと音を立てて、わずかに左側へと移動する。

 木の柱と板壁の隙間はさらに広がって、その奥には暗い空間が存在していた。


「何、これ……」


 予想だにしなかった現実に、僕は戦慄する。

 これは板壁に見せかけた扉だったのだ。それも、この中にある空間を隠すために、誰かが用意していたのだろう。この家は僕の古いご先祖さまが建てたものだから、何かを隠くために作ったのかもしれない。

 僕はそう思いながら目を凝らし、薄暗い扉の先を見た。

 すると、そこにあったのは。


「ここに何が……ハシゴ?」


 僕の目の前には、長い木製のハシゴがある。

 かなり古いものだろうに、なぜか最近まで使われていたかのようにホコリ一つ見当たらない。木が腐っている様子もないし、誰かが手入れしていたのか。

 けれど、こんなハシゴが爺ちゃんの家にあるなんて、今まで聞いたことがなかった。


「……登ってもいいのかな」


 じいっと見上げても、その先は暗くてよく分からない。

 ……どうしよう。登ってみたいな。

 やっぱり自分の好奇心には逆らえないのだ。僕はそうっとハシゴに手を伸ばし、かなり丈夫そうな木の足場を掴む。落ちないようにしっかりとハシゴを踏み締めて、屋根裏に足を踏み入れた。


「わ……暗いな。ライト持ってくるの忘れちゃった」


 よく見えない屋根裏はホコリっぽく、周りの薄暗さに天井の近さを感じる。広い空間だけど、そのせいか遠くまでは見えなかった。

 僕はあまり動かずに下から漏れるわずかな光を頼りに、その場で周りを見渡した。


「あれ、なんか置いてある」


 僕の後ろには、蓋のずれた木箱があった。おそるおそる蓋を退かして中を覗き込むと。


「中身は……市松人形? なんでこんなところに……」


 赤い着物におかっぱの人形。

 横たわっていたその子に僕は戸惑い、思わず小首を傾げた。

 その時、玄関から鍵をいじるような物音が鳴る。


「あっ、爺ちゃんたち帰ってきちゃった」


 僕はハッと我に返り、慌ててハシゴを下りると建てつけの悪い扉を閉めた。

 今は爺ちゃんたちのところに行かないと心配させてしまうのだ。


「おおーい、陽太! 帰ったぞー! 遅くなってスマンな!」

「爺ちゃん、婆ちゃん、おかえりー!」


 屋根裏から出た僕は大きな声を上げて、二人のいる玄関まで走っていった。

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