瀕死の攻防
宙を舞えば当然の事ながら落下する。3~4メートルは打ち上げられ、不格好ながら受け身は取ったものの地面へ叩きつけられた。
地面に打ち付けられた身体も痛いが、何より折れた左腕が痛い。それと脇腹辺りを激痛が駆け巡っている。
出来ればこのまま寝っ転がって、誰かにヒールをされるまで休憩をしたいが、そんな事をしていたら俺はゾンビにやられて死ぬし、セラがザケンにやられて死ぬ。立ち上がらなくては。
顔をしかめつつ立ち上がると、既に2匹が俺の傍にいた。左から振り下ろしが来たので、重心を僅かに後ろに下げる。俺の眼前をゾンビの腕が通り過ぎたタイミングで肩を押しながら足払いを仕掛ける。
てこの原理でゾンビは前方へ飛んでいく。いかんせん身体に力が入らないので、出来ればこの様な形を取り時間を稼ぎたい。
とか考えている場合じゃなかった。右から振り上げの攻撃が来たので、今度は前方に転がりまずは距離をとる。そのまま流れで立ち上がりゾンビに向き合うと、また背後から嫌な気配がある。
今度は側方にでも転がって回避しようと思ったのだが、そろそろセラへのヒールが必要なはずだと思いその場へとどまる。
ゾンビは背後から腕をぶん回して、俺の顔面を横方向から狙ってきた。直撃を受けた場合、頭部はまずい。下手をしたらヒールする間もなく即死の可能性が大である。
一瞬セラへのヒールに気を取られてしまい反応が遅れ、しゃがみ込んだのだが頭頂部をかすめる様に喰らってしまい、横へ吹っ飛ぶ。
頭部を揺らされた為、両足で着地したつもりがすっ転んでしまった。平衡感覚がおかしく、直ぐに立ち上がれないのと気持ちが悪い。だか寝転んでいる場合じゃない。
手と膝をついて何とか身体を起こし、セラへGHをかける。
ヒールが出来たのは良かったのだが、身体を起こした状態で蹴り飛ばされた。
頑張って身体を起こしたばかりだと言うのに、地面を転げて甲板のヘリに激突して漸く止まる。
これはちょっと起き上がれそうにないな・・・・・・。体中が悲鳴を上げているのと、先ほどのヒールで魔力が枯渇した様だ。
先ほど殴られたのとは別で、身体に力が入らない。最後にセラへのヒールが間に合ったのは良かったかな。
このまま寝ていると、ゾンビに殺されてしまう事位は分かっている。だが動かないものは動かない。
諦めたい訳じゃないのだが、何とか目を開くとゾンビが3匹こちらへ向かってきていた。流石に積んだな。
死ぬことは自業自得なので仕方が無いにせよ、セラへのヒールが出来なくなってしまう。ベネディクションを使う事も既に出来ないし・・・・・・情けないな。少しは強くなれたと思っていたのだが、ここまでか。
せめてセラへの謝罪だけでもしようとしたのだが、届くような大きさの声は出なかった。口から出てきたのはかすれた様な息と血だけだ。
俺は開いた目をゆっくりと閉じた・・・・・・。
暫く経っても痛みが来ない。意識はあるし辛い状況ではあるのだが、轟音が聞こえてきた。
また何とか目を開くと、リカが放った雷の魔法とラナが放った火の魔法が3匹のゾンビに直撃していた。ゾンビは既に俺の傍へはおらず、ジャンヌとスカーレットがヘイトを使い俺から引き離してくれた事が分かる。
俺の身体にヒールの光が降り注ぎ、痛みが直ぐに和らいでいく。ハクとレナの声が聞こえてきた。
「ハガネさん・・・・・・何で毎回そばを離れると、死にかけているんですか。無茶しすぎですよ」
「全くです。無敵じゃないんですから、もう少し自重してくださいね」
ああ・・・・・・離れていた討伐メンバーが戻って来るまで時間を稼げたのか。何とか役目を果たす事が出来たな。
「・・・・・・セラは!?早くヒールを!」
「大丈夫ですよ、ユイさんとエルダーさんが既に回復してくれています。今はセラさんとワニさんがザケンを抑えてくれています。スタンアタックPTも一緒にいるので、あの状態であれば大丈夫かと」
「良かった・・・・・・ありがとう、2人とも」
セラの無事が分かると魔力枯渇の頭痛がぶり返してきた。当然痛いが、痛みを感じてられるのも生きている証拠だ。感謝しなくては。それに前回の様に大幅に枯渇して使った訳じゃないから何とか我慢できる。
ハクとユイに身体を支えられ、立ち上がらせてもらう。漸く周りを見渡す事が出来た。
セラは装備こそボロボロになっているが、動きが良くなっている。そこにワニも加わり攻撃を捌いている為、直撃を受けたりはしてない。
スタンアタックPTと、俺を助けてからセラの方へ行った弓PTのスタンスキルがザケンへしっかりと効果を発揮しており、ザケンは連続攻撃などは出来ず、討伐部隊の攻撃に晒されている。
特殊な攻撃が発動する様子もなく、安定してダメージを与えられいる様だ。
付近のゾンビはそんなに数は多くなく、周辺魔物狩りPTにジャンヌとスカーレットだけで事足りるみたいだな。ミラとリースも大きな怪我をして動きが悪くなったりはしておらず、ゾンビの攻撃を難なくかわしていた。
あれ、これは―――このまま討伐出来るんじゃ?
いやいや、今までのこの世界の理不尽さ、厳しさを思い返せばそんな事などありえない。
どうしても状況を考えると楽観視してしまうので、無理やり警戒を高める。
足元が定まって来て動ける様になったので、セラにヒールが届く位置まで移動する。
足やあばらの骨折はしっかりヒールで治っているものの、先ほど迄は激痛だった為どうしても違和感が残っている。これは毎回の事なので諦めるしかないのだが。
「セラ!このままいけるか!」
「当然だ!!」
漸く大きな声が出る様になりセラへ声をかけると、ザケンの攻撃を捌きながら力強い事ばが返ってきた。
なら俺のする事は1つだ。
「全員で総攻撃を!魔力を残す事は考えなくていい。短時間で最大火力で頼む!!」
「おぉ!!!」
ゾンビだけ残ったとしても、通常攻撃だけで何とでもなる。今はそんな事よりイレギュラーが起きない内に倒してしまいたい。だが、まだ何があるか分からないと気を引き締め、激しい攻撃に晒されているザケンを見つめる。
これといった動きを見せず、集中砲火を浴びでついにザケンが倒れた。
倒れた後は光になって消えていき・・・・・・そこかしこでレベルアップを告げる声が聞こえてきた。
本当に倒せたのか。漸く討伐する事が出来たのだと少しだけ実感が湧いてきた。
やけにあっさり倒せた様なとも思ったが、そんな事はない。全員無傷で勝利したのではなく、死者だって多数出しているのだ。
今この一瞬は・・・・・・倒せた喜びに浸らせてもらう事にしよう。




