敗走
3人が坂道への扉へ一直線に走り出し、ゾンビを引き連れて先行してくれた。ザケンは今は反応が無いので放置している。また動き出されたらやっかいだ。
「ギンナル。すまないけど全体へ指示を頼む。まだ魔力枯渇の影響が抜けてなくて。それとセラを補助PTで生き残れた人達に頼んで、坂道まで連れて行ってもらってくれ」
「ん、分かった。任せといてよっ!こういう時のサブリーダーだからね。ハクさん、ハガネさんを頼むね
」
「はい、ギンナルさん。私も任されました!」
ハクが俺の肩を支えながら、元気な返事をする。
「さてと・・・・・・皆さん!一時的に指揮を預かりました、ギンナルです。改めて宜しくお願いします!」
ギンナルが声を張り上げ全体に伝える。安心して任せられるから、俺は自分の事をちゃんとしよう。
ギンナルが指示を出し、各々坂道の方へ移動を開始する。ただ物言わず、地面に寝たままの人達も複数名いるが・・・・・・そういった事は後で考えよう。討伐隊が全滅してしまったら、遺品回収も何もない。
今は生存者だけでも坂道へ避難し、朝まで耐え忍んで改めて討伐を行おう。
「じゃあ、ザケンのすぐそばまで頼むね、ハク」
「はい・・・・・・本当は早く避難して欲しいんですからね」
ハクはそう言うと俺を連れてザケンのところへ。借りていた肩から手を外し、残った魔力をかき集める。正直今はユイからリチャージをもらったとはいえ、魔力がほぼないのでまだ魔法スキルを使いたくはないのだが、ザケンが動かない今だけがチャンスだ。
残りかすの魔力を体内で循環させ、スキルを使用する。
「レクイエム!」
アンデットのヘイトを外す魔法を使用し、その間に全員で避難すれば一先ずはザケンに殺されなくなる。
だが、魔法スキル使用と共に全身の力が抜け、激しい頭痛と強烈な倦怠感に襲われ立っていられず、地面に倒れ込んでしまった。
「ユイさんっ!一緒にハガネさんを運んでっ!
「はい!」
慌てたハクがユイを呼び、俺を両サイドから担ぎ上げる。情けない事この上ないのだが、正直今は何も出来ないので助かる。
レクイエムのスキルが1度で効かなければ、この状態でも何度もスキルを使う予定だったが、どうやら無事に効いてくれた様だ。こちらを認識してたザケンの目が、どこか虚空を見つめる様に虚ろになっていた。
何度も魔力が無い状態で使いたくはなかったので、一安心だ。
ハクとユイに担がれながら、足を引きずりザケンから少しずつ離れていく。
坂道へ向かう道には既にゾンビ達はいない。ワニ達が上手くやってくれたんだな。集めたゾンビの処理はギンナルが指示を出し、WIZや弓PTが行ってくれているのが見える。
これなら何とか坂道へ避難し朝まで時間をつぶし、その間ザケンが甲板に居てくれれば日が昇れば討伐も何とかなるんじゃないだろうか。
最初の人数よりも減ってしまっている現状では、さらに大変になるのは間違いはないのだが・・・・・・。
ハクとユイに引きずられる様に坂道への扉に近づいたが、ここに至るまでに何人も立ち上がっていない人達を見てきた。
正確な数など分からないが、PTも再編しなければ討伐に支障が出そうな人数ではあった。
まぁ坂道で朝まで過ごすので、休憩の時間を除いたとしてもいくらでも時間は使えるだろう。死んでしまった人達の為にも、ザケンは絶対討伐してからドール城下町へ帰らねば。
そんな事を考えていると近くで足音が聞こえる。両肩を支えられているので身体ごとは振り向けないが、首だけ左側にいるハク越しに後ろをみる。
そこにはハクを狙って進んできているゾンビが、腕を振り上げているのが見えた。
「ハクっ・・・・・・」
大きな声を出したかったが、未だにそれは叶わない。ハクへ一声だけかけて、左上に力を入れハクを前へと突き飛ばす。本来なら優しく押してあげたいところだが、そんな余裕はなかった。
ハクを狙っていたゾンビの腕が振り下ろされたが、そこにハクは既にいない。いるのは背中を向けたおれだけだ。残念だったな。
強い力で背中を殴られ、ユイを巻き込む形で前方へ倒れる。床へ叩きつけられた事もあり息が止まる。
「くっ・・・・・・すまない。ユイまで・・・・・・巻き込んで」
地面へ転がったままユイへ謝罪する。
「そんな事言ってる場合じゃないです。誰か、ゾンビをお願いします!!」
ユイが顔を上げ、大声で助けを求める。
「ドライアードツール!」
ハクがゾンビに魔法を使い動きを止める。成功してくれてよかったが、このままでは魔法が解けた瞬間にこちらへ来てしまう。どうする。DUを使える程魔力は回復してないし、ユイからリチャージをもらったとしても、今この状況で倒しきる迄攻撃魔法が使えるのか。
「誰かっ!おねがい!!」
ユイが再度大声で叫ぶが、半数程のメンバーは扉をくぐり坂道を下ってしまった。助けが直ぐにこれるとも限らない。あちらも扉付近に群がったゾンビを処理しているところだ。
何はともあれ起き上がり、ゾンビに備えようとはしたのだが、身体が言う事を聞いてくれず少し顔を持ち上げ、ゾンビを見る事だけしか出来なかった。
こんなところでゾンビにやられている場合じゃないのだが、このままでは・・・・・・。
そろそろハクのドライアードツールが切れる頃だと思い覚悟を決めたが、それは無駄になった。
風切り音と共に二本の矢が飛来し、俺を殴ったゾンビの顔と胸に1本ずつ深々と突き刺さっていた。
扉の方を見るとハンナとクロウがゾンビの間から弓を構えていたのが見えた。助かったよ。
「ハク、ユイ。すまないが、今一度俺を立ち上がらせて、扉へ連れて行ってくれ」
漸く呼吸も落ち着き、2人へ声をかける事が出来た。だが、かなり足手まといになってしまっている。
早い所安全地帯迄行き瞑想をして、魔力をまずは回復させよう。魔力はないし、身体は動かないしでは邪魔にしかならない。
その後はゾンビに襲われる事もなく、何とか扉迄やってこれた。今までいたゾンビは皆が処理を済ませてくれており、安全に扉をくぐる事が出来た。
ハクとユイにお礼を伝え、扉付近に残っていた人達がドアを閉め、坂道を下りだす。
最初にここを通った時には魔物は居なかったので、安全地帯と考えても良いだろう。
1本の坂道で全員留まれれば良かったのだが、そこ迄の広さは無い為先行した人達はもっと下の階層の坂迄進んでくれたのだろう。ギンナルにも後で御礼を伝えなきゃな。
一先ず瞑想を・・・・・・と思ったが、未だに頭痛が治まらず難しいので、またハクに膝枕をしてもらい、地べたへ寝ころんだ。こんな状況ではあるのだが、俺は幸せなんだと感じる。




