2人きりの時間
セラの足音は聞こえなくなった。今の一合だけでも時間稼ぎが少しは出来たんだなと嬉しくなる。
ただセラとザケンの距離が離れすぎてしまい、セラからタゲが外れた様だ。これでセラは一安心っと。
と言う事は、タゲが俺に移る訳だ。
ザケンがこちらを見下ろし、手に持ったサーベルを斬り上げてくる。流石にそんなもんは喰らわないよ。身体を少し傾けサーベルを躱し、体勢を起こす時の勢いものせて杖を横なぎに振り切る。
俺にタゲがあるからちゃんとこちらを見ているのか、斬り上げたサーベルをそのまま振り下ろし、俺の杖をはじき返す。
正面からぶつかった力通しだと話にならないな。杖を弾かれただけなのに、俺の手がしびれて数秒は使い物にならなそうだ。
仕方なく弾かれた杖を手放し・・・・・・と言うより、しびれた手で持っていられず杖が壁へ吹き飛んでいってしまった。そのまま体重を前方のザケンへ向けて身体を傾け回転し、胴回し回転蹴りを太ももに打つ。
俺の踵がザケンの腿に突き刺さったのだが、あまり反応がない。普通の人なら暫くびっこをひいて歩く様になるのだが、微動だにしてくれない。
蹴りが入ってそのまま俺は地面に落ち受け身をとるが、その間に突き下ろしてきた。急所に喰らえば即死も十分あり得るので、必死になって転がり何とか避ける。
鼻に海水が入ってきて、物理的に辛い。起き上がりならむせ返り、海水を吐き出すがその間もザケンは容赦がない。
俺の首を狩る様に水平にサーベルを振り回す。後方へ半歩下がり避けると、逆からまたサーベルが飛んでくる。続けて半歩下がりはするも首元の薄皮一枚を切り裂かれ、のどから血が流れだす。
慌てて後方へ飛びのいて、すぐさま自分へBHをかける。血が流れ続けたら死ぬし、流れ過ぎたらヒールをかけてもこの後に戦う事が難しくなる。
しかし、ヒールをかけた直後には即座へこちらへ来ており、再度直上からサーベルを振り下ろしてくる。杖を頭上で水平に構えて受けながら杖を回転し受け流す。受け流したついでとばかりに、杖を回転させ相手の脛に当てる。
当たったのは良いが、お返しとばかりに命中した足を振りかぶり、俺の顔面を蹴っとばしてくる。
攻撃の直後だった事もあり避けきれず、そのまま蹴りを顎に喰らい、後方へ吹っ飛ばされる。
意識が一瞬飛んでいたのか、いつの間にか水面へ背中から叩きつけられていた。着地?と同時に後方へ転がり少しでも衝撃を逃す。
口からだらだらと血が流れてきてうっとおしい。海水で口をすすぎ・・・・・・痛った!!何も考えずにすすいだら、口の中が滅茶苦茶痛い。当たり前だ。傷口に塩をぬるのと何ら変わりがない。
お陰で意識が一瞬ではっきりした。このまましゃがんでいてもやられるだけなので、速やかに立ち上がり杖を―――構えようとしたら無くなっていた。まずい、意識が飛んだ時に手放し水中へ落ちたのだろう。
とてもじゃないが探す暇は無いので諦めて、後で本体と合流したら予備を受け取ろう。
素手かぁ・・・。まぁ無手で戦うのが一番好きではあるのだが、こいつ相手にそれはどうなんだろうか。杖を持ったところで結局やられているので、無手でも変わらんと思って突っ込む事にした。
ザケンにじりじりとすり足で近づいて、機を伺う。・・・・・・と、どうしたんだろう。何かぼーっとしているみたいだ。天井の一部に穴が開いているのか、丁度ザケンを照らしている。ちょっと神秘的に感じてしまうが、あいつ相手にそんな事を思いたくない。
思考する頭はあるっぽいので、そんな事もあるのか?と思ったが、良く分からないけどチャンスと見て、ザケンを見つつ後退を始める。
このまま1対1を続けていても勝てる気がしない。時間も稼げたし逃げさせてもらおう。
本来ならレクイエムを使ってタゲを外して逃げたいところだが、今はついて来てくれなきゃ困る。また洞窟内を探すのは日程的にも精神的にも不可能だ。
しかも出口の方で待ち伏せされたら・・・たまらない。ゾンビと木人形も少し湧いてきているので早い所逃げよう。
攻撃魔法のWSが届くぎりぎりの位置につき、ザケンに向かって放つと同時に振り返り、全力で走り出す。命中したかどうかは分からんけど、動かない相手には外さないだろう。
少しの時間バシャバシャと海水をかき分けて走る。あいつはついて来ているか、走りながら後ろを振り返ると・・・・・・怖っ!
相変わらず土気色の無表情で音も無く、まっすぐこちらへついて来ている。良かったが、あちらさんの方が明らかに移動速度が上だ。こりゃ追いつかれるな。とは言え、俺は今走るしかない。
もう少しで追いつかれそうになり、首筋にチリチリと殺気を感じ確認もせず前方へ飛び込む。
サーベルが良い音を立てて頭上を通った様だ。地面へ手をつき前方へそのまま転がり、何事もなかったかの様に立ち上がってまた走り出す。
やばかった。以前逃げた時と同じ感じだが、同じ様に助かるとは限らない。どうにかしたいが、走るだけかな。
今度はザケンも学習したのか、サーベルの間合いで攻撃をしてくるのではなく、俺の横を並走しだした。
やめて欲しいな・・・・・・この状態で走りながら避ける自信はないぞ。どうしたもんだろうか。
そんな事を考えてもザケンは待ってくれない。俺に避けられない様になのか、背後の浮遊しているサーベルが放射線状から切っ先がこちらへ向いてくる。
それは勘弁願いたい。正面から対峙していてもろくに避けられないのに、この状況で使うかね。
終わった・・・・・・と思っていたが、ザケンの顔と身体に矢が刺さる。間髪入れずにザケンの頭上から雷魔法が落ちた。
「ハガネさん、こっち!!」
リカの透き通る声が洞窟内に響き渡る。何とかここ迄走って来る事が出来た様だ。
俺と入れ替わりにセラ、ジャンヌ、スカーレットがザケンとの間に入る。
非常に助かった。あのまま横から串刺しにされるところだったが、皆のお陰で生き延びたな。休憩したい気持ちはあるが、まずは指示を出そう。周辺を見渡すと・・・・・・お、あの場所がよさげだな。
「皆さん、お待たせしました。良い場所ですね。周辺魔物狩りPTと補助PT1の皆様、良い場所をありがとうございます。他の方もこの場所の維持をありがとう。あちらの島の上で戦いましょう!」
ここは非常に広い空間になっていた。足元に海水は変わらずあるものの、空間の中央に島の様に土がせり上がっている。100人位は乗れるんじゃないだろうか。こんなおあつらえ向きの空間があるとは。
一応俺も聖職者だし、たまには神に感謝しておこう。
島の奥には大きな・・・・・・海賊船か?朽ち果ててはいるが、多分ザケンが乗っていたとかの船かね。その直上にはぽっかりと穴が開いており、外から日が差し込んでいる。
海賊船の上でも戦えそうではあるが、島の方が足場が良いだろうし、何より船の上まで誘導するのが手間だ。
「全員休憩を交互にとって、魔力はほぼ全快だよ。いつでも始められるよ」
「ありがとう、ギンナル。では各自フルエンチャントを。セラ達は暫しザケンを引きつつ、島方面へ移動を」
これで漸く真面に戦えるな。だからと言って必ず勝てる保証はないが、これで勝率は上がってくれただろう。




