多勢に無勢
そもそもレベルだけで考えれば、ハクが率いるうちのクランが有利なのは間違いない。
対人戦の実戦経験も豊富なので、ジャンヌ以外のメンバーならハク達が勝つだろう。
ただ、人数差が非常に多い事と、ジャンヌはセラやミラと肩を御並べられるぐらいは強い。それに戦乙女PT9人は、連携が非常に良い。今回参加しに来てくれた女性だけの9人PTも良い連携がとれている。
今ここで純粋な戦闘力で考えると、酒場で参加しようとしてくれてた人達が、この場では不利だろう。連携も何もないからな。
良くあんな状態で戦い始めたものだと思うが、皆酔っぱらっているからな。仕方がない・・・のか?
ここの修理代はいくらになるのだろう・・・。店主にお金は多少あるとは伝えたが、ここの全ての修理費を出せる程、俺の手元には持ち合わせがないんだけどな。
決めた。喧嘩両成敗で全員からある程度は徴収しよう。
そんな事を考えつつ、近くにいたドワっ娘の方へ歩いて行く。1人ずつ順番に拘束していこう。
特に気追わず背後から近づき、足を後ろに置き手を前から後ろへ。てこの原理で、後ろへ倒す。
後頭部を打つと危ないので、後ろに倒した後は手を回し、やんわりと受け止める。
「あっ・・・すみません・・・」
「いえ、うちの人達がすみません。危ないのでこちらで伏せていてくださいね」
抱きとめる形で忠告をすると・・・照れているな。そりゃそうか。いきなり抱き留められたら、誰だって照れるよね。それは別に良い。
問題なのは、この状況で女性と密着し、相手が照れている事にある。
こんな事をすればクランメンバーがどんな行動に出るか、火を見るよりも明らかだ。
俺は女性を床にそっと下ろすと、全力で前方へ飛ぶ転がった。
「避けたっ!ミラ、お願い!」
「わかった!」
避けた先で起き上がると、今度は前方からミラがブローを放ってくる。急所を外そうとか、そういった気遣いは感じられなかった。鳩尾辺りに真っすぐと木の棒を突き出してくる。
起き上がる勢いを使い、そのまま左手で木の棒を持った手をたたき落し、回転して身体の軸をずらす。
背後に回って首元を掴み足をかけ、後ろへ倒す。
「ミラ、ここ迄でおしまいね。ちょっと休憩しててよ」
「わかったよ・・・」
顔を近づけ、そっと伝えると不承不承と言った感じだが、少し嬉しそうに了承してくれる。
「あー!ハガネさんがドワっ娘に続いて、ミラにも抱き着いて囁いてる!ハクさーん!ハクさーーーん!!」
ちょっとリースさんや・・・そう叫ばないで頂けるかな。
ほら、さっきまで酒場の隅でスカーレットの後ろにいたはずの、リカとラナがこちらへ来て、魔力を高めているじゃないですか。
あの高め方だと、今まで使っていた初期魔法じゃないですね。前にも思ったけど、それ万が一にもクリティカル出たら、俺死んじゃうかもしれないからね?
リカが雷魔法の構えを取ったので、転がっていた木の円卓を踏みつけ起こし、俺はその下へ隠れる。
轟音と共に円卓へ雷が直撃したタイミングで、また全力で前方へ飛ぶ。
離れた円卓はラナの魔法で燃え尽きてしまい、消化の為かリカが氷魔法を使う。
このまま遠方から魔法を撃ち込まれ続けてはたまらないので、リカとラナの方向へ走り出す。
ただ、戦闘狂の騎士とラナ大好き騎士が俺の目の前に立ちはだかる。
「そう簡単にはラナ様の所へはいかせんぞっ!」
「楽しいなぁ、ハガネ!こういったのは久々だよ!」
このテンプルナイト2名は危険だ。普通に打撃を入れたところで、俺の攻撃力では効かないからな。いつもと違い鎧は着込んでないから、急所へ入れればそんな事もないだろうけど、流石に身内の急所を狙いたくはない。
「2人共、時間をかけられないから、直ぐ行くね」
2人の間に割って入る形で近づき、二人の手を掴み軽く捻って体を落とす。
頭から落ちない様に少しだけ引っ張り上げ、背中から優しく着地させた。2人共しっかり受け身をとってくれた。
「2人はここ迄ね。また後で少し話そう」
「「・・・はい」
2人共先ほど迄とは打って変わって可愛いな。基本スペックが高いので、しおらしくなった時は素晴らしいの一言に尽きる。
とか思っていたら、しゃがんだ後頭部へバックスタブをリースが打ち込んできた。
だから、その技も死ぬ危険性は非常に高いからね・・・。
少しだけ頭を横に倒し、伸びた手を掴み下方へ力を流す。突き出した勢いのままリースが前方に背中から落ちそうだったので、手を引き膝の上に頭をのせる。
「リースも休憩ね。ちゃんとミラを止めてくれないと」
「はーい」
そのまま頭をぐりぐりと膝に押し付けている。猫かな。
それにしても武神との修行は無駄ではなかったな。今までよりも制圧する事に対してスムーズになった気がする。皆との実力差はもはやそこ迄ない。
特にセラ、ミラ、ジャンヌは身体能力も加味すれば、俺より強いぐらいだ。その差を埋めるために武術があるのだが、修行した甲斐があるな。
そんな風に調子にのっていると、リースを膝枕したまま俺にドライアードツールがかかる。
やっばい・・・。ここで動けなくなるのは流石に無理があるでしょ。
「ハガネさん・・・・・・またそうやって人前でイチャイチャと・・・・・・何で私にはしてくれないんですかっ!」
「ハクさんに同意します。なので、二人でドライアードツールをかけさせてもらいました。もう逃がしませんよ」
ハクとギンナルのプロフィットペアが、俺の動きを封じてきた。非常にまずい。
ドライアードツールの効果が切れる迄、遠距離攻撃の的になってしまう。
「ハクにギンナル。やっと話せる。ちょっと話をしようじゃないか」
「リカさん、ラナさん!魔法の準備をお願いします!」
「リリ!スタンアタックでハガネさんの動きを止めて!」
再びハクとギンナルの鋭い声が響き渡る。まるでオルフェン討伐の時の様だ。
「残念だよ、ハガネ・・・。私達、戦乙女が貴方を倒す事になろうとは」
「ジャンヌさん、良いんですか!?私達、ザケン討伐に来たのに、酒場で主催者を倒して良いんですかっ!」
ジャンヌと女性PTのリーダーが逃げられない様に周りを囲ってくる。女性PTのリーダーは良いんですかと言いながら、しっかり逃げ道を塞いでくるのね。
俺はこの場に居ないディム、ユイ、レナに一縷の望みをかけ、そっと目を閉じ座り込んだ・・・。




