酒場で勧誘
酒場にやってきたものの、早々都合良く見つかるはずもない。お客さんが居ない事はないが、ぱっと見でもレベルが高そうな人はいないかな?
酒場に食事や飲みにきているので、装備品を身につけていないからそこ迄判別が出来ないが、立ち振る舞いというか歩いてるところを見れば、多少は強い人物かどうかもわかる事はある。
でも当然皆着席している訳で、判別はつき辛い。ここはクルマーの塔で野良PT募集をしていた時の事を思い出し、大声で呼びかけてみるかな。
それで一人でも見つかれば良いし、見つからなければ迷惑をかけたお詫びに一杯御馳走して離れれば悪くはないだろう。
この世界に来たばかりの時に比べたら、懐も少しは余裕が出来てきているからな。
ついこの間、悪魔の島へ行く船代や消耗品でほとんど手持ちがすっからかんになったけど、生還してから冒険者ギルドに調査報酬がもらえたので少しは余裕がある。
店の奥まで歩いて行き、カウンターの前までやってきた。
そのまま店主へ声をかける。
「今晩は。ちょっとだけで良いので、お客さんに呼びかけて見ても良いですか?実は今、悪魔の島でザケン討伐を行おうとしておりまして。そのPTメンバーの募集をさせて頂きたいのですが」
そう伝えると店主は訝し気な顔をし、こちらを一瞥する。
「何でうちの店でそんな事をするんだ?大体ザケンってなんなんだ。PTメンバーが欲しければ、冒険者ギルドに行って金を払ってきな」
当然と言えば当然の反応をされた。自分の店でお金も払わずPT勧誘を始めさせてくれと言い出している男が来たのだ。迷惑以外の何者でもないだろう。
「いえ、冒険者ギルドでは既に募集はかけておりまして。それでもまだ47名しか集まってなくてですね・・・。最低でも後、13人は増やしたいのです。もちろんタダとは言いません。今居るお客様達にせめて1杯ずつはおごりますので、その分だけでも売上が増えると思うのですがいかがでしょうか」
「ほう・・・今居る客だって結構な数がいるけど、そんなに金を持っているのか?こっちゃあ金さえ落としてもらえるなら、何したってかまわねぇぞ」
「許可を頂きありがとうございます。ではちょっとだけこの場をお借り致しますね」
何とか店主の許可を頂けたので、気が変わる前に募集を行ってみよう。
そう思ってるとまた店主が話しかけてきた。
「あ・・・あんた、あれか!大量の女を侍らせている、なんとかって血盟の盟主で伯爵か!しかもヒーラー職なのに、どんな魔物にも素手で嬉々として向かって行くとか。しかも盗賊狩りとかも言われてるだろ!あんたが、あの・・・頭のおかしいヒーラーかっ!」
「いえいえ。それはきっと、噂に尾ひれがついただけかと思いますよ。確かに武術を楽しんでおりますが、嬉々として盗賊狩りをしてる訳では御座いません。貴族としての責務を多少なりとも果たそうとした結果ですので」
「嘘つけ。なんか町の近くでエルフの男とずっと戦っていたろ?それが修行なのかどうかは俺に分からないけど、相当激しい戦いだったって飲んでた客が言っていたぞ。しかもボロ雑巾みたいにやられているし、力の差も歴然なのに何度でも起き上がって、笑顔だったって聞いているぞ」
おぉ・・・武神との修行を目撃されていたのか。あれはまぁ、一般の方が偶々みたら衝撃だろうな。
痛みで覚えろというのもあり、防御系エンチャントの使用は禁止されており、容赦なく攻撃をされるから血まみれだ。
流石に手が折れたり、足が折れたりしたらヒールをしていいものかと思ったが、それすらも止められた。
手や足が折れたままだと、当然ながら身体のバランスが悪くなる。バランスが悪くなるどころの騒ぎではないのだが、武神の中ではちぎれたりしない限りは問題にならない事だと言う。
折れたなら折れたなりの動きが出来なければ、戦場では生き残れない。自分より強い相手と戦っていて、手が折れたから治すのを待っててくれと言ったところで待つ訳がない。
だから、折れたなら好都合。折れた時の動きが修行出来ると。
俺からしてもとんでもない修行ではあったので、あれを見られたら頭のおかしいと言われても仕方がないかな。笑顔なのは・・・何だかんだ楽しかったからだ。
あそこまでの厳しい修行と言うのは経験がなかったので、純粋に楽しかった。
最悪死ぬ前なら回復すれば、何とかなるからこその修行だと思う。
なので、笑っていたのも仕方がないのだ。
「噂の件はともかく・・・・・・募集させて頂いても良いですかね」
「ああ、いいぞ。ただ、あんな噂が流れていて、参加するやつなんているのかね・・・」
店主はぶつぶつ言いながら、洗い物をしに戻って行った。
「皆さま、お楽しみの所すみません。少しだけ話を聞いて頂いても宜しいでしょうか!今、私共の血盟でレイドボス・・・悪魔の島を我が物顔でうろついている、ザケンの討伐を行おうとしています。血盟員と冒険者ギルドで応募した勇敢な方達が集まってくれております。ですが、まだ倒すのに人数が足りておりません。どうでしょうか。正直な事を話しますと、命の危険があり、報酬も分配されるか分からない。そもそも討伐が成功するかもわからない。討伐出来たとしても、得られるのは僅かな名声のみ。そんな条件でも参加してくれると言う方がもしいましたら、我々と悪魔の島へ行きましょう!我こそはと声を上げてくれる方はいませんか!」
募集している旨を伝えると、まずは静寂が訪れた。それからは少しずつざわめきが広がっていく。
そこ迄だだっ広い店ではないので、ひそひそと話し声が聞こえてくる。
そこっ!頭のおかしいって言葉を、俺のことを指す時に最初につけるんじゃない!
「あの~・・・それってレベル45とかでも参加出来ますか?」
最初に声を上げてくれたのは、ドワっ娘だった。恐る恐ると言った感じだったが、前から興味があったが自分のレベルが気になり、申し込みが出来なかったのかもしれないな。
「はい、もちろんです。ザケンと直接戦う部隊ではなく、周辺でのサポート部隊とはなります。ですが、報酬は参加者全員に均等に分配します。まぁ分配出来る程の良い物が沢山ドロップすればですが」
そう伝えるとドワっ娘は、是非参加したいと言ってくれた。
え、こんなあっさりと勧誘できるものなの?
討伐メンバーが増えたのは嬉しいが、騙されているんじゃないよね。




