まだまだ精進あるのみ
既に手を伸ばせば届く位置にいる。最短距離を通して、中指を尖らせ拳を握り一本拳で急所の廉泉(喉仏)を打つ。力はいらない。命中すれば急所と言うだけあって、効果は期待出来る。
余計な力みなどあれば、この人には絶対当たらない。
俺の手が伸びた分だけ武神は後方へ身体を下げる。ギリギリで俺の拳は届かない。気にせず重心を下方へ落し足を広げ、伸ばした腕を折りたたみ肘を水月へ。
今度は手を添えてやんわりと受け止められる。今一度肘を伸ばし拳を開きバラ手で目打ちをうつもあっさり避けられ、そのまま重心を前方へ移動しながら靠を放つ。届いてはいるのだが、また下がられてしまいただ身体が触れるだけになってしまう。
今は相手に背を向けてる形になっているので、足を後ろに折り曲げ金的を狙ったが膝を内側に入れ捌かれてしまう。捌かれると同時に後方へ身体と首を曲げ、頭頂部を眉間へ。顔を横へずらし俺の頭突きを避ける。
身体を回転させ金的を狙い下方から掬い上げる様に手の甲で打つ。後ろに下がられ空振り。持ち上げた手で胸元を掴もうとするも空振り。逆手で親指を突き出し拳を握り側方からこめかみを狙い打つも、空振り。
一旦お互いの動きが止まり、見合う形で停止する。
この相手はどうやればダメージを与えられるんだ・・・。これだけ密着して接近戦で攻撃を打っても、急所だろうが何だろうが、俺が動いた分下がられ全く力が伝わらない。
せめて攻撃を防いでくれれば、そこから組技に移行したりもしたいのが、先の感じだと組技は絶望的に勝てない。だからと言って打撃技が通用するかと言えば、今の状況だ。
でも俺が勝てなければ仲間が死ぬ。捨て身で今一歩踏み込んでみるか。
相手に動きは無いので、手のひらへ魔力を溜める。WSをいつでも放てる状態にして、前蹴りを腹部へ放つ。いきなり蹴ったところで当たる訳がないのは重々承知しているが、当たり前の様に半歩下がられ蹴りが空を蹴る。
そのまま蹴り足を落とし、相手の足の甲を踏み抜く。スッと足を下げられ避けたと同時に掌底が放たれた。意識が足元にいってしまっていた為、直ぐに反応出来ず横っ面を叩かれる。
受け流す事も出来ておらず、口内へ血の味が広がる。
俺が一歩踏み込む様になったと同時に攻撃を開始してくるのか。今までなら先ほどの掌底は避けられたかもしれないが、嫌なタイミングで攻撃に移行してくるな。でも気にせずやらせてもらおう。
前へ踏み込み、身体を沈み込ませ両手で膝上辺りを掴もうとする。俺の進む距離がハッキリと分かっているのか、絶妙な位置へ下がり俺の両手は何も掴めない。下がった反動を利用し、膝が跳ね上がってくる。
顔面に喰らいたくないので、重心を後ろに戻し身体を起こして膝を躱す。突き出された膝を避けると今度はその折りたたまれた足が伸び、側頭部に蹴りを喰らう。
喰らったまま前へ顔を突き出し、口内に溜まっていた血を顔へ向け吹きかける。これすらも身体を沈ませ避けられてしまったので、下がった頭へ向け肘を落とす。頭を横に傾け俺の肘を避け、避けた方向と反対の手で顔面へ掌底を打たれる。
負けじと俺も脇腹へ鉤突きを打つが、横に避けられ届かない。そのまま手を開き溜めていた魔力を使い、WSを同じく脇腹目掛けて放つ。また後ろに下がられたので、下段蹴りをふくらはぎ辺りを狙い打つ。
俺もやるが蹴り足を足で受け流され回され、少し大股になり着地してしまう。
その隙間を狙い下方から蹴り上げられ金的を狙って来たので、両足を閉じ膝で受け止める。止めたと同時に顔面へ掌底を受けた。俺の鼻から血が噴き出す。
頭が後ろに流れのけぞってしまった間に、俺の技を真似されたのか顔面を打った腕を落とし、俺の胸部に肘が刺さる。しかも寸分たがわず水月にめり込んでくれた。
息が出来なくなり、一度肺の空気を吐き出す為にむせ返る。そんな隙を見逃してくれるはずもなく、逆手で脇腹に掌打を打たれる。ただでさえ苦しいのに、余計に呼吸が厳しくなる。しかも打撃というより、内部へ通す様な攻撃で、俺の鎧通しみたいに放ってきた。
内臓にダメージが間違いなく入ったと思ったら、さらに反対からも脇腹へ掌打を受け、むせ返る事さえ出来なくなる。
ここで防御に回った所でたかがしれている。呼吸が止まったまま一歩踏み込み正拳突きを放つ。
難なく下方へそらされたが、足を入れ替えさらに半歩踏み込み、そのまま肘を曲げ胸元目掛けて放つ。
今度は手を添え横にそらされたが、回転し反対の肘で側頭部を狙う。頭を後ろに下げ避けられたところで、肘を外された手を開き再度溜めておいた魔力を追加WSを放つ。しゃがんで避けたと同時に膝を上げ顎を狙う。逆手で抑え込みながら下がられたが、膝を上げた反動を使い腹部を蹴り込む。
漸く―――漸く当たってくれた。
が、武神の腹部へつま先が少しだけ入ったところで、身体を捻じり受け流されまた掌打をこめかみに打たれ、受け流す事も防ぐ事も出来ず直撃し、俺は倒れてしまった。
「いやいや、今のは危なかった!僅かとはいえ、ダメージを受けたのなど久方ぶりだよ!やるね、ハガネさん。この調子なら私に一撃を入れる事も、今後は可能なんじゃないかな。良かったら、修行を受けてみないか?君たちヒューマンは寿命が短いが、成長は早い。国に帰らなければならないから、そんなに長い期間は出来ないけど、僅かでも成長に繋がる様に私も頑張るよ。ワニが受けた修行より大分厳しいものになるが・・・・・・・・・」
意識が遠のいていく中で、嬉しそうに話す武神の声が聞こえている。
修行か・・・・・・確かに必要だろう。このままザケンに挑んだ場合、また1対1で戦う時には間違いなく殺される。
少しでも・・・少しでも自分の力を引き上げて、仲間達が助かる確率を上げておきたい。
是非頼むと伝えたいのだが、声が出せない・・・・・・。
最後の一撃だけ遠慮なくぶち込んでくれたのだろう。しかも浸透勁を頭に打ち込みやがって・・・・・・。
まだまだ俺は強くなれ・・・る・・・・・・はず。
「ハガネさんっ!今ヒールを!ユイさん、一緒にお願い!」
ハクの心配そうな声がどこか遠くから聞こえてくる。
俺の意識はそこで途絶えてしまった。




