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武の極みは遠い

 じりじりとすり足を使い、武神との間合いを詰めていく。


 プレッシャーが半端ないので、飛び込んでしまいたい衝動へ駆られるがそれは駄目だ。飛び込むという事は大きく踏み込みが発生し、技の起こりがバレやすい。一般的な盗賊とかなら兎も角、遥かに格上の相手では悪手になるだろう。ここは我慢だ。



 感覚的なものだが、既に武神の間合いには入ってしまっているはず。だが、この人は攻撃を仕掛けて来ない。面白がっており俺の攻撃をみたいんだろうな。


 例えバレていたとしても、近づいて足技ではなく手技を使うのが良いと思う。足技はリーチも威力もあるけど、手に比べたら単純になりがちだし技の起こりも分かりやすい。


 通用するかは別として、出来る限り考えて相手に一撃でも当てる方向で動いていこう。




 相手からの攻撃がないので、そのまま近づき完全に俺の間合いに入った。それでもニコニコとしているだけであちらからは攻撃をしてはこない。


 遠慮なく、やらせてもらいますよ!




 前手にしていた左手を目一杯開いて、相手の顔の目の前へ突き出し目隠しをしつつ、身体ごと半歩分進む。


 掌底の様な形での攻撃と、相手の視覚を奪う為の攻撃だ。


 しかし俺の手が前へ進んだ分頭を後ろに下げ、何事も無く避けられてしまう。俺は開いた左手を突き出したまま、今度も半歩進み右手で真下から顎へ向かい掌底を放つ。


 顔が僅かでも後ろにそれているので俺の右手は見えてないし、避け辛い体勢になっている為身体を捻じり思いっきり振り上げ威力を上げる。



 見えていない筈ではあるのだが、俺の掌底は空を切る。左手の目隠し兼攻撃を俺が攻撃した分だけ下がり、その後の右手の攻撃も足を半歩下げ身体を下げる事でギリギリで見切られる。


 このままでは俺の身体が伸びており危険な為、振り上げた右手を折りたたみ膝を曲げ、身体を沈み込ませて胸部に向けて肘を落とす。



 ここで漸く俺の攻撃を避ける為に武神は手を使った。


 胸部に向けて落とした肘を、そっと左手を添えずらされる。身体が左へ流されたのでそのまま回転し、左手で顔に向けて裏拳を放つ。


 僅かに顔を左へ反らされ、これも避けられてしまう。止まったらやられると考え、そのまま回転の勢いを生かし、避けにくい様に顔面にではなく右手で腹部へ鉤突きを打つ。



 また半歩下がりながら右手を添え、俺の拳をそっと押さえる。止められた感覚が無いまま、俺の拳は止まってしまった。


 力で止めているのではなく、威力を最小の動きで殺されているのだろう。それが可能という事は、攻撃が完全に見切られてているという事が。


 威力だけではなくタイミング迄読まれてしまい、苦も無く全て避けられている。



 

 が、ここで止まる訳にはいかないので、鉤突きからの連撃を放っていく。


 本来であれば相手は途中で避ける事も倒れる事も叶わず・・・といった技なのだが、まず最初の一撃が入っていない。


 それでも技の継ぎ目無く放てば、どれかしらは当てる事が出来、致命傷に至らせる事が可能だったのだが―――これも全て躱すのか。




 先ほど迄の攻撃を避けるのと同じで、僅かな動きと少しの手の力で全て受け流されるか捌かれる。


 このままだと間に攻撃をねじ込まれてしまいそうなので、一度大きく後方へ飛び息を整える。その間も武神は攻めて来ず、ニコニコと俺の方を見ているだけだった。


 連撃で大きく息を乱してしまった為、少し時間を置いて再度構え先ほどと同じくじりじりと近づいて行く。


 


 しかし・・・このまま攻撃をしても、今の俺の力量では難しいと思い知らされてしまった。


 先ほど目打ちが少しだけ掠める事が出来たのも、相手が殺す気の無い攻撃を行ってきて、それを受けもせずこちらの攻撃を放ったからだ。初見だった為、少しの驚きがあった事と、試すつもりで攻撃を仕掛けてきたから何とか掠らせる事が出来た。


 もし今同じ事をしても、それが通用しないであろう事は十分思い知らされた。


 じゃあ、どうするか・・・。




 攻撃される事もなく、俺の間合い迄再度詰めたのだが、打ち手に欠ける。


 素手で話にならなければ、杖を使うという手もあるにはあるのだが。ここ迄の力量の差があると、それも厳しいであろう事は容易に想像がつく。


 打撃を捨てて、投げ技、締め技等の超接近戦を行ってみる事にした。




 そのまま間合いを詰め、相手の左腕をとり・・・・・・いや、とれない。掴む直前に自然な動きで避けられ、そのまま俺の右腕が掴まれる。


 このままだと何をされるか分からないので、俺は右腕を自分の方へ折り畳み左手で相手の手のひらを下へ落し小手返しを行ったのだが、何の抵抗も無く相手の身体が沈み込みそのまま腕を軸に回転し、何事もなかったかのように対峙していた。




 武術には打撃技、組技と大きく言えば分類が2つに分かれる。勿論両方を極めるに越したことはないが、普通はどちらかに偏るだろう。


 俺はどちらかと言えば打撃系の技を多くならい、それを使う事が多い。組技ももちろん教えてもらい、習得はしたが完成度で言えば打撃系の方が上だろう。


 だが、その打撃技が全く通用しない為組技を試してみたのだが、流石の武神。どちらも極めてらっしゃる・・・。



 その為、俺の中での練度が低い組技を試したところ、今まで以上に実力の差を思い知らされる事になった。


 これは組技だけでは絶対に通用しないのが、今の一合だけで思い知らされた。



 掴んだ腕を離し、再び身構えるがどうしたもんかね。



「うん、色々試行錯誤をしているのが、こちらにも伝わってくるね。それに良い動きだ。常に修練を怠らず、その道を極めようとしているのが伝わってくるよ。ただ、そのままでは通用しないから、どうしようかと迷いが見えるね」


 

 一言も言葉を交わしていないのに、俺の動きだけで全て読まれてしまっているのか・・・困ったもんだな。



「遠慮しなくて良いんだよ。あくまで綺麗に戦おうとしているのは伝わってくる。けど、そんな事は考える必要はないよ。私としては武術で殺されるなら本望だ。その相手が君かは分からないけど、殺す気でかかってきなさい。それが上手くいくかどうかは別として、少しでも君の身になるだろう」



 ありがたい言葉だ。自分より遥かに格上の相手から頂く言葉としては、非常に好ましい。こんな機会はめったに訪れないだろうし、そのつもりでいかせてもらおう。


 あり得ないとは思うけど、万が一の場合は相棒とも呼べる相手の親殺しになってしまうが―――そう考えるのは自惚れすぎかな。




 意識的に気持ちを切り替え、俺が負けたら皆を殺されてしまうと思い込む。


 深く息を吸い、それを全て吐き出す。




 ―――こいつを殺そう。

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