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新たな旅の始まり

 さて、現実逃避で皆の事を思い出してみたが、目の前の現実は微動だにしない。変わらない。容赦なく俺に襲いかかってくる。静まり返った部屋の片隅では、椅子に座る俺の視線の先に、うっすらと積まれた地図と紙の束。作戦会議用に引っ張り出してきたが、見ただけで頭が痛くなってくる。何の罰ゲームだ、これは。


 旅に行くなら理想としては1PTの9人だ。それ以上多いと色々と大変である。いや、色々どころじゃない。毎日が地獄の工程表になる。例えば食事。全員分揃えるだけでも金が吹っ飛ぶし、宿の手配ともなれば、町によっては二手三手に分かれて寝泊まりしなきゃならなくなる。

 それに、万が一PTメンバーの構成が俺以外全員ファイター職になったりしたら、戦闘バランスが崩壊してまともに狩りにならない。シャレにならないんだよ、ほんとに。


 今から向かう予定の場所はお隣の国……と言っても、移動に一ヶ月はかかるらしいが……ドール城のあるドール城下町だ。ここから馬車を乗り継ぎ、いくつかの街道を越えてたどり着く。しかも季節は初夏。日差しは強く、乾いた風が旅人の喉を容赦なく乾かす。これがまた地味にキツい。


 ドール城の傍には、悪魔の島――そんな物騒な名前の狩場が存在する。かつての記憶では、PTで狩るには丁度いい中~上級者向けの狩場だった気がする。だが、今のこの世界では、地名の通り、本当に悪魔でも出てくるんじゃないかと不安になる。 


 まぁ、この世界は何もかもが厳しいので、1PTで無理そうだったら即座に諦めて増援を呼ぼう。命がいくつあっても足りないからな。


 ……で、わざわざそんな危なそうなところを目指す理由だが、単に経験値が美味いからってわけじゃない。


 事の発端は、ギルドマスターの一言だった。ここザイオース城下町からドールへ向かった冒険者たちが、誰一人帰って来ない。連絡も取れない。音信不通。最初は「居心地が良くて帰って来ないだけじゃね?」なんて笑い話だったが、ドールの冒険者ギルドに問い合わせたところ、悪魔の島へ行ったまま帰還していないという情報が出てきた。


 それも、ザイオースの冒険者に限った話じゃなかった。ドールの地元民すら帰って来ない。あちらのギルドでも注意喚起が出るレベルの異常事態になっていた。


 そして最終的に、その問題が、なぜかうちに回ってきたのだ。


 頭の可笑しい戦闘狂のヒーラーを盟主としたイカれた軍団――もとい、レイドボス討伐の実績を持つ、れっきとした伯爵家所属の英雄クランに、調査の依頼が来たという訳だ。


 まあ、そう言われてしまえば、断る理由もない。過去の因縁や冒険心もあるし、何より放っておけなかった。


 


 って、思い返してる場合じゃない!


 現状を見ろ、俺!


 ハクは長文の演説を始めてるし、セラ、ミラ、ジャンヌは「じゃあ摸擬戦で決めようか」などと物騒な提案をし出す始末だ。


 リカとリースは、そっと俺の両側に来て、まるで当然のように腕を絡めてきている。こういう時だけ結束力があるのやめてくれ。


 さらにラナとスカーレットは「初の冒険よ!」「装備も新調しましょう!」と、完全に行く前提で盛り上がっている。いや、まだ決まってないんだってば……。


 他のメンバーも、まぁ似たり寄ったりだ。このままでは本当に収拾がつかない。まずは感情を排除して、職業だけで考えてみよう。感情を入れたら全員連れて行きたいに決まってるんだ、そりゃもう。


 


 基本的なPT構成として、上位狩場や未知の狩場でよく組んでいたのは、盾、歌、踊り、ヒーラー2人、バッファー1人、アタッカー3人の布陣だった。


 もちろん、職業なんて関係なく、どんな構成でも楽しい。でも、安全圏から逸れる場所にネタPTで行くのは自殺行為だ。この世界では死んだら本当に終わりだ。ゲームのように「リザレクション」なんて甘いものはない。


 


 ……となると。


 盾役は、テンプルナイトのスカーレットとジャンヌ。それにソードシンガーのセラ。歌もセラが担える。


 踊りはディム。ヒーラーはビショップのレナと俺、それにシリエンエルダーのユイ。バッファーはプロフィットのハクとギンナル。


 物理アタッカーは、シルバーレンジャーのワニ、ホークアイのハンナ、プレインズウォーカーのリース、アビスウォーカーのミラ。そしてバウンティーハンターのリリミアもその枠に入る。


 魔法アタッカーは、スペルシンガーのリカ、ソーサラーのラナ。……あとは、婚約者以外にもメンバーはいるのだが、最低限、俺のPTなら婚約者で埋めろという謎の圧力がある。何なんだこの世界は。一夫多妻制大好き過ぎるでしょう。


 


 やはり、1PTだけで行くのは無理がある。誰を選んでも誰かが文句を言う。いや、文句だけならまだしも、物理的に命を狙われる可能性すらある。こわい。


 


 まぁ普通に考えれば、クランに参加して初めての旅になるラナとスカーレットの2人。それと、ギンナルとリリミアはセットで連れて行くのが自然だろう。


 あとは……皆には申し訳ないが、俺も当然行くとして、残り4枠。職業バランスだけで考えれば、セラとディム、レナかユイのどちらか2人、それにアタッカー1人。だけど……決めきれない。無理だ。


 


 取りあえず、血を見る前に皆を一度諫めて、一晩待ってもらうことにした。誰を選んでも誰かが残る。ならいっそ……2PTで行っちゃう?金銭も行動制限も無視してさ。俺は、恨みを買うような選択をしたくない。ただ、それだけなんだよ。


 


 眠い……。


 徹夜で悩み抜いたのなんて、何年ぶりだろうか。脳がふわふわして、おかしなテンションになっているのが自分でも分かる。


 何度も何度も組み合わせを変えて、机の上で紙を並べてPTを組んでみた。でも、結局は決まらなかった。だって、皆で行きたいんだよ。俺も、みんなも。


 


 そんなハイテンションのまま、俺は皆を集めて旅のメンバーを発表することにした。


「皆、集まってもらってありがとう。それと、決めるのに時間がかかって悪かったね。職業だけで考えてPT組もうとか、皆の相性とかも考えてベストメンバーを作ろうとしたんだけど……結局、俺は、皆のことが大好きだってことを再認識したよ。誰を選んでも、誰かが残ってしまうから、いつまでたっても決まらなかった。だから……費用とか、実際の行動のしづらさとか、そういうのを全部抜きにして――全員で行くことにしたんだ。皆、それでいいかな。優柔不断でごめん」


 一瞬、時間が止まったような静けさが部屋を包む。そして、次の瞬間――。


「流石ハガネさん!何処まででもついていきますからね!」


 ハクの言葉を皮切りに、部屋中が一気に賑やかになった。誰も彼もが笑顔で、声をあげて、俺の言葉を受け入れてくれた。俺の選択が間違ってなかったんだと、やっと確信できた気がする。


 唯一、ワニだけは苦笑いだったけど……お前、人ごとみたいな顔してるけど、推してる――いや、もう推してるどころか婚約者なんだよな、お前も。


 その3人だって「ワニ様が行くなら行く! 行かないなら残る!」って言ってたからな!? それだけで構成決めるのに一苦労だったんだぞ!


 少しはこの苦労を共有してくれ、ワニ……。

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