生き残る為には
大分血が流れてしまった様で、頭がふらふらする。出来ればヒールを自分へかけて休憩したいところだが、親の木人形はまだやる気満々だ。オーラバーンを受けて後方へ倒れてくれたものの、すぐに起き上がり包丁を前面に出し突き込んでくる。
腹の辺りを狙ってきたそれを、左へ一歩踏み出すと同時に腕を相手の両腕の間へ潜り込ませる。包丁を避けて両腕の間に入れた腕を上に向け捻り、反対の手で相手の両手を下から押し上げ捻り地面へと叩きつける。バシャンと水音をたてて親の木人形は地面に背中から落ちる事となった。
この機会に倒してしまいたいので、杖を振り上げ喉元へ突き立てる。特に抵抗されず、上手く突き刺さってくれた。そのまま杖を手放し倒れ込み、両手で頭を地面に抑え込み詠唱を始める。オーラバーンを放ち海水が跳ね上がる。親の木人形は光になって消えてくれた。
うん、しんどいぞこれは。ゾンビならアンデットだからDUが効くからまだ良いけど、あんまり木人形は相手をしたくないな。
特殊な攻撃・・・毒を使ってきたりとかも無いけれど、特に弱点もないから戦い辛い。急所もある様な無い様ないまいちわからん。
そろそろ皆も子を倒し終えているかと思い、戦っている方向を見ると何故かラナが倒れ込んでおり、ギンナルがしゃがんで抱きかかえている。まさか刺されたのか!
俺は慌てて駆け寄り、ラナへGBHをかけた。俺の慌てっぷりが伝わったのかギンナルから声がかかる。
「刺されたんじゃないよ!体調が悪いみたいで、熱が凄いの」
良かった・・・とは言えないな。スカーレットもそうだが、病気にはヒールが効かない。ここには医者も薬も無いから非常にまずい。何とかしてあげたいのだが、俺個人で出来る事などないからな。
まだ戦闘音が聞こえるのでそちらを見ると、リリミアが木人形の子と戦っている。スタンアタックが良く効いている様で、危なげなく戦っているみたいで安心した。俺が見ている間に子は光になって消えていった。
「良く頑張ってくれたね、リリ。一旦奥へ引いて、海水から上がろう」
皆へ声をかけ、休憩していたところへ戻る。スカーレットが心配そうな顔をして頭を上げてきたので、再度横になってもらい、海水で濡らした布切れをおでこにのせる。スカーレットも熱が未だに引いて無い様で息が荒い。
こんなところでこの状況では、精神的にも肉体的にも辛いだろうからな。体調を悪くしてしまうのもわかる気がする。
ふと腹の辺りに走った激痛で刺されていた事を思い出す。取り合えずヒールを自分にかけて傷口を塞いだはいいが、血が足りないのか足元がおぼつかない。あまり宜しくない状況だなぁ。
見ればギンナルも体調が悪そうで、薄暗いなかでも顔を赤らめているのが分かる。そっと手を出しおでこを触ると、やはり熱くなっている。目もどこか虚ろになっており、大分無理して戦っていたのが分かった。
「ギンナルも横になって。無理しちゃダメだよ」
「ハガネさんには言われたくはないかなぁ」
力なく答え、ギンナルも横になる。リリミアはまだ元気そうだが、単純に戦闘で疲労している様に見えた。このままではここで戦い続けるのも怪しいものだな。どうしたものか。
「リリ・・・3人の事を頼んで良いか」
「ハガネさん、1人で戦うつもりですか!?そんなのダメですよ!リリも一緒に戦うです!」
「俺とリリがここを離れたら、万が一襲われた場合にどうしようもないからね。でも、誰かがここで守っていてくれると助かるな。後ろを気にしないで戦えるから」
「そんな事を言われたら断れないです・・・でもハガネさんがやられちゃったら、リリ1人じゃ無理ですからね!絶対負けたらダメですよ!」
「ああ、わかっているよ。ありがとう、リリ」
リリミアに3人を頼み、ふらつく足取りのまま袋小路の入り口へ移動する。こちらか積極的に狩りに行く訳じゃないから、魔物が来なければただ見張ってれば良いだけだから何とかなるだろ。
そう思って入口に着くと、やはり甘くなかった。ゾンビが2匹こちらへ入り込もうとしていた。もう少し休憩をさせて欲しいものだが、そんな事を伝えてもこいつらは待ってくれないからな。早く倒してしまおう。
俺はDUを片方へ撃ち込み、ゾンビ2匹へ突っ込んでいった。
それなりの時間はかかったが、ゾンビ2匹を無事に倒す事が出来た。俺は荒くなった息を整える為と、魔力を回復する為に立ったまま目をつむり、瞑想を始める。
ゾンビとは言え2匹同時に相手取るとどうしても被弾するな。絶好調で足場が良ければ、ダメージを受けずに倒せるかもしれないが、この状況ではやはり無理がある。防御が上手い相手ではないので、狙った位置や急所に攻撃がどんどん入るので何とか倒せてはいるが、そもそも俺の攻撃力が低いせいで倒すのに時間がかかる。
パワーはこちらとは段違いだから、一撃喰らうと痛いんだよね。下手をしたら意識を飛ばしてしまうので、クリーンヒットを受ける訳にはいかない。普段以上に集中して戦う為、疲労の蓄積も多い。
ただ、ここで俺がやられたら、後ろにいるリリミア達が危険にさらされる。意地でもワニ達が来るまでは俺がここを死守する。改めてそんな事を考えていると、今度は木人形が1家族やってくるのが見える。
ああ・・・やはりこの世界は甘く出来ていないな。ソロであいつら1家族はかなりの無理がある気がするが・・・やるしかないね。
額の汗を拭い、左手、左足を前に出し、右手を腹の辺りに添えて身体を沈み込ませる。杖を使って距離を取って戦いたい所ではあるが、流石に1対5だと小回りが利かなくなり攻撃を受ける事が多くなってしまいそうだ。
近距離戦は大好きではあるのだけれども、別に勝つ可能性が低い戦いを好んでる訳ではない。確かに強敵と戦うのは自分の成長にもなり好ましいが、万が一ここで負けると奥に居る4人が危険な目にあう。それだけは許容しがたいので、どんな状況でも勝つしかない。
まぁやれるだけやってみよう。もう少し時間を稼げればきっとワニ達救出班も来てくれるはずだ。結局は人任せになってしまうのが情けないところだが、この状況で虚勢をはっても仕方がない。何にしても生き延びて救助を待ち、4人を連れて帰ってもらわないとね。




