今日に至るまで、色々ありました。
あらすじ的なものです。前作を見ている方は読み飛ばして大丈夫です。
この世界に来てから、どのくらい経っただろうか……もう2年近くになるのかもしれない。季節が巡るたびに草木の色が変わり、太陽の位置が少しずつずれていくのを、ぼんやりと眺めていた。思い返せば、まぁ色々あった。ほんと、色々。
元々の私は、40歳で居酒屋の雇われ店長だった。駅から徒歩10分、看板にやる気がないチェーンの一角。ブラックでもホワイトでもない、どこにでもあるブラック気味の灰色の人生。日々、酔っ払いと愚痴の渦の中、ビールサーバーと語り合うような毎日だった。
ところがある日、普通に仕事をしてたら急に目の前が真っ暗になって――気づけばド田舎の小島にある、なんとも風情ある教会の中で、神父様と対面していた。窓から差し込む柔らかい朝日、木の香りのする柱、どこか懐かしい讃美歌のような旋律。それが最初の記憶だった。
最初は「え? ここどこ? 誰? なに?」状態だったが、ふと自分の手を見て気づいた。――うん、若い。しかもすっごくゲームで見たことある風貌。まさかの見た目15歳位、ヒューマンメイジになっていたのだ。
まあ混乱はしたよ。何も知らずに異世界に来て、自分が若返ってて、知らない神父に拝まれてんだから。でも、元々ファンタジー好きな中年だった私は「これはもう楽しむしかないでしょ!」と、冒険者ライフを満喫する決意をした。
――が。
いわゆるテンプレな「異世界転生チート特典」なんてものはなく、女神様も現れず、解説おじさんもなし。装備? 金? スキル? そんな便利なものはひとつもない! むしろ「いっそ死んだままでいた方がマシだったかも…」とまで思えるスタートだった。
そんな中、最初に出くわしたのが――ウサギ。いやもう、のっけから襲ってくるウサギって何? モフモフの裏に殺意を隠してくるんだぞ、アイツら。しかも武器がないから素手で殴るしかなくて、妙にリアルな手応えがあって……正直、心が折れかけた。
その後、最寄りの村にたどり着いたものの、当然金はなく宿には泊まれず、飯も食えず、木のそばで野宿しながら井戸水だけでサバイブ。夜の冷気が肌に刺さる。獣の鳴き声が森の奥から響いてくるたびに、震えながら朝を待った。自分でもよく生きてたと思う。いや、ほんと。
生き抜くためにウサギを狩って、何とか串肉が食べられたときの感動といったら……あれはもう、人生ベスト3に入るうまさだった。涙が出た。あの瞬間、「金って大事だなぁ」と身に染みた。前世でも痛感してたけど、胃袋と命が直結してると実感するのはまた違う。
ただ、ゲームと違ってこの世界、色々とキビしい。20年以上前に遊んだMMORPGの世界がベースっぽいけど、記憶があいまいなことも多くて……それでもまあ、なんとかサバイバルしていた。
――まあ、一度死んだんだけどね。
調子に乗って魔法を覚えて、「これでもう安全だろ!」って新しい狩場に行ったら、森の中であっさりオオカミに食い殺された。あれは痛かった。精神的にも物理的にも。バリバリって、聞こえたよね、肉の裂ける音が。やめてくれよ。
でも、不思議なことに最寄りの村で復活できた。これは転生特典ってことでいいのかな? ウサギだけ狩ってゲームオーバーとか、さすがに不憫すぎるしね。
ただし、この世界では復活魔法は伝説級。PTメンバーの目の前で死んで、そのまま別の場所で復活したら……どう見られるか怖すぎて、下手に死ねなくなった。生き残るって、意外とプレッシャーなんだよ。
とはいえ、当初はずっとソロプレイだった。最初の仲間になったのは、また森に挑んで死にかけてた時、颯爽と助けに来てくれたヒューマンメイジのハク。可愛いけど、なんか闇がある……いや、めっちゃある。けど気が合って、ペアを組むようになった。
しばらくレベル上げをして、いざ初めてのダンジョンへ。そこで出会ったのがエルフファイターのワニ。PTが全滅しかけた時に一人残って他のメンバーを逃がしてた勇者。その姿に感動して助けに行ったら、骨だらけの中で華麗に回避しまくってた。あいつは、あの頃からすごかった。
その後、3人でPTを組んで2次転職までレベル上げ。ワニが帰郷するってことで、またハクとペアになって初期村から船に乗って本土へ。広すぎて移動が面倒だったけど、何もかもが新鮮で楽しかった。風が潮の匂いを運び、甲板から見た夕焼けは、たぶん一生忘れない。
本土に着いてすぐ冒険者ギルドへ。受付嬢――ヒューマンメイジのアリアと出会った。最初からPT入りはしなかったけど、よく一緒にご飯を食べるうちに仲良くなった。無口だけど、笑うとかわいい子だった。
それから酒場では、金髪碧眼のエルブンナイト・セラと遭遇。テンション爆上がりしたけど……性格が戦闘狂のそれで、常に模擬戦を挑んでくる。未だに「師匠!」とか呼ばれて全然容赦してくれない。嬉しいけど、怖い。主に物理的に。
最初の頃はステータスも拮抗してたし、技術でなんとかなってた。でも今は……あっちが強くなりすぎてて、毎回内心ヒヤヒヤ。顔だけは涼しげにごまかしてるけど、そろそろ限界かもしれない。
その後アリアがPTに加わり、4人で次の町へ。その道中で盗賊と遭遇。皆の反応は冷酷そのもの。人扱いされてなかったな……ってか、初めて人を殺したんだけど、思ったよりあっさりだった。あの辺りから、なんか感覚がズレてきた気がする。
その後PKにも襲われ、皆を逃がして自分は死にかけ――た時、颯爽と助けに来てくれたのがワニ。また死んだけどね。その後、ワニを加えて5人PTへ。
ここからがPTライフの真骨頂。クルマーの塔での狩りで、野良PTから固定メンバーが増えていき、リカ、ディム、ユイ、ミイが加入。ついにフルPT!
男は俺とワニだけってことで肩身が狭い思いもしたけど、それ以上に楽しい日々だった。
念願の3次職・ビショップにもなれて、装備も更新。着実に強くなってる実感があった。
PKとの戦いもあったけど、PT連携で乗り越えて、新たな土地へ――ザイオース城下町。ここではまたしても美人受付嬢・エルダーのレイと出会い、PTに加入。10人になって2PT体制へ!
……そして、気づけばうちのPTは「楽園の管理者」とか呼ばれてて、周囲から妙に目立つ存在に。誹謗中傷? うん、俺にだけ来てた。なんでだ。
その後、狩り場「胞子の海」で、忘れられない出来事が起きた。レイドボス・オルフェンとの遭遇。そして、アリア、ミイ、レイの3人の喪失。
調子に乗ってた俺の油断が招いた結果だった。自分が許せなかった。でも、残った仲間たちに支えられて、なんとか立ち直り――もう一度、オルフェン討伐を決意した。
その後は、レベル上げ、メンバー集め、お祭り模擬戦などでバタバタしつつ、ついにオルフェンへのリベンジに向かう――そんなところで、今に至る。