美味しい狩場は危険もいっぱい
背後から迫ってきた元海賊であろうゾンビに向き直る。まだ距離がある為、漸くDUが使える。
DUは光魔法で、魔力を集め任意の位置で発動させる。任意の位置と言っても、1歩~5歩分の距離位迄しか有効範囲はないけどね。詠唱は短めで威力も高い。問題は魔力消費も大きい事だ。大体、GH一回と同じぐらい消費するので、連打をしたらあっという間にMPが枯れてしまう。
スカーレットが後方で戦闘を継続中の為、ゾンビと戦いつつ隙を作ってGHもしっかり行う。厳しい狩場でないならギンナルにヒールを任せてしまっても良いのだが、ドライアードツールにかなり魔力を割いている為ヒールは俺の仕事だ。いざって時にエンチャントをかけ直す魔力が切れていたら大問題だからな。
よくあるRPGの様に、ヒールでもダメージが入れられたら楽なんだけど、そういった仕様はこの世界には無い様で残念だ。
DUを一発入れて、動きが乱れた所へ近づく。格闘や武術の概念が元々薄いのと、ゾンビ化して知能が落ちた為なのか構えもなく両腕をだらっとぶら下げており完全に無防備だ。これなら大技もフェイントを入れずに狙っていけるな。時間稼ぎの予定だったが倒せるのか試してみよう。
二歩前へ進む。助走と踏み込みに使い、俺はゾンビに向かい飛び上がる。両手で側頭部を掴み右膝を顔面に入れ、そのまま後ろに倒れこんで膝で挟み込みながら地面へ打ち付ける。普通の人間ならこれで終わるが、どうもゾンビは痛覚が無い様で、死ぬまで動きを止めてくれない。これは結構厄介な事ではある。
物理的に動けない状態にする必要がある為、各関節を壊していこう。先ほど迄戦っていた感じだと、倒すのはそれなりに時間が掛かりそうなので、動けなくする方が早い。出来る限り急所を狙ってみる。
後頭部を打ち付け鼻面を膝で押し込んだ後、立ち上がりつつ喉を踏みつけ跳び上がる。落下する勢いそのまま右の膝関節を踏み抜く。上手く骨を砕けた様だ。流れで持ち上げていたゾンビの右手を掴み、関節技を決める。右ひじを砕いたところまでは良かった。が、痛みがないからか折れた腕にそのまま持ち上げられ、地面に叩きつけられる。
紙防御なので一撃まともに喰らうと被害が大きい。なので、直ぐに組み付いた手足を離し放り投げられる。回転し受け身をとり、再度対峙する。右の手足を折られてるのに、動きはおかしいが結構普通に歩いてくるな。痛覚が無いって事は恐ろしいね。ついでにスカーレットへヒールっと。
折れた右足を狙い左でローキックを打つ。膝上に当たり身体が沈み込む。蹴りを放った左足をそのまま相手の後ろへ下ろし、体重移動をして右の掌底を顎へ―――そのタイミングでいきなりゾンビの右腕が俺の顎を狙い、跳ね上がってきた。
まさかこのタイミングに折れた右腕で反撃をされると思っておらず、普段なら捌くのだが間に合わず左手を相手の拳と自分の顎の間に入れ防ぐ。
防いだつもりだったのだが・・・・・・予想していた通り俺の身体は、ほぼ真上に打ち上げられる。一応衝撃を逃す為に左足で後方へ飛んだが、ほとんど意味を成していなかった。パワーが桁違いに強い。盾職はこれをずっと受けたりしているのだから、頭が上がらないな。
「ハガネさん!!」
そんな事を考えている余裕はなかった。
一瞬意識が飛んでしまってたみたいなので、BHを自分へ飛ばされながらかける。危ないところだった。時間稼ぎをするって言っておきながら、速攻でやられたんじゃ面目が立たない。ギンナルが心配して叫んだのはやられたと思ったんだろうな。
ヒールの甲斐も有り、意識がはっきりしてそのまま後方宙返りをする。着地と同時にゾンビの方へ踏み込もうと思っていたが、着地地点に向かって走ってきている・・・・・・普通に受けたら車にはねられた位の衝撃はありそうだ。
喰らいたくはないので、衝撃を吸収する為に着地しつつしゃがみ込み、同時に身体を回転させ水面蹴りを放つ。上手い事相手の両足を刈り取る事に成功し、ゾンビは前方へ転がり壁へ激突する。顔面から突っ込み痛そうだけど、何にも感じてないんだろうな。立ち上がりスカーレットへヒールを。
相手に向かって駆け込み、最後の一歩を踏み込むと同時に体重を乗せて延髄に蹴りをねじ込む。首の骨の折れる音が聞こえたが、まだ死んでないみたいだ。これだけ決めても死んでくれないのか・・・。壁にめり込んでいた顔を引っこ抜き、こちらへ振り向こうとしている。
下ろした足を直ぐに振り上げ、こめかみへ回し蹴りを打つ。蹴り足をそのまま回し、身体を横回転させ逆足を跳ね上げ踵を首に打ち込み、地面へ叩きつける。首の骨が折れているからか、ほぼ抵抗なく地面へ転がる。再度首を狙い、踏みつけると・・・・・・漸く光になって消えてくれた。
これはダメだな。DUを一度当てた上、ほぼ急所のみを攻撃しているのに、ここ迄時間が掛かってしまっていては1人で戦うのは厳しいな。スカーレットへヒールをっと。万が一もう1匹同時に相手取る事になった場合殺されないとしても、倒すのに倍以上時間がかかるだろうし、流石に何処かでダメージを受けるのは避けきれないだろう。今も油断して喰らったしね。
無事人形達を倒してくれた様で、ギンナル達に声をかける。
「ごめんね、倒せるならと思って攻撃をしていたんだけど、油断して一撃もらっちゃった。こいつを倒してそちらのお手伝いをしたかったけど、そこ迄の余裕は出来なかったよ」
「いや・・・・・・まさか1人で倒すと思ってなかったよ。吹っ飛ばされてそのまま空中でヒールして、倒しちゃうと思わなかった。私ハガネさんが死んじゃったかと思ったんだからねっ!」
「全くだ。ハガネはやはりおかしい。スカーレットでもあれだけダメージを受けているのに、ソロで戦いながらヒール迄かけてくるし、異常だぞ」
「はい、助かりましたけど、いつもと変わらないタイミングでヒールが飛んできてたので驚きました」
ギンナル、ラナ、スカーレットが褒めているんだか、けなしているんだかそれぞれ感想を伝えてくる。
「そうですね!ハガネさんはおかしいです!ファイターだって素手で戦わないです!」
「リリ・・・・・・あんまりはっきり言わないでね」
俺は一生懸命頑張ったのだが、この評価はおかしいと思う。
取り合えず、MP休憩含め皆で通路の行き止まりへ行き、休憩をとる事にした。




