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グールにはなりたくない

 渡し船を使い、悪魔の島へ向かう。


 ドール城下町から南へ1日ほど歩けば、潮の香りとカモメの鳴き声が漂ってくる。そこに広がるのがドール港だ。波止場には大小の船が並び、魚の荷下ろしで慌ただしく動く漁師たちの掛け声が飛び交っている。その一角に、冒険者向けの定期便が出ている船着き場がある。


 とはいえ、渡し船と聞いて想像するような手漕ぎの小舟ではない。三本マストの帆船で、ざっと見積もっても40人くらいは乗れそうな中型船だ。白い帆は海風をはらみ、ぎしぎしと音を立てて揺れている。


 海には魔物が出る――この世界の常識だ。だからこそ、この船には乗客と同じくらいの人数の冒険者たちが乗っていたりする。頼めば護衛も兼ねてくれるのはありがたい。誰だって、自分が乗っている船が海の魔物に沈められるのはゴメンだからな。


 ただし問題は、島からの帰り道だ。行きの便で降りた冒険者たちがそのまま狩場に残るので、復路はガラ空きになる。護衛の数が減れば、それだけ船の安全も脅かされる。


 そのため、渡し船には常駐の戦闘員が何人か乗り込んでいる。どうやらCランク相当の実力者らしく、それなりに頼れる面々らしい。片道で約4時間、往復で8時間の行程。船は1日1便、早朝にしか出ない。


 2便運航すれば儲かるんじゃないかとも思ったが、帰りが日暮れになると魔物に接近されても気づきにくい。暗闇での海戦なんて、それこそ自殺行為だろう。そういった事情から、早朝に出発して昼に島を離れ、夕方前には港へ帰ってくる運航スケジュールになっている。


 このあたりの海域に出没する魔物も、それなりに手強いらしい。戦闘員がCランク級となれば、そりゃあ雇うだけで経費もかかる。だからか、船賃が驚くほど高かった。


 どれくらい高いかというと――初期村から本土に渡る時、1週間かけて航海したあの長旅より高い。今回の渡航はせいぜい4時間なのに、なぜか値段は倍。しかも、今回は18人分。


 ……そんな訳で、全財産が吹き飛んだ。手持ちのゴールドはきれいさっぱり、財布の底まで空っぽだ。帰りの船賃は魔石でも支払い可らしいので、島で稼がなければ帰ることすらできない。文字通りの背水の陣というやつだ。


 それでも冒険者たちが悪魔の島へ向かうのは、それ以上の見返りがあるからだ。魔物は確かに強い。だが、それに見合った高品質の魔石が手に入る。特にD〜Cランクの冒険者たちは、こぞってこの島に挑む。


 さらに聞いた話では、島の内部には隠し部屋のような構造があり、そこには財宝が眠っていることもあるらしい。運よく見つけられれば、通常の狩場では考えられない額を稼げるとのこと。


 ただし、収納袋なんて便利な道具は持っていない。金銀財宝を見つけても、持ち歩くには重すぎるし邪魔でしかない。だから、戦闘の最中は近くに置いておいて、終わってから回収するのがセオリーだそうだ。


 しかし当然ながら、それにはリスクがある。そういった財宝を狙う盗賊――というか、もうこれはほぼ海賊みたいな連中が潜んでいるらしい。普段は魔物を狩っているふりをしながら、他のPTが戦闘中で手が離せないタイミングを狙って、財宝だけをかすめ取って逃げるとか。


 戦闘中に盗まれても、取り返すこともできず、冒険者たちはただ叫ぶしかないらしい。情けない話だが、それほどシビアな狩場ということだ。


 そんな奴らを見つけたら、ワニたちに魔物を任せて、俺が直接対処することになっている。ああいう輩は絶対に逃がしちゃいけない。見つけたら確実に潰す、それで話はついている。


 それにしても、財宝が眠っているという話から想像がつく通り、元々この島は海賊たちの拠点だったらしい。とは言え、旅客船が通る海域じゃない。彼らが襲っていたのは、主に漁船。漁師から魚を奪い取り、それを高値で売って資金を貯めていたようだ。


 ……魚で生計立ててた海賊って、ちょっとカッコ悪いよな。


 で、その金を使って装備を整え、今度は陸に上がって街道で盗賊稼業。貴族や商人の護衛隊を狙って財宝を集め始めた、と。


 日に日に被害が増えたことで、ついに王国が重い腰を上げた。ドール城下町から兵を出し、大規模な討伐隊を編成して島へ向かったらしい。数で押す作戦だったようで、海賊たちの3倍の兵力を揃えていたそうだ。


 1人1人の戦闘力では海賊が上だったみたいだけど、数の力には勝てなかった。地の利を生かして粘ってはいたが、ついには追い詰められた。


 ……ここまでは、よくある話だ。


 だが問題はこの先。討伐が完了する寸前、突如として島の各所から魔物が現れた。しかも、さっきまで倒したはずの海賊たちが、立ち上がって襲いかかってきたのだ。


 いわゆるグール――死してなお動く者。しかも、生前より強くなっていた。兵士たちは混乱し、そして崩れた。倒れた兵士までもがグールになり、仲間に牙を剥く。元同僚を相手に、誰が剣を振るえるだろうか。


 兵士たちは次々に倒れ、壊滅。海賊もろとも全滅した。かろうじて逃げ延びたわずかな兵士たちの証言が、今も語り継がれている――それが、50~60年前の出来事だ。


 その後も何度か調査や救出が試みられたが、兵士も冒険者も戻ってこなかった。現在はDランク未満の冒険者と一般人の立ち入りは禁止されている。


 なぜ海賊たちがグール化したのかは、未だに不明。だが、ここ数カ月でも調査に向かった兵士や冒険者が戻ってきていない以上、彼らもきっと、もう人ではないのだろう。


 今、この島の内部はグールで埋め尽くされている。だからこそ、入り口から確実に討伐していかないと危ない。背後を取られたら終わりだ。


 ただ、仮にすべてのグールを討伐したとしても、元凶を絶たなければ事態は変わらない。死体はまたグールになる。ドール城の王様からはそこまでは求められていないし、ギルドの依頼もあくまで調査だ。


 まずは軽く調査して、一度町に戻り、ギルドへ報告。今後の対応は、それから考えることにしよう。

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