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夜は酒場で報告会

「――というわけで、不届き者どもは、衛兵の詰所に仲良く放り込んでやったわ」


「次から次へと……まったく。ワニ、すまなかったな」


「ワニ様、超かっこよかった!!」


 というわけで、全員それぞれの用事を片付け、予約しておいた酒場に無事集合したわけだが――宿を押さえる係だったスカーレットの機嫌が、凍てつく吹雪のように冷えきっていた。眉間に深く刻まれた怒りのラインが、見事なまでに浮き彫りになっていて、近寄ったら凍傷を負いそうだった。


 ラナの語り口から察するに、どうやら宿までの道中、スカーレットとワニの2人だけで、無法者たちをまとめて返り討ちにしたらしい。というか、実質的にはワニ1人で完封だったようだ。……いや、よく絡む気になったな。あのワニに。


 人並外れた戦闘力を誇るわけではない。むしろ、ワニの強みは別にある。敵の動きを一瞬で読み切る鋭い洞察力と、紙一重で全てをかわすあの異常なまでの回避力。迂闊に手を出せば、逆に自滅するのが関の山だ。しかも、ただ避けるだけじゃない。確実に急所を突いて無力化してくるのだから、始末に負えない。


 詳しく話を聞いてみると、宿に着くまでの間に三度も絡まれたらしい。そのたびに、街中に響き渡る男の断末魔の悲鳴。周囲の通行人たちも「あぁ、また誰かやられたか」といった顔で通り過ぎたらしい。なんという慣れっぷり……。


 スカーレット1人でも十分すぎる戦力だが、それにワニがついてたのなら相手に同情の涙すら流せそうだ。というか、何だこの治安は。外見は洒落た石造りの街並みなのに、中身はザイオースの裏通りよりも荒れてるじゃないか。


 この町の住人たちは、一体どうやって日常生活を営んでいるんだ……?


「私たちも、ギルドに行くだけで2回も襲われました……ハンナさんとディムさんに付いてきてもらって本当に助かりました」


「まったくだな。私とディムがいなかったら、リカが雷を落として、あいつら焦げ炭になってただろう」


「うん、はーさんが考えた組み合わせ正解だったよ! レナさん一人でも大丈夫そうだけど、相手が多かったし、リカの出番が来ちゃうとこだったよね」


「みんなが“何もしなくていい”って言うから、すっごいモヤモヤしたんだけど!? 一回目が7人、二回目は……11人だったかな? あれだけ来られて、こっちは見てるだけって、修行か何か!?」


 テーブルの向こうでリカが頬を膨らませてぶんぶんと手を振っている。その仕草は愛らしいのだが、言っている内容はなかなか物騒だ。町中で雷撃をぶっ放すような事態にならなかったのは、むしろ奇跡だと思う。


 それにしても……俺たちのグループだけでなく、他のチームも相当な数に絡まれていたようだ。どうやらこの町の“悪”は、日常の風景に紛れて堂々と歩いているらしい。


 レナたちがギルドで得た情報によると、ドール城下町の冒険者たちが、例の「悪魔の島」へ向かったきり、軒並み帰ってこないのだとか。Cランクどころか、Bランクすら消息不明になっているという。


 本来あの島は、Cランク推奨の任務だと聞いていたけど……これは明らかに異常事態だ。ギルドが国に要請を出し、国王が軍を派遣したのが3ヶ月前。かなりの兵数を投入したにもかかわらず、音信不通のまま。さらに2ヶ月前、追加で派遣された救援部隊も……同様に消息を絶った。


 王国としても完全に手詰まりとなり、最後の望みとしてザイオースへ助けを求めてきた。その要請が、俺たちに届いたというわけだ。


 さすがにBランクが音もなく消えたとなると、次はAランクを動かすしかない。これ以上、行方不明者を出すわけにはいかないという、切実な判断だろう。


 俺たちが出発してから1ヶ月のあいだも、ドール城下町は何もしなかったわけではなかったようだ。消息を絶った兵士たちの家族が声を上げ、王も第三陣を派遣。だが、結果はやはり沈黙。これで3度目。悪魔の島へ向かった者は、ことごとく帰ってこない。


 そしてその影響は町中にも及んでいた。衛兵の大半が島へと向かい、町には最低限の警備しか残されていない。冒険者の数も減り、高ランクの者は皆無。治安維持が完全に破綻した結果、街道沿いの盗賊すら掃討できず、衛兵たちは町外れに駆り出される始末。


 そうなれば、耳ざとい連中は町に居座るようになる。地下水路や空き家にアジトを構え、堂々と活動するようになった……と、なるほどね。悪循環もここに極まれり、だ。


「なるほどな……だからあれだけ多かったのか。私たち、食材やら備品やらを探しに町中をだいぶ歩き回ったからな。五回も絡まれたぞ。うん、楽しかったぞ! なぁ、ミラにジャンヌも楽しめたよな?」


「ええ、とても素敵な町だと思ったわ。久しぶりに“生身”の相手にデッドリーブローが使えたし……爽快だったわ」


「私も二刀で思う存分切り放題だったしね! セラ姉さんは素手で大はしゃぎだったし!」


 ……やばい、やばすぎる。何だこの武闘派観光団体は。責任者出てこい。


「ほんとに大変でしたからね!? ハガネさん、あの3人を同時に行動させたらダメですよ! アジトまで突き止めて、組織を壊滅させるなんて……!」


「そ、そうなの……私とハクさんが止める間もなくて。倒した連中からアジトの場所を聞き出して、すぐ突入しちゃったの。本当に疲れたのよ、もう……」


 ……ん? それ、ハクの指示じゃなかったか? ――まあ、口には出さないけど。とりあえず、ねぎらいの言葉だけはちゃんと伝えておく。リースも見た目には分かりづらいけど、かなり疲れてるみたいだ。


 それにしても、アジトを壊滅させてから酒場に来るとか……そりゃ遅れて当然だよな。納得しかない。


 まあ、どのチームも無敵に近い構成だったし、心配はしてなかったけど……うん、こうなるとは思ってた。


 俺たち――つまり俺、ギンナル、リリミアの三人組は、最初に軽く絡まれてからは、街中の移動は船を使わせてもらった。おかげでスムーズに教会へ行けて、用事も難なく片付いた。


 川沿いには明らかにヤバそうな連中もいたけれど、自分たちで船を操ってたせいか、変に観光客っぽく見られなかったようだ。まあ、旅の人間が消えたところで、今の衛兵たちは手一杯で捜査どころじゃないだろう。むしろ、それを知っていて奴らも旅人を狙うんだろうな。


 住人だと家族や知人が騒ぐから面倒だけど、旅人なら……というわけか。ほんと、やり口が姑息すぎる。


 とはいえ、ギンナルとリリミアとの三人だけの船旅は、ちょっとしたデート気分で、なかなかに充実した時間だった。景観も美しく、運河から見上げる石造りの町並みは、まるで絵画のようだった。


 こういうの、たまには悪くないよな。少人数で、静かに過ごす時間。うん、たまには――が大事なんだけど。


 ただ、これだけ治安が悪いと、女性連れでは歩きにくいのが難点。早いところ悪魔の島へ向かって、この問題を根っこから叩き潰さないと、気軽なデートすら楽しめやしない。

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