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町中なのに、エンカウント

 2人を船に乗せるには、まず目の前の障害を片付けねばならない。というわけで、囲いの後ろに陣取っているおっさん1に向かって、俺はゆっくりと歩み寄る。


 おっさん1はすでに短剣を構え、警戒心丸出しの目でこちらを睨んでいた。……うん、完全に戦闘態勢ですね。刃物を使ってくる相手には、こっちも容赦しなくていいってことで。


 俺はそのままスタスタと距離を詰め、タイミングを見計らって足を振り上げる。狙いは短剣。膝を上げて内回しにひざ下を回し、フックのような軌道で鋭く蹴りを放つ。


 ガキィンッ――金属が空を切る音とともに、短剣は宙を舞った。


 おっさん1の手首に直撃したようで、あまりの衝撃に彼は思わず武器を取り落とす。どうやら油断していたらしい。……もうちょっと鍛えてから出直してきてほしいものだ。


 蹴り足をそのまま下ろさず、勢いのまま前へ回転させる。そして鳩尾を目がけて、今度は真正面からの前蹴りをお見舞い。


 ボスッ、と鈍い音がして、おっさん1はまるで糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ちた。鳩尾にまともに入ったのか、声すら出ないらしく、地面にうずくまっている。


「さ、お2人とも船へ」


 俺が促すと、ギンナルとリリミアは軽く頷いて、おっさん1の横をすり抜け、水辺に係留された木造の小舟へと乗り込んでいった。よし、これで心置きなく戦える。


 あとは残りを片付けるだけだ。


「お前……貴族の坊ちゃんのくせに、足癖が悪いな。お前ら、こんなやつにやられたら恥ずかしくて町を歩けなくなるぞ! 気合入れていけっ!」


 リーダー格と思しきおっさんが吠えると、今までの余裕ぶった笑みは嘘のように消え、周囲の連中は一斉に真顔になった。円陣を組み直し、俺を中心にじりじりと包囲してくる。


 どうやら本気を出してきたようだ。うん、これでこそ戦う甲斐があるってものだ。


 前世ならこの人数に囲まれた時点で土下座一直線だったけど、今の俺は違う。初期村でオオカミに囲まれたときの方が、正直まだ怖かった。


 あれはマジで洒落にならなかった。


 今はあの時よりレベルも経験も上がっているし、何より精神面が鍛えられた……というか、オオカミのトラウマのせいで、人間相手ならまだ余裕がある。うん、あの牙と唸り声を思い出すと、今のおっさん達がちょっと可愛く見えてしまう。


 とはいえ、囲まれて同時に来られたら流石に無傷では済まない。こっちから先手を打たせてもらうとしよう。


 ゆっくりと上体を前に倒し、重心を低く保ったまま左足を一歩前へ出す。おっさん達は、俺が突然バランスを崩したように見えたのか、一瞬動きが止まる。


 そこを逃さず、膝を折り、反動を使って前方に小さく跳躍。空中で右足を折りたたみながら引きつけ、勢いをつけて、おっさん2の鼻っ面に踵を叩き込んだ。


 バギン、と妙な音がして、おっさん2はまるで杭を打ち込まれたかのように仰け反り、そのまま後頭部を壁に激突させて床へ沈んでいった。


 ……あれ、ちょっとやりすぎた? いや、生きてはいる……はず。たぶん。壁に頭ぶつけるのはあまりおすすめしない。


「お……おぉぉぉ!」


 次の瞬間、背後から雄叫びが聞こえた。おっさん3が恐怖に駆られて突撃してきたらしい。


 声を出さなければ、あるいは不意打ちになっていたかもしれない。だが叫んでしまったことで、その時点で戦いは決まった。


 俺は素早く右回転しつつ体を沈め、右足を高く持ち上げて、おっさん3の突き出した腕――肘あたりに膝裏を引っ掛ける。


 そのまま右足を畳みこむようにして相手の腕を巻き込み、自身の回転力と相手の勢いを利用して地面へと引き倒す。


 顔面から派手に地面にダイブしたおっさん3は、顎を強打して気を失い、ついでに肩を脱臼、肘も変な方向に曲がっていた。……うん、もう立ち上がってくることはないだろう。


 俺は静かに立ち上がり、残った連中の方へ向き直る。


 ――さて、次は誰だ?


 ……が、誰も動かない。


 おかしいな。普通なら仲間の仇とばかりに飛びかかってくる場面なのに、なぜか6人とも棒立ちのままだ。


「別に行儀よく順番に来なくて大丈夫ですよ? 2人を待たせてますし、時間がもったいないので、全員同時にどうぞ」


 にこやかに声をかけるが、無反応。凍りついたような空気の中、ようやくリーダーが口を開いた。


「お前……いや、貴方は、なぜそんなに強いのでしょうか。冒険者……ですか?」


「ええ、一応、Aランクの冒険者をさせていただいております」


「A……!? ってことは……まさか子爵様……?」


「それが何故か伯爵ですね」


「は、伯爵!! ということは……投降しても死罪でしょうか……?」


「そうなりますね。ま、今まで罪のない人を襲って好き勝手やってきたんですから、投降なんて許しませんよ。悪党としての意地くらい、最後に見せてくださいな」


「くそっ……! お前ら、殺せなければ生き残れないぞ! 殺っちまえぇぇ!」


「うぉぉぉぉ!」


 おお、ようやく動いたか。どうせ死ぬなら玉砕覚悟で、という判断に至ったようだ。うんうん、せめて最後に俺の実戦練習台くらいにはなってもらわないと。


 もちろん、何をどう言い訳しようと、俺は彼らを許すつもりはない。こんな連中を放っておいたら、後で他の仲間を襲いかねないからな。


 それに、ここはドール城下町。こんな盗賊まがいの連中が、他国の伯爵に牙を剥いたなんてことになれば、大問題だ。国家の威信にも関わる。


 だからこれは、ただの私闘じゃない。正義の執行だ。たぶん。


 ――ま、実際には無理だけどね。


 


 そして、俺は残りの連中も無事に撃退した。幸い俺は無傷、ギンナルとリリミアを汚すこともなかったし、よしよし。


 ついでに、この船も頂いておこう。盗賊の物は、俺の物。期間限定だけどね。この町にいる間だけ使わせてもらって、帰り際にでも衛兵に届けておこう。


 それにしても……今襲ってきたおっさん達、決して弱かったわけじゃないんだ。連携を取られて、最初から本気で来られていたら、俺も結構やばかったと思う。


 最初は油断してくれていたし、最後は腰が引けていたから余裕に見えただけで、実際には紙一重だった。


 いくらレベルが上がっても、俺の防御は紙のまま。構えていない時に背後から刺されたら、普通に死ぬ。気は抜けない。常に張っておかないと、俺の命はあっさり終わる。


「やりすぎないようにって言ったのに……。まぁ、でも格好良かったし、助けてもらったからいっか! ありがとうね、ハガネさん」


「やり過ぎじゃないですよ! あんな奴らが好き放題していたと思うと、許せないです!」


 ……普通の人なら、今みたいな修羅場を目の当たりにして、こんなに朗らかに話せるはずがない。


 うん、やっぱり俺のクラン、どこか感性がズレてる気がする。


 ――だが、こんなに可愛いのに……変なのは俺の方かもしれないな。

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