見た目は良いけど、中身はダメだ
ワニとハクの粋な計らいもあって、俺はギンナルとリリミアと共に、のんびり町を散策することになった。
これがまた、噂に違わぬ美しい町だ。外壁でぐるりと囲まれているのはザイオース城下町と似た造りだが、町の中に一歩足を踏み入れれば、そこはもう別世界。全体が柔らかい青に染まったような、水の都――うん、例えるならヴェネチア?行ったことはないけど、テレビで何度も見たことあるから、それっぽい雰囲気だけは伝わると思う。
町のいたるところに水路が張り巡らされ、透き通った水が静かに流れている。その上を滑るように進む小舟、石造りのアーチ橋、白壁の家々の影が水面に映って揺れていて、なんだか絵本の世界に迷い込んだような気分だ。
水路には荷を積んだ運搬船もあれば、デート中らしき男女の姿もちらほら見える。のんびりと並んで舟に揺られるその様子は、まさに異世界ロマンの体現である。……いいなぁ、あれ。ちょっと憧れる。
しかし、不思議なことに観光客らしき人影がほとんど見当たらない。いや、よく考えれば当たり前か。こんな危険な世界で観光なんて、正気の沙汰じゃない。外に出れば盗賊や魔物がうようよしてるし、町と町の間はとんでもなく離れていて、ちょっとした旅行が命がけになる。
となると、命のリスクを冒してまで観光する奴なんて、いない。……いないよな?でも、可能性くらいは考えてみてもいいんじゃないか。想像するのは自由だ。
ある程度裕福で、かつ高レベルな冒険者や貴族たちならどうだろう。下級冒険者は日々生きるだけで精一杯だけど、Aランククラスともなれば、旅に娯楽のひとつくらい加える余裕もあるかもしれない。
というか、そういう冒険者って、だいたいハーレムを作ってるイメージあるよな。金もあるし強いし、遺伝子的にも優れてるから子孫を残したいという本能的な欲求も理解はできる。あと単純にモテる。ずるい。
となると、そういう上位冒険者たちが、異性を連れて観光なんて……うん、するかもしれない。だって余裕があるなら、誰だって楽しいことしたいもんな。
……いや、でも待て。
例えば男1人、女性3人の少数ハーレムパーティーで町から町へ移動するとしよう。道中、魔物が2匹出てきました。はい余裕。Aランク冒険者なら片手で捻るレベルだ。うちのクランならハクとセラ、そしてリカの3人がいれば、秒殺だろう。
ただ、仮にオルフェンが2体同時に現れたら……うん、それはダメだ。全滅コースだ。まぁ、そんなレアケースが頻繁に起こるわけない……と信じたい。
じゃあ大丈夫か? と思った矢先に、今度は盗賊が50人登場。……うん、これは厳しい。正面から来られてもキツいし、茂みに潜んで襲われたらアウトだ。戦闘能力以前に、不意打ちの数は脅威そのもの。
俺はさくっと殺され、残された女性陣の末路は……考えたくもない。やっぱり観光なんてのは、そうそう気軽にできるもんじゃないんだな。
だからこそ、観光なんてしてる奴は、この世界じゃかなり特殊な存在だ。
ちなみにうちのクラン――Aランク冒険者で、しかも伯爵の俺が率いるこの集団は、なぜか観光しようという気持ちの余裕を持ち合わせている。おかげさまで懐も温かい。やることなすこと、料金設定がバカ高いのが難点だけど、それも今の俺には問題ない。
それに何より、俺自身が旅好きで、ファンタジー大好き人間だったからな。こういう異世界風の街並みを見てはしゃがずにいられようか。戦場では気を張っていないと即死だけど、せめて町の中ではリラックスしてないと、全力出すためのエネルギーが持たないのだ。要はバランス。
「ねぇ、リリちゃん。船に乗ろうよ!教会まで行ってもらおう!」
「おー!それは良いです!是非、そうしましょう!」
いいね、こういうノリ。うちのメンバー、実にポジティブ。やっぱ観光するなら心の余裕は大事だよな。
というわけで、俺も満面の笑みで了承し、さっそく水路にいた舟に乗り込むことにした。水夫に声をかけ、目的地である教会までの案内をお願いする。
町中を舟で移動って……まるで異世界版のタクシーみたいで、ちょっとテンション上がる。日頃、命のやりとりしてる俺たちには、このくらいの贅沢、ご褒美として当然だろう。
……とまあ、そんな呑気なことを考えていた俺が、いかにこの世界の現実を甘く見ていたかを、すぐに思い知らされることになる。
案内してくれたのは、年季の入ったヒューマンファイター風の中年水夫だった。舟はすいすいと水路を進み、最初のうちは景色も綺麗で、ギンナルとリリミアも上機嫌。水面を渡る風は涼しく、町並みはどこを切り取っても絵になる。完璧な観光日和だった。
……最初のうちは、ね。
ふと気づけば、人通りがまばらになっていた。周囲の建物もどこか古びていて、窓も閉ざされている。水路の幅は狭くなり、光が差し込みにくいせいか、あたりは薄暗く不穏な雰囲気が漂っていた。
ああ……やっちまった。完全に油断してた。
そのまま舟は行き止まりまで進み、気づけば俺たちは下船させられ、今はというと――路地裏で、見るからに胡散臭い連中に囲まれている。うわぁ、これぞ絵に描いたような罠パターン。
町の見た目は綺麗なのに、内部に盗賊紛いの連中が潜んでるとは……ドール城下町、なかなかの闇を抱えてるじゃないか。衛兵は一体何してんのさ。
「なんかやけにいい身なりをしてるな?お前、貴族か?」
「貴族だとしても、こいつがって事はないだろ。こんなチビの坊主、せいぜい3男か4男ってとこだな」
「綺麗な女2人も連れて、ニヤニヤしやがって。護衛もいねぇのかよ、アホか」
はい、大変ご丁寧にバカにされております。口角上げてニヤニヤしてるその顔面、全部まとめて絞めてやろうか。
「言っておくが、船に乗ったやつ全員をここに連れて来てるわけじゃねぇぞ?とびきりぬるそうなバカだけ選んでんだ」
「ビビってんのか?女どもも野郎も黙りこくってるな。……よし、女と金と服全部置いて、裸で泳いで逃げるなら見逃してやるよ」
「いや、むしろ見せ物にしてやろうぜ。こいつの目の前で女を頂くの、面白いと思わね?」
「そいつは名案だなぁ。残念だけど、もうお前ら助からねぇよ。諦めな」
……はい、結論。この連中、逃がす気ゼロ。
だったらこちらにも考えがある。ドール城下町の平和のため、この場で始末させてもらおうか。
「ギンナル、リリミア。2人が汚れるのは嫌だから、ちょっと船に乗って、少し離れて待っててくれる?今から道、開けるから」
「あんまりやりすぎないでよ」
「ギンナルさんは甘いです!ギッタンギッタンにしちゃうです!」
「はいはい、そんな訳で――そこの人達、邪魔なのでどいてくださいね」
そうして、2人を舟に戻し、後方へと離してから……俺はゆっくりと正面の連中を見据えた。
さあ、観光気分はここまでだ。ここから先は、地獄の観光案内ってことで、一つよろしく。
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