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他の魔法少女

 


 帝国領を出て、半日ほど飛ぶと小さな町の上空に付いた。

 さらに飛んで端の方に行き、煙突のある建物の上空で止まった。 どうやら何かのお店みたいだ。いや、とてもいいにおいがする、パン屋さんかな。

 そして、その建物の裏にある庭にそっと降り立った。

 干してある洗濯物や井戸が妙に懐かしい。

「ちょっと着くの早かったから、ここで待ってて、マスターを呼んでくる。

 あ……」

 SWパラムが、そうわたしに言いながら裏口の方へ向かおうとしたとき裏口の扉が開いた。

 そして、扉から二十代後半くらいの女性が出てきた。マスターなのだろう。

「マスター、連れてきましたよ~~?」

 SWが報告をしようとしたとき、その女性は既にわたしに抱きついていた。

「可愛いっ」

 女性の嬉しそうな一言だった。

「あっ? えぇ? ええと?」

 のんびり構えてたのもあるけど、一瞬状況を見失った。

「遠いところ来てくれてありがとう」

 女性は、少しだけ離れてから再度抱きついた。

「いえ、こちらこそお招きいただきありがと……」

「ああ、可愛いわぁ」

 離れてくれない。

「ありがとうございます。

 そっちじゃなくて、先日は御助勢頂きましてありがとうございました」

 というかあんたも可愛いですやん。

「大したことしてないわよ。

 じゃ、中に入って、まずは休憩がてら少しお話しましょう」

「はい、ではお邪魔いたします。

 その前に変身解きますね」

 わたしは変身を解除した。

「あら、こっちも可愛いっ。いいなぁ、可愛いなぁ」

「あ、ありがとうございます」

「マスター、話を進めましょう」

 SWパラムがようやく割って入ってくれた。

「あ、ごめんね。 ではこちらへ」



 店舗兼住宅の建物の中に入ると、案内されたのはダイニングで、四人掛けのテーブルに一対二で向かい合って座った。

 SWパラムがてきぱきと動いて、すでに飲み物と御菓子が用意されています。

「テネよ。 あらためてよろしくね。

 会えてよかった」

「セビルと申します。

 こちらこそよろしくお願いします。

 わたしもお会いできてとても嬉しいです」

「ほんと可愛いわぁ」

「あのっ。 帝国と戦ってるわけではないんですよね?」

 可愛いはもういいです。嬉しいけどごめんなさい。

「この前が初めてよ。

 なんでって聞かないでね」

「そうですよね。

 では、戦争と無関係な事なら少し聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「ええと、さっそくこんな話で申し訳ないですけど、変身すると黒い部分って透けちゃいますよね?」

「そうなのよね。

 肩の縁とか腰回りの帯とかが消えちゃうのよ、後はラインが少し、まぁデザインみたいに見えなくもないんだけど」

「え?

 いろいろ見えちゃったりしません?」

「いろいろって?」

「ええと、下着的な部分とか裸的な部分とかですけど」

「そんなの見えたら恥ずかしいわね……見えるの?

 こんなに可愛い子のが……」

「七種、それぞれ多かれ少なかれ、何かしら……」

「七種類?」

「はい?」

 食いつくとこそこ?

「いいなぁ、わたしの時は五種類よ」

「ちなみに、2020ヴァージョンだそうです」

「スカートが翻った時、あっパンツ見えちゃうと思ったら、衝撃のノーパンでしたわ」

 SWパラムが、余計な補足を付け足す。

「あの事は忘れたいので、忘れてください」

「元は黒パンだったのね」

「レオタードですっ!!」

「さすが神様、迷走癖は治らないね」

 などと、変身衣装の話に花が咲いた……いじられたかな。

「じゃ、そろそろ行きましょうか?」

 お茶を飲み終えた頃合いだった。

「行くって? どちらへ?」

「先輩のところへよ」

「魔法少女、他にもいらっしゃるんです?」

「ええ、わたしも直接にはずいぶん会ってないけど、SWさんが健在だから、まだ居るのはわかってるし」

「なるほど、それはぜひお会いしたいです」

「決まりね」


 そして、一時間ほど移動し、老齢の女性の前に居ます。

「ミラ様、この子、超人で元王女だって。

 金髪碧眼で美人過ぎるし、盛りすぎでしょ」

 テネさんが紹介してくださった。 その設定はなんとなく困る。

「その紹介は意図的かもしれんが、生意気ということじゃな」

 ですよね~。

「確かに悪役令嬢系もありかもね」

「なんじゃそりゃ。

 じゃなくて、はじめまして。 カルタード大陸南国、元王女のセビルと申します。

 魔法少女には西暦二千十一年になりました」

 あらためて自分で紹介。

「西暦は何年まで進んでおったんじゃ?」

「二千二十五年までしか知らないです。 事故にあいまして……」

「そんな若さで命を失ったのか……」

「ああ、その辺はお構いなく、今はこうして生きてますから、ある意味前の人生はお得感しかないですよ。

 悲しんでくれた人も居ると思いますけど、もう大人でしたから」

 それに自分よりも生きた時間の短い誰かを救えたのだから。

「考え方次第じゃが、自分で前向きにできるのなら、それで良いかもな。

 しかし、お前さんの様な若いのが白いエッチな悪魔じゃったとは、そういう噂は聞いておるよ」

「ちょっと違うけど、それでいいです」

 どこ行っても付いて回るのよ。何とかした~い。

「お前はこの世界に何をしに来た?

 我々が、戦争に関与しても良いと思うか?」

「思うわけないじゃないですか、でも放っておけない。

 向こうの世界だと制限がかかってできなかったけど、神様に何度も直談判してました」

「だから、こっちでやりたい放題か?」

「そうじゃなくて、説明できないんだもん。

 戦争などの場合、魔法少女がどちらに付くか、それはどっちでも国になる。

 他の魔法少女が、敵側が自国だった場合、魔法少女同士がぶつかる事になる。

 それから、一度でも実績を作ってしまうと、最初から魔法少女を戦力に計算するかもしれない。

 魔法少女を敵として認識する人も出てくるとか、そういうのは分かってるの。

 だけど、被害者は確実に居るの、その人たちは命を落とす責任をなんで持たなきゃいけないのか、わたしには納得できない」

「国民とはそういうものだと思うがな」

「じゃぁお聞きしますけど、こっちでは魔法少女だからっていういろいろなしがらみも心配も無いですよね?

 あなたが動けば救えた命がたくさんあったんじゃ無いですか? その力を持ってこの世界に来たのに。

 でも、今なんとなく分かった。 いや、それでも説明できないけど、近いと思う言い訳は、魔法少女じゃなくて人間だからなんだ。でも……」

「お前さん、好きなやつはおるのか?」

「何を突然」

「おるのか? どうなんじゃ?」

「ええと……あ、わたしずっと婚約者いたし」

「いちおう念を押すが、LOVEの方じゃぞ」

「なんでそんなことを……」

「おらんのだな、その歳で」

「いえ、だから、ずっと婚約者いたし……」

「そいつは違うということじゃな」

「わたしみんな好きだから、誰と結婚しても……しても、あれ?」

「そうじゃ、お前さんは人間が好きなんじゃよ。

 だから、こっちの世界で勝手に魔法少女をやろうとしている」

「それでは、だめなのかしら?」

「いや、別にそれでもいいさ。良いか悪いかでいうならな。

 どのみちそういう相手と結ばれるのは一握りで、あとは分かるな?

 だけどな、一人の個人としては恋をしてみる事をお勧めするよ」

「そんなの今は必要無いです。

 わたしは、一握りの方じゃ無くてもいい」

「神の功罪じゃな。

 果敢な年ごろの娘の魂を人類を守る戦士に仕立てあげる。

 神からすれば何十億のうちのたった九十九人じゃからの、それは誤差にもならない人数じゃろ」

「別に不満は無いわ」

「そうかい。では、今は頭の隅にでもおいておいてくれればいい。 そういう相手との出会いが無かったのかもしれんしな」

「なんだか釈然としないわ。

 明確に嫌いな奴はいるんだけどなぁ」

「ふむ、そうじゃな、わしも押し問答は苦手なのじゃよ。

 それに、やる気は有りすぎってことがよ~くわかったよ」

 この時、少しだけ笑ったように見えた。

「あの、ごめんなさい。 ずっと溜まってた想いをつい口にしちゃって止まらなく……。

 ほんとにご無礼いたしました」

「ふん。 わしらが何もしていない様に言われてちょっとむかついたのはある。大人げないから、それで忘れてやるよ」

「あう~」

 忘れないだろうなぁ。

「では、そろそろ教えてやる、わしらの敵を。

 じゃから、お互いテンション変えて行こう」

「え? あ、はい」

「敵は、この世界の神だ。 地球の神とは全く違うが、星の進化の先に生まれた者だよ」

「な~るほど」

「今、ものすごい速さで勝手なこと考えたと思うぞ」

「あぁ、ええと、地球の神様がいつか戦うことになるこっちの神様を始末するために私たちを送り込んだ?」

「やっぱり、そういう発想をする。

 やれやれじゃ。

 いいか? やつを仮に闇王と呼称する」

「送り込んだは言ってみただけですけど、おお、闇王とはかなり敵っぽい」

「それで、帝国に立ち寄って、何を見た?」

「時間的に表面しか見てないと思いますけど、とても平和そうに見えたわ、戦争をしてる様にも思えないくらいに」

「やつらが何をしているか。

 闇王への供物を常に提供し続けている。

 国内では徴兵として、国外からは捕虜として集めてな」

「徴兵の話はたぶん少し知っています。

 各家庭の第一子が十歳になると徴兵されて、十一歳までに超人になればよし、ならなければ穴に手を入れるテストで魔導士に……。

 え? あれ食べられてるの?」

「そうじゃ。

 魔導士との選別条件や理由は知らんがな」

「年数十万人?」

「そうじゃ。

 捕虜を入れると一桁増えるかもしれんがな」

「確かにそいつは敵だ。 滅ぼさないといけない。 絶対に」

「その自信はどこから来るのかは知らんが、お前さん、神の強さを知っているか?」

「知らないです」

「じゃろうな。

 ある時、一人の魔法少女が聞いたそうじゃ。

 神は、魔法少女の強さは自分の百分の一だと答えたと。

 魔法少女は、今も最大九十九人じゃろ?

 全員でかかっても勝てないぞと笑ったという。

 ほんとかどうかは知らんがな」

「つまりそれに匹敵する可能性があると……」

「挑んで見なければわからんが、最低でもそのくらいは想定しておく必要がある。

 わしの感想では、そもそも神には魔法少女が何人居ても勝てんと思う」

 人数も意味ないじゃん。

「ううぅ」

「さて、戦況とかも知らんじゃろ?」

「……ええ、お恥ずかしながら……」

「帝国が今の大きさになってから、全ての隣国と敵対し、そして全て膠着状態じゃ」

「さっきの話を聞くと、あからさまに見えるわね」

「そうじゃ、人を減らさない程度の戦争をずっと続けている。

 そっちの大陸は、関わってきそうじゃったから、北国で押さえこんだのじゃないかの。

 それ以上手を広げると兵力的にバランスが厳しいのじゃろう」

「ちょっと待って、わたしずっと膠着状態を保つようにちょっかい出して来たのよ」

「お前の存在が知れてから。

 バランスを崩す可能性のあるお前を恐れ、お前の情報を得るためにいろいろと小細工をしていたのじゃろう。

 それを含めて相手の手の内じゃ」

「うげ」

「港を壊してるのはよかったと思うぞ。

 北国の捕虜を運べなかったじゃろうからな」

「そうか、フォローありがとうございます。

 それから、あの、さっきの言葉取り消します。何もしてないって……。

 いろいろ調べてはいたのですね。

 本当にごめんなさい」

「わしには愛する家族がおる。旦那は他界したが、息子夫婦に孫。

 それを守りたいとは考えるさ」

「さっきと言ってる事違いません?」

「違わないさ。

 人生を歩んだわしには戦う目的がある。

 お前は人生を知らない、そのまま戦うなら、わしから言えばただの兵器と同じじゃな」

「あ、そういうこと……」

「ただ、今戦う目的が、未来の為ならどうじゃ?」

「勝たないといけないですわ」

「恋でもしていれば、将来を描けると思うのじゃが……。

 神の意図も及ばない魔法少女の義務がないこの世界で、今のまま戦わせたくは無いと思ってな」

「ご心配いただけるのはとても有難く思いますわ」

 SWカナデにも似たようなこと言われたのを思い出した。

 ……もっと人間としてちゃんと生きた方がいいかもって。

 ただ、わたしには、実はそれが分からないのよ。 何をすればいいの? 何を考えればいいの? 学校にただ通えばいいの? でも、今はそんなこと心底どうでもいい。 北国の人達を見たし、帝国の非道も知った。それを、なんとかしたいのよ。傲慢なのかもしれないけど、今はそれしかない。

「しかし、お前の様なすぐに頭に血が上るやつがよく魔法少女に成れたな。正義感は認めなくもないが」

「すいません。 その辺りについては、返す言葉はありません」

「さて、ここまでの話はそれはそれこれはこれと割り切って聞いてくれ」

「はい?」

「わしが存命のうちに来てくれてありがとう。

 ほんの少しじゃが光明が見えた。

 これからは、ともに努力させてくれ」

「え? え? あ、はい、もちろん、あらためてこちらこそお願いいたします」

 ミラ様は、わたしの体を抱き涙を見せた。 この人もなんとかしたいんだ。ずっとその思いを抱えて生きてきたのね。

「さて、話はまとまった様ね。

 まずは、どうしましょうか?」

 テネさんが、仕切ってくれた。

「他に魔法少女は居ないんです?」

「たぶんそうじゃないかというのがあと一人だけじゃ。

 そもそも、転生のしくみもよくわからんから、偶然に任せるしか無いからの。

 じゃから、わしが一度探しに行ってくるよ。

 テネは帝国の方を見張ってくれ。 そろそろ明確な対魔法少女の動きがあるやもしれん。

 元王女様は、帰って青春を謳歌しながら待っていろ。

 学校は、もうすぐ夏季休暇じゃろ」

 あらら。話が戻った。

「夏休みは、南極合宿に志願して参加してたなぁ。

 皆で氷の溶けだし防止にアイスフォームで凍らせてた。

 焼け石に水?みたいなものだったけど、やらずにはいられなかった。

 神様には、皆でお願いしてそのくらいは了承してもらったなぁっと。

 そうですね、とりあえず学生しつつちょっかいを続けることにします」

「それでいい。

 ……ゲットチェンジタイプツー」

 ミラ様は、おもむろに少し離れると、魔法少女に変身した。

 見た目年齢は十四、五歳くらいかな、ワインレッドカラーのゴスロリっぽい衣装になった。

 なにこれ、マジか……。

「めちゃ可愛いでしょ。 童話のアリスみたいなエプロンドレスっぽいのもあるのよ」

 テネさんは速攻で抱きついていた。

「ナン、ダト……ええと、わたしの世代のは、どうしてああなった」

 このうらやましさ、悔しさ、いや、自分の衣装も愛さないと。

「こんな変哲の無い衣装がそんなにいいかのぅ」

 なんとなくニヤリと笑ったような。

「いえ、衣装がものすごく可愛いけど、衣装だけでなく、中身としてここまで似合う人って……もう、お人形じゃん。 

 ああ、言葉通りの人形みたいってことでは無くて、最上級の誉め言葉のつもりよ」

「もうよいもうよい、お前は早う去ね」

 手で犬を追い払うようにしっしってされた。

「意外と照屋さんなのね」

「だから、早う去ね」

「なんかそれを見せられて変身するのもちょっと辛いけど……。

 ふぅ~。

 神力変装、うぃんどふぉ~む~」

 わたしは、諦めのため息をついてから、変身した。

「なるほどの、肌の露出が多い。 神の変態度がさらに増したか。

 それに、そのゴテゴテした部分を見るに、お前さんの時代に生きるのは、わしには合わないと感じるぞ」

 それなりにまともなのに変身してこの感想。 そうですよね。

 今思えば、神様の感性や指向って、ちょっとあれなおじさんとかオタクの人と同じじゃん。

「あの~、これは普通の人が着るデザインとは全く違うからね。

 まぁいいけど。

 それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

 でわ~」

 わたしは、帰路に就くべく飛び立った。

「途中まで送るよ~」

 SWパラムが、少し遅れて飛び立った。

 SWパラムは、そのまま帝国手前の町に案内してくれた。

 そこで一緒に一泊し、翌日一気に帝国を越えるのを勧められたのです。



 さて、変身の掛け声について補足です。

 ”変身の意思を示す言葉”足す”変身したいフォーム名”

 であればよいので、

 変身の意思を示す言葉は”変身”だけでもいいのです、わたしも急いでるときは”チェンジ”とか使うし。

 ただ、意思表示に失敗する事があるので、普段は先輩のまねで”神力変装”を使っています。

 ちなみに、フォーム名は、多言語対応はもちろん、123とかABCとかも割り当てられているので、”変身いち”とか”チェンジエー”でも大丈夫なのです。




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