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転生魔法少女は悪名「白い(ビキニの)悪魔」を払拭したい  作者: 安田座


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4/18

敵とは

 


 放課後になり、わたしはいつも鍛錬している特別室に居ます。

 アレン先輩とアイル先輩には同席していただいているのです。

「すまない、待たせたか」

 マイリス先生が入室して来ました。

「いえ、元々ここに居る時間ですので」

 部屋の奥にあるテーブルに案内しつつ答える。アレンとアイルはそこでお茶を飲みながらくつろいでいる。

「ああ、超人は正式な部活ができないんだったな」

「はい。

 それで、この二人は、アレン先輩とその弟のアイル先輩です。

 二人とも超人ですので、その関係で何か気になることがありましたら、ご相談されるとよろしいかと」

「ありがとう。 二人ともよろしくな」

「こちらこそ、弟ともどもよろしくお願いいたします」

 アレンの挨拶にあわせてアイルも丁寧にお辞儀した。

「でだ、俺は、あんたを暗殺しようとした男だ」

 マイリス先生がわたしに向かうとまさに単刀直入に言った。

「「なんだって?」」

 兄弟が同時に立ち上がる。

「二歳だったあんたに記憶されてるとは思わないが、教えて欲しい。

 あの時、俺が戦った娘を探している」

 マイリス先生は二人を手の平で落ち着けと制した。

「?!」

 三人とも、警戒体勢のみで言葉はすぐに出てこず疑問符のみが表情に現れた。

 マイリス先生はそのまま続けた。

「あの後、北国の王とその家族達を東国へ脱出させた。

 俺を亡命させてくれることを条件としてだがな。

 その後、東国で実績を作って、ようやくここにたどり着いた」

「あ、ええと、その、亡命って言うことは、あなたはディスト帝国の方でしょうか?」

 アレンが聞いてくれた。

「俺としては帝国に生まれただけだけどな。

 さっきのは十四年前、十一歳の時だ」

「すいません、続けてください」

「ここへ来たのは、お前の居場所だけは想定できたからだ」

 お前とは当然わたしのことよね?

「学校ですものね。

 それで、そこまでしてわたしにお聞きになりたい事なのですか?」

 復讐?とかかな? いや、そんな感じじゃないし、決着を付けたい? うう、そんなことに十四年もは無いかぁ、とも言えないのかなぁ……。

「そうだ。

 で、あの娘の所在について教えてくれないか。

 あれは超人だろ?

 俺と互角に、いや、あいつの方が全然上だった。

 やはり軍に居るのか?」

「ええと……」

「俺は、誰も殺していない。脱出の時も。

 あの時、あいつがそこを気にしていたからな。

 だから、誰も殺さなくて良いように帝国から逃げだした」

「あなた自身の思いでは無いのね」

「いや、俺の心もそうだ。だが、仕方ないとは思っていた。超人兵士としての試験だったんだ。

 だけど、決心できたのは、暗殺を止めてくれた彼女のおかげだ。

 事実、北国の王を逃がすとき、途中誰も殺さなかったから逆に疑われたんだ。

 そのせいで信用を得るのにものすごく時間が掛かったと思う」

 マイリスはどんどんまくしたてる。

「そうなんだ……」

 なんか圧倒されて、いまいち飲み込めないわぁ。

「お前の姉妹か血縁者だったんだろ? 今、どこにいるか教えてくれ」

「会ってどうされるのです?」

 そうそうこれだ。

「嘘をついたことを誤る」

 ああ、西国軍の件ね。でも、そんな程度の理由でここまでしないわよね。とも言えないのかなぁ……。

「それだけなのですか?」

「まさか、それだけの訳ないだろ、結婚を申し込むのさ」

「なっ……ええと、決闘の聞き間違えでしょうか? 結婚って聞こえたましたけど」

 変身後のわたしと?

「何を言い出すんだよ。 物騒なお嬢さんだな。

 俺は、確かに結婚を申し込むって言ったのさ」

「いや、なんて言うか、話がわたしの暗殺未遂から始まって、それを言うのですね。

 意味が全く分からないわ」

「少し逸れるが、俺は、伝説の白いビキニの悪魔と、お前を守った娘は双子じゃないかって思ってる。

 白いビキニの悪魔は、腕をごっつい鎧で隠していた。ゆえに魔導士の可能性が高い。

 だが、最初にお前を守った娘は、両手が確かにあった。

 つまり別人かも知れないんだよ。

 実際、同一人物でも良いのだが、どちらかというと、お前を守った娘の方に会いたい」

「……」

 これはどう反応すればいいのか分からないです。

「あいつのお前だけは守り切るという絶対の覚悟を持った瞳が忘れられない。

 そして、顔と声だ、好み過ぎた。

 どっちもあんたに似てる気がするから、最初ちょっと焦っちまった」

 好みの部分言わない方が良いような、まぁ褒められて嬉しい部分はそっちではあるけどさ。

 っていうか、あの時いくつよ、あんた。あ、十一歳って言ってたか。

「そんな理由で裏切って来たのです?

 人殺しをしたくないという決意は認めますけど」

「いや、裏切った理由は殺しをしたくないが主だろ?

 ここに来たのが彼女と結婚するためなだけだ」

「ええと……そ、そうね。

 言い方が悪かったと思いますわ、ごめんなさい」

 いけないいけない、つい自分本位でとらえちゃった。

「どうだ?」

「では、機会を作って、本人に聞いてきますわ。

 あなたの熱意にはお答えしたいので話くらいは通しておきます」

 北国の要人救出といえば英雄的な働きでしょうに、あまり報われて無さそうだし。

「それは、彼女はまだ独身ってことだな」

 がふっ、そうきたか。

「あ、いえ、どうでしょう。

 ずいぶんあっていないので……」

「確かに軍に居る超人なら情報も出てこないか」

「は、はい、そうですよね」

「わかったよ。

 十四年も待ったんだ、待つのは問題ないさ」

 先生は、既になんかやり切った感を醸し出していた。

「先生、お話終わりましたか?」

 アレンが割って入った。

「おお、話が繋がりそうだし、今はもう待つだけだ」

「先生は、白いビキニの悪魔に会ったことがあるんですね」

「ああ、可愛いかったぞ。 そこの王女の子供の頃の姿を想像すればいい」

 目の前でそんなこと言われたら照れるわい。

「なるほど。

 やっぱり魔導士なんですか?」

「実際のところ、よくわからん。

 魔導士は片手が無いのが絶対なのだけは知ってるんだが。

 あいつ、実は鎧で隠れていた手もあるかもしれん。

 そして何より、空を飛んでいた。

 そんなの聞いたことがない。

 君は魔導士に興味があるのか?」

「小さいころ、北の国で人質だった俺は、雷光の悪魔に助けられたんだ……」

 アレンが話し始めた。初めて聞く話だ。

 そして、わたしがこれまで人質救出作戦で関わったのは三回、どれだろ?

 ええと、サンダーフォームで人に見られる様なそんな恥ずかしいことはしてないような……。

「ほう、俺は、雷光の悪魔にはあったことないぞ」

「俺はその時に見たんだ」

「見た?」

 つい、わたしが聞き返してしまった。

 正体?じゃないよね?

「ええと、女性には聞かせたく無いんだけど、話を進めたいから言うよ。 見てはいけない場所をね。

 だっていろいろ隠してなかったんだよ。

 胸だけじゃなくてあそこが見えた。薄いストッキング越しにだけど、履いてなかったんだ。

 今、思い出す光景が正確なのかももうわからないが、見たという事実は消えはしないんだ。

 おかげで、恐怖が一瞬で吹っ飛んだのさ」

「え?」

「なんでそういう格好なのかはわからなかったけど、そんな姿は置いといて。

 とにかく強くて、そしてその美しい笑顔で元気づける声をかけてくれた」

「そ、そうなんですか……やっぱりわたし外した方がよさそうですね。

 お茶を入れなおしてきますわ」

 その場を離れたかったのは、思い出したのだ、やばい記憶を。

 十年くらい前のあの時だ、二度とサンダーフォームは使わないと決めた時だ。

 本心としては正体より見られたくなかったわよ。

 ああ、この人と自分の記憶を消したい。消えかかってたのに、もう消えそうにないかも。

「それで?」

 マイリス先生が話を進める様に促した。



 わたしの記憶では……、

 あれは十年前、

 第二次人質救出作戦が行われた。

 男性に労働を強いる為の人質として、違う場所に分けて閉じ込められて居た人達だ。 この時は主に女性と子供だった。

 SWカナデを残してわたしは向かった。 場合によっては手助けをするためだ。

 順調に作戦は侵攻していたが、倉庫街に差し掛かった時、先に逃げさせた子供達が、背後に壁が飛び出したことで本隊と女性から分断されたのだ。 

 敵の罠、そういう作戦だった。 分断すれば、当然足が止まる。その分断が子供と他と言う状態を作った。

 しかも、敵の戦力は子供側だった。

 子供たちは壁を叩いたり叫んだり座り込んだり、その皆が恐怖に泣いていた。

 そんな時、

「あきらめるな! 少年達!」

 わたしは、敵との間に降り立ち、そう力づける言葉を発した。

 そういえば、サンダーフォームだった。 実は、部隊の動きをサポートすべく、伏兵を一人づつ電気ショックで気絶させていたのだ。

「うわ~」

 一斉に振り向いた子供たちの声は概ねこれだった。

「そしてっ、叫ぶのも泣くのも止めなくていいぞ。

 壁の向こうに無事を伝え続けなさい」

 子供相手だし、もうどうでもいいやと下手に隠さずに続けた。

 皆、ドン引きで泣き病んでた。そして、小声でいろいろと話してそうだった。

「貴様、その怪しい姿、悪魔の一人だな」

 敵が会話に割って入ってくれた。

「もうそれでいいです。

 だから、あきらめてくれないかしら?」

「かかれ」

 敵兵はわたしに向けて走り出そうとした。

「サンダーアローっ」

 敵兵の足元に電気の矢を放ち、足を止める。

「うわっ」

「ぎゃぁ」

 同時に敵兵の驚きや悲鳴の声が上がる。

「エレクトロウェッブっ」

 続けざまに攻撃、細い電気が網目になって敵兵全員を包んだ。

 敵兵全員は苦鳴を上げてバタバタと倒れて痺れがあるのか手足をピクピクさせる者もいる。出力を押さえたから痺れる程度で済んでそうだ。

 そして振り返りながら「サンダーパイク」と口にした。

 右手には巨大な槍が現出していた。

 瞬間的に子供たちから少し離れた位置に移動して壁を突く。 登場する際に上空から壁の向こうの様子は確認していた。

 爆発の様な音と共に壁が大きく崩れた。

 電気の力を加えることもできる武器だが、ただの強度のある槍として力任せに突いた結果だ。

 塵や埃が舞い上がる中、わたしはその場を離れた。

 空けた穴から救出部隊と母親達が抜けてくるのを確認しつたので、また隠れて元の役目に戻った。

 この時、こっちの世界では人前でも変身できるから、別な多少ましなフォームに変わることもできた。

 ただ、敵前ではそれは避けたかった。

 変身後の見た目年齢が違うので、複数存在する様に思わせておきたかったのだ。



 アレンは、わたしの記憶を引き継ぐように続きを語った。

「だから、俺は、責任をとらせてもらおうと思っているんだ。

 超人となれた俺なら、それができるんじゃないかと、少しでも強くなれる様に努力もしてきた」

 いきなり何を言い出すのよ、聞かなければよかった。いや声が大きくて離れてても聞こえたのですけど。

 責任を取るってやっぱりあれよね。アランのことは嫌いじゃ無いけど今はまだ恋愛をする気にはなれない。

 でもさ、極論だけど、正体明かせば結婚して貰えるってのはキープみたいな感じでそれはそれで嫌かも。

 あ、いや待てよ、サンダーフォームであの時だと、今は二十代後半のおねぇさんだと思ってるんじゃ。

 つまり、正体知っても今の年齢は好みじゃ無いかもなのね。 まぁ、とりあえず、いろいろ考えるより今は聞かなかったことにしておく方が無難か、いやいや、彼の今後を考えると、どうしたものか……。

「確かにあの悪魔達がつるんでいるのだとすると、王女の姉妹から何か情報が得られるかもしれんな」

 悪魔達って、ああ、これっていつ払拭できるのかしら。

「そうなんです。

 僕にも情報をいただけると助かります」

「たぶん、君も玉砕覚悟だろ?

 俺と同じ様なものだな。 いいだろう協力しよう」

 先生は、手の平を出した。

「はい、それでも、今は諦めないつもりです」

 アレンがその手をがっちりと掴んで握手。

 あ、そうなんだ。 なんなのその覚悟。

「僕も何かできることあれば協力するよ」

 アイルも握手に手を重ねた。

 なんだかめんどくさいことに……。

 その後、マイリス先生は自分の力を知りたいと、意気投合した二人を相手に木剣を使っての手合わせをはじめていた。



 帰ってからSWカナデに今日の話を伝えた。

「そうですか、それは困りましたね」

「どうする?」

「どうするとは?」

「なんか悪い人じゃ無いのは分かったわ。

 かっこいいし。

 わたしのタイプでは無いけどね」

「わたしに、色恋沙汰を期待してます?」

「ええ、そういうのは、彼が相手じゃ無くても、あなたの自由でいいんだけどね」

「まったく、SWをなんだと思ってるんですか」

「人格あるんだから、本人次第と思ってるよ」

「そもそも人間でも無いし、この体は張りぼてですからね」

「それでも良いっていいそうだったけど?」

「少し話を戻しますね。

 彼は、あの時、一度刃を止めたのです。

 そこでわたしは目覚めた。

 だから二撃目に間に合ったのです。

 確かに、彼は殺しをためらったのでしょうね。

 戦闘中、あなたを狙った苦無も、無視すれば手か足に刺さったでしょうが、どれも致命傷にはならなかったでしょう。単にわたしの隙を誘うためだったかと」

「ふむ、案外あんたの評価も高そうじゃない?」

「ええと、まぁ悪人では無いかもしれませんね」

「少し年下だけど、見た目年齢を合わせてやれば良いんじゃないかな?」

「わたしはあなたと違って年齢などは気にしないですが、ってそうじゃなくて」

「正体ばらす?」

「正体をばらして、あの時の年齢に近い方がいいと言われると困りものですが、でもなくって」

「男の人って、そういうのもどうでもいいんじゃ? というか若く居られる方がいい?」

「あなったって……もっと人間としてちゃんと生きた方がいいかもですね」

「なんじゃそりゃ」

「案としては、わたしは軍籍としてごまかしておいた方がよいと思います。

 しかし、まさか、また現れるとは……」

「次に会ったら殺すって言っといたのにね。

 いや、そこまでは言ってないか……」

「はいはい、もうこの話はいいでしょ。

 では、報告をさせてください」

「もちろん。

 ごめんなさい、そっちのが重要だわ」

「いえ、たぶん話の順番はこの方がいいでしょう」

「あまり良い話では無いのね」

「はい。

 おそらく、魔導士に遭遇しました」

「なんと」

「姿を消したわたしの気配に気付き攻撃してきました。

 炎がそれのみであの様に飛んでくるとは思えないので、おそらく魔力の塊でしょう。

 回避が間に合わず腕に受けてしまったところ、その腕が消滅しました」

「それほどの敵なのかよ……」

「本格的に対峙したときにどの様な攻撃がされるのか、それによっては変身装備やわたしを消せるのかもしれない」

「変身装備消せるなんて、魔法少女の天敵ね。

 攻撃のバリエーションとか、身体能力とかによっては、勝ち目が無い?」

「まぁ、大火力で圧倒すれば済むと思うけどね」

「なるほど、でもやりたくないわ、確実に死んじゃう」

「そうね」

 魔導士については、情報を集めることが優先だわ。 実在はわかったことだし、偵察を続ければ何か対策も思いつくかも。



 週末の放課後

 毎週、鍛錬は無しで養護施設兼保育園にお手伝いをしに来ています。

 祝日にも時間が取れれば来てるのですが、この週末の時間は欠かさない様にしています。

 わたし前世は保母さんだったから、昔取った杵柄で、子供相手は得意だし大好きなのです。

 子供たちと遊んだ後、今は事務室で園長先生と雑談をしています。

 突然事務室のドアが開いた。

「ただいま戻りました」

 そちらを振り向くとマイリス先生だった。

「おかえりなさい」

 園長先生は普通に応じる。

「あっ、なっ、なんで?」

「それはこっちの台詞だ王女さん」

「セビルさん、お知合いでしたか?

 彼にはここのお手伝いもしていただいてるのよ」

「あ、いえ、わたしのクラスに研修で来られている先生なのです」

「まあそうなのね。では、よき偶然ね」

「そう……ですね」

「そうだな」

「では、そろそろおいとましますわ」

 確かに時間だけど、なんとなく逃げる様になっちゃった。

「はい、今日もありがとう」

「待て、送って行こう」

「え? あ、お構いなく」

「遠慮しなくていいわよ。

 お年頃なんだから、送っていただきなさいな」

 園長先生の善意には逆らえません。

「では、お願いします」

 とはいえ、暗殺者と二人きりになる方が問題ありそうなんだけどなぁ。


 そして帰り道、マイリス先生に送っていただいてます。

「あなたって、帝国に命を狙われたりしないの?」

 ふいに抜忍のイメージが浮かんだ。

「俺を始末しに割く戦力なんて無駄でしかないんだろうな。

 超人レベルで無いと無理なのもあるが、そもそも、俺はまだ兵士として認められてないから、軍の情報は何も知らないし」

「ふむ、見せしめとかは無いの?」

 やっぱり抜忍のイメージ。

「超人かどうかが十歳以降でわかるってのは知ってるよな?」

「ええ」

「帝国では、それを軍が仕切ってやってる。

 第一子が十歳になると集められ、十一歳までに超人になれないと、魔導士の試験を受ける。

 俺は超人に目覚めたからなのか、魔導士の試験を見せられた。 超人になれてよかったなって思い知らせるためだったのかもしれない。

 試験の方法は、一人づつある部屋に呼ばれて、これくらいの穴に手を入れさせられる」

 両手で四角を作るようにして大きさを示した。

「穴?」

「壁にぽつんと一つだけ開いてるんだけど、そこに手を入れると、穴から黒い何か出てそれに包まれて体ごと溶ける様に穴に飲み込まれる。

 俺が見てる時、何人試してもそうなった、しかし、一人だけそうならなかった者が居たんだ。

 だけど、そいつも穴から抜いた手の手首から先は無くなっていた。

 理屈は教えてくれなかったけど、それが成功らしい。

 つまり、成れないと死ぬって事だけは確実なんだ。

 年数十万人、そのうち超人が数人、魔導士は居るか居ないかレベルだとさ」

「あ……」

 言ってる事の真偽はわからないけど、言葉が出てこない。

「で、超人になった者は、普通は家族が居るから、そのまま上級兵士になれる……、

 言わなくても想像できるだろうけど、家族は人質さ、その分良い暮らしは確約されるけどな。

 俺は孤児だから、当然人質になる家族もいないから、忠誠心を示す追加試験として困難な事をやらされたんだよ。

 それが、あんたの暗殺だ」

「子供にそんな事までさせるなんて……」

「見せしめも何も、最初からとんでも無い世界で、人質も居るからそれ以上は不要なんだろう。

 せっかくだから、もう少し話してもいいかな?

 あの娘にも伝えて欲しい」

「どうぞ」

「あの日、暗殺失敗を報告に戻ったら、ものすごく歓迎されたのさ。

 西国の軍が引き返したんだと、白いビキニ姿の謎の強者に追い返されたと。それで俺は、あの娘が約束を果たした事を知ったのさ。

 その時思った。彼女なら、帝国に立ち向かえる可能性があるんじゃないかと。

 俺はそれに掛けるために逃げてきた。

 彼女に会いたい理由は、帝国をなんとかしてほしい、なんて都合のいい頼みもあるからなんだ。

 まだ存在してそうなのは噂で聞いたしな」

「それは、あなたが帝国を変えたいという事ですか?」

「そうだな、あいつらの命の扱い方はおかしいと思ってるから、これから生まれてくる命を含めて救いたい。

 だけど、俺の力はあまりにも小さい。 超人一人なんて数百人の兵士と同じくらいだよ、帝国の力に対しては誤差にもならない」

「穴の正体はなんなのでしょうか?」

「化け物が入ってそうだよな。

 帝国がそこまでして飼うのは魔導士を造るためだろうが、あまりにも見合わない人数を犠牲にしている」

「生贄を与えないと暴れだすとか?」

「そうかもな。

 だとすると帝国も被害者ってことになるのか?

 そんな雰囲気は感じ無かったけど」

「でも、可能性はあるかな」

「残念ながら穴の場所は、眠らされて何も分からない様に連れて行かれたから知らないんだ。対抗する目途が着くならそこを調べるくらいは俺がやる。

 やる気があるか聞いてくれ」

「う~ん、結婚してくれと帝国つぶしてくれ、どっち優先?」

「どっちもさ」

 二兎追う者はってのは、ちょっと違うかな。自分の為と世界の為のどっちもなんだ。

「あなた子供が好きなのね」

 話を変えた。

「そうだな」

「だから園の手伝いもしているの?」

「住まわせてもらってるし、俺もそういう場所に居たしな」

「なるほど。

 あの、この辺りまでで結構です、あそこが学生寮ですので」

 指をさした大きな建物は学生寮の一つで中高の女子寮だ。

「そうか、じゃ、また情報交換でもしてくれ」

「はい。 送っていただいてありがとうございました。

 では、おやすみなさい」

 いちおう軽く手を振ってから寮に向かう。

 それにしても魔導士はどのくらい居るのだろうか、SWの報告では魔導士は超危険なのがわかった。

 穴の化け物はそれ以上だとしても、魔導士もなんとかできるのかさえも想像できない。

 先生に頼まれなくてもなんとかしなければいけないはずだ。

 強くならなければ……。




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