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暗殺者との再会

 


 お城に戻ると、中は喧騒に覆われていた。 まぁ、そうよね。

 誰にも見つからない様に隠れながら窓から中を覗いて回る。

 私の部屋には兵士たちが溢れ、いろいろ調べている様だ。

 あいつ、ええと、分身が変身したわたしは別の部屋に移されていた。そして、そっちもめっちゃ人が多い。

 この状況って眠れたのかな。 あいつには必要ないかもだけどね。

 というか、これどうやって入れ替わろう。

 と、思案していると、しばらくして朝食時間となった。

 分身は、食べ終わった時に遊ぶふりをしてソファの後ろが死角になる様に移動してくれた。さすがだ。おかげでなんとか交代できました。


 わたしは、心の中で分身カナデに話しかける。

(「ただいま~」)

(「おかえりなさい。 で、どうだった?」)

(「引き返してもらったよ。

 でも衣装は弱くなってるみたい、代替魔力じゃ劣化版になってるのかも」)

(「そっか。 とにもかくにも、無事でなにより」)

(「相手は、たぶん人間だと思うけど、普通の剣で圧倒されたし、装甲にけっこう傷をもらってた」)

(「しょっぱなから、そんななんだ。

 この世界、あなどれないかもね。

 でも、そもそも戦争に関わって大丈夫?」)

(「今更、そこか~。 わたし、人を守るのに、そこはだめってのにはちょっと疑問があったのよね。

 だから、とりあえず、こっちでは思った様にやってみるよ」)

(「直接参加はだめだと思うけどね」)

(「それはそう。 抑止と防衛に努めます。

 ところで、あの人、めっちゃ好みのタイプだったのよ」)

(「あんたいくつよ」)

(「にちゃい」)

(「はぁ~」)

(「さて、その話は置いといて、ちょっと調べて欲しいのだけど」)

(「ええ、いろいろ調べてくるよ」)

 と、カナデは答えると、姿を消したまま部屋を出て行った。


 その日の夜になってから、カナデに調べてもらった内容を教えてもらった。

 そして、とんでもない失態だった事を知った。

 彼、いや暗殺者に騙されたのだ。

 北国が攻められていたのは本当だったが、西国の動きは、北国を攻めるのではなく支援に向かうところだったのだ。

 さきほど、西国の伝達係がその事体を知らせに来ていたのだ。

 その報告には、たった一騎の謎の女性に阻まれたと。

 さらに補足の様に”白いビキニの悪魔”という記載も見られたとのこと。

「やってしまった」

「まぁ、そうね。

 でも、わたしも止めなかったし」

「変身できて浮かれてたんだ。 気になってたし」

「殺されそうになったんだし、冷静さも失ってたのかな。

 二歳児の頭なんでしょ?」

「そうだけど、記憶の理解はできるほどには成長してる」

「そんなことより、”白い悪魔”なんて、早速なんかかっこいい二つ名付いたじゃん」

「ビキニって部分が付いて無ければね……って、いやいや魔法少女が悪魔って言われちゃだめでしょ。

 神様の使いなのよ……なのよね、今も」

「そこは変わらないでしょ。 変身できたんだから」

「うん。

 だから、悪名も払拭しないといけない。

 まぁ、これは目的では無いけど、これからはそういう行動をするわ。

 まずは、北国のために何かしないと」

「ええ。

 二人で頑張りましょ」

「もちろん。

 手伝ってもらうわよ」


 そして、さらに後日わかったことだけど、数日前の四国同盟(カルタード大陸の東西南北それぞれが王国です)の戦略会議にて、援軍は出さないことが決定していたが、西国の一部の部隊は独自に動いたのだった。

 もし参戦していたら、双方の被害の拡大と期間の延長、援軍もおそらく全滅だったのではとの分析だった。

 さらに、攻めてきていたのは別な大陸にあるディスト帝国で、それほどに戦力を投入してきていた様だ。

 あの暗殺者は、ディスト帝国の損害最小化のための陽動を狙っていたのだろう。

 わたしとの会話は、でっち上げの内容で、まんまとわたしは騙されたのだ。

 ただ、結果的には、西国の軍を生存させ、おそらくディスト帝国の死者も減らしたのだと思う。

 北国も、早々に降伏し、人的被害については最悪の事態は避けられたのかもしれない。

 それでも、これを良しとすることは、今のわたしには全く判断できなかった。

 あの時、西国の隊長に話を聞いて一緒に北国へ向かっていたらという後悔は、ずっと引きずっている。


 翌年、東西南の三国、いや、名目上は北国も含めて四国は合併し一つの国家カルタード共和国となることとなった。

 元の国は、東自治区、西自治区、南自治区となり、それぞれの領主がそのまま治めるが、全権は国家統一会議によって運営される。

 また、地理的に北国からの直接進行のできない南国に国家統一会議の中枢を置くとともに、共通の学校を作り子供たちを集中させた。

 小中高だけでなく、落ち着くまでは保育系もそこに同居している。

 もちろん、教師他関係者もおり、周辺は巨大な施設に膨大な人数が住む都市になっていた。

 だが、なぜかこのタイミングでディスト帝国の侵攻は止まり、膠着状態となっていた。



 ここまで来てなんですが、この世界にも魔法があるみたい。

 とはいえ、わたしの使う神与力とは違い、ある意味本当の魔法なのかな。

 ただ、使えるのは世界でもほんの一握りらしく、この大陸には居るかどうかもわからないし、どんな魔法があるかも定かでは無い。

 ディスト帝国の部隊には、二名確認されているらしいけど、その詳細も不明だそうだし。

 授業で歴史上の人物的な扱いでも出てくるけど、それはどちらかというとおとぎ話みたい。

 そして、わたしの神与力、こちらの世界で代替されているのが、その魔法に近い力らしいです。

 ということで、わたしは名実ともに魔法少女になった。 そこは、どうでもいいんだけどね。


 さて、わたしの能力について説明をしておきます。

 変身で属性や系統の違う七種類の姿になれます。

 各フォームには変身前の年齢に関係なく、それぞれ変身後の実体年齢が設定されています。

 ただし、各フォームへの変身条件には実年齢+十歳以上という制約があるそうです。

 とはいえ、現行魔法少女は全員が十代後半以降の年齢の為、全てのフォームへの変身が可能であったため、特に意味のある制約では無かったのよ。

 万が一、低年齢の子が魔法少女になった場合に、あまり未来の姿を見せたくないとかで、設定を作って数字は適当だったのだろうとカナデは推測してくれた。

 そして、変身後の実体年齢が高いほどフィジカルは高くて魔力が低く、実体年齢が低いほどフィジカルが低くて魔力が高いのです。

 これも、設定好きの神様が意味もなくつけたのでしょう。

 そう、魔法少女は、神様に選ばれた者のみがなれるのです。

 その神様は、地球が進化して現れた分身らしいですが、我々の理解どころか想像の及ぶ存在では無いようです。

 でも、存在してからそれなりに時間が経ち、魔法少女を作ってるうちに、どんどん変に凝りだした様で、現状では以下のようになっています。

 ウィンドフォーム(実体年齢18歳)

 アイスフォーム(実体年齢17歳)

 ファイアフォーム(実体年齢16歳)

 サンダーフォーム(実体年齢15歳)

 アースフォーム(実体年齢14歳)

 シャドウフォーム(実体年齢13歳)

 ファイナルフォーム(実体年齢12歳)

 これらのフォームの更新は数年おきで、最新は2020ヴァージョンです。

 フォームの種類は更新時に増えることがある様です。最初は一種類だったのでしょうかね。 実は、ある意味機能を分けただけということかも。

 ちなみに、2000ヴァージョンは、ものすごく不評だったらしいです。

 職業系のコスプレみたいな感じのが多く、しかもミニスカ&露出過多で、全員の嘆願で一部、いやかなり修正され続けたとか。


 さて、既にお気づきの事と思いますが”各フォームへの変身条件には実年齢+十歳以上”という制約。

 これに引っかかって、なんと最初に変身できたのがファイナルフォームという皮肉、それでも、変身後実体年齢のおかげで二歳児で変身できたのは、逆の皮肉か。


 それから、分身のことを追加説明しておきます。

 魔法少女は、作戦への動員時に不在になってしまいますが、地球上のどこに派遣されるかもわからないので、期間もそうですが、絶対日常に影響が出てしまいます。

 そんな時に、身代わりをしてくれる、ソウルダブル(以下SW)というらしいですが、魂の分身を持てるのです。

 彼女は、自己を持ち、基本的には自由に行動できます。 さらに、年齢も自由に変えられるのです。(それにもプラス十歳の上限設定はあったみたいだけど)

 装束も魔力で好きに生成できるという便利さ。

 ちなみに、普段は魂に増設されたというイメージでの中に居るそうです。

 ついでに、魂の袋はもう一つあり、全ての変身装備が入っていて、変身時の着衣も入れ替わりでここに魔力的に格納されます。

 この魂の袋は、魔法少女になる時に与えられたことになっていますが、まぁ、魔法少女セットの一つということです。

 魂へのセットだから転生でも付いてきちゃったのよね。


 まぁ、とりあえず、いろんな制約があるのは、何かしらの不具合につながらない様に付けてたんだろうなと考えることにしました。

 それは、こっちの世界、今の状況でも致命的では無いのが幸い……いや、色については不幸すぎる不具合じゃぁ。




 話はけっこう飛んで、十四年後、

 わたしは、高学一年生になっていた。

 ちょうど授業終了の鐘がなった。

 授業終わりの挨拶の後、すぐにノートへメモを書き始めた。

「セビさ~ん」

 間もなく友人ノンノが声を掛けてくれた。

「お昼ごはんですね」

 たぶんお昼のお誘いだ。

「お昼食べに行こう」

「今日は食堂には行きたく無いと考えていたのですが……」

「ああ、あいつかぁ。 じゃ、屋上にしようか。

 あんたの分も、お弁当もらってくるよ」

 昨日、とある男子生徒とちょっとあったらしい……。

「助かります。

 わたしは、屋上のベンチを押さえておきますね」

「了解」

 ノンノは、ニコニコしながら教室を出て行った。

 こちらも、ノートへの書き込みをキリがよいところで止めて、屋上へと向かった。


 一方、わたしは、北国との国境手前の山の頂上付近に居た。そう、学校に居るのはSWカナデだ。

 ファイナルフォームへ変身し、念のため岩の陰に潜んでいる。

 ファイナルフォームだって、人目に付かなければ、何が見えていても問題無いのだ。

 国境は、深い谷になっています。幅二百メートルくらいで、深さは測った者がいないので不明という、人が越えるのはとてもじゃないが困難極まりない場所だ。

 といいつつわたしは降りてみた事があります。 一キロくらいの深さがありました。

 もちろん反対側は北国で、そちらは平地がずっと続いている。 ディスト帝国は、その平地の谷の少し手前に、巨大なやぐらを建設していた。 そこからグライダーみたいなので飛びそうなテストを見ました。

 以前から建造しているのは知ってたので、完成目前を狙ってちょっかいを出しに来たのです。

「ロングレンジ・ゴッドキャノン、モードフォー」

 ファイナルフォームの右腕に巨大なビーム兵器が出現した。

 その右腕を左手で支える様に構えると、目の位置にスコープがかぶさる。

 レーザーのポイントをやぐらの柱の一本その端に合わせる。

 これまでの調査で、今は休憩時間だと分かっています。だから作業員は全員少し離れた宿舎に居るのです。念のため、さっきも確認してました。こんな場所なので見張りもいません。

「じゃ、せっかくここまで造ったのにごめんなさい。

 では、スラッシュっ」

 トリガーを引くと、レーザーの様な光がポインターの当たっていた位置を一瞬焼いて消滅させる。そこから、横に薙ぐように銃口を少し振る。

 狙い通り、光は巨大なやぐらの柱全てを音も無く斬り捨てた。

 少し間が空いたが、微風が吹いたのをきっかけに木造建築が破壊する音が轟音となって響いた。その構造の巨大さ故に、支えを失うと脆かった。

 音と振動で、当然の様に宿舎から人が出てきます。 作業員に続いて武装した者も数人出てきました。

「きっと何が起こったかもわからないよね。

 また作ってもいいですけど、どう対策するのでしょう。

 さて、とっとと帰らないと」

 わたしは、展開した武器をしまうと、ゆっくりと後方に浮遊し、山を越えたところで飛翔に移った。


 この十四年間、こういうことを続けてきました。とにかく邪魔をしているのです。

 港の破壊、艦船の破壊、武器庫など軍事的重要施設の破壊、人質救出、要人の暗殺阻止、西大橋の占領を阻止などなどです。

 ただ、今回の件は、恐らく部隊レベルを送り込むのが目的では無いと思われます。

 ここ数年、小人数を送り込む様な作戦が見られるようになって来ました。

 それは、わたしについて調べたくて、スパイを送り込みたいのでしょう。

 敵の情報は、もちろんSWが持って来てくれるのですが、あちらとしてもスパイへの対策がどんどん厳重になって来てるそうです。彼女には無意味ですが。

 この膠着状態がいつまで続くのかわからないのですが、占領されたままにもできないのでしょう。

 カルタード軍も攻めてはいるのですが、敵は守りがすごく固い。

 わたしは、神様の意向で戦争への直接協力はできないので、攻撃を主とした軍事作戦への助力はしていません。

 ただ、無責任ですが、わたしの行動としての正解がまだわからないのです。グレーな感じも混ざってるのはわたしの裁量で決めてるからなのです。

 はっきりと行動するためにも、とにかく今は勉強を続けています。

 そして、未だに白い悪魔の汚名を払しょくできていないどころか、赤いなんちゃら、青いなんちゃら、緑の……と増えていたりします。

 フォーム毎に見た目年齢が違うから、同一人物とは思われていない様なので、そんなことになってます。いや、同じ人間だとわかったら、レインボーなんちゃらとか、七色なんちゃらになるだけかもしれませんが……。


 さて屋上の状況に戻ります。

 校舎は複数あって、それぞれ屋上が解放されています。ベンチやテーブルも配置してあり、休憩やランチに利用できます。

 レストランが充実していることもあり、ランチで利用する者はさほど多くは無いようですが、わたしはこちらの方が多いかもしれません。

 今も、空いていたテーブルにクロスを広げて、椅子に座ってメモ帳を開いて何やら書き込んでいます。

「今日は、こっちなんだね」

 一人の男子生徒が、話しかけてきた。

 二つ年上のアレンというイケメンだ。

「先輩、ごきげんよう。

 はい、お弁当待ちです」

「ちょうどよかった。

 今日の放課後だけど……」

 なんとなく申し訳なさそうな雰囲気だ。

「はい」

「ちょっと用事ができたので中止でいいかな?」

「ご都合が悪い様でしたら、もちろん問題ありませんわ」

「そうか、すまないな。

 アイルも一緒に行かないとなんで、ごめんな」

「それはそれは、お楽しみですわね」

 当然弟のアイルもイケメンで、二人ともモテモテなのだ。

 とはいえ、中身がそれなりの年齢のわたしから見ればどっちもお子様で可愛いもんである。

「別に女の子に会いに行く訳じゃないんだぞ」

「はいはい、もちろんわかっていますわ」

「相変わらず、ちくりと一言言わんと気が済まないのな」

 なんとなく癖ですが、決して文字通りの老婆心とかでも無い様です。いや、老婆でもない。

「あと、スコットには言っといたから、お前に難癖付けるのはやめろって」

「そんな事までしていただいて、ありがとうございます。

 とても助かりますわ」

「婚約破棄の噂が広がったのは俺のせいだし……」

「そのうち広まっていたでしょうし、もうお気になさらず」

 スコットは、わたしの婚約が破棄された事を知って、昨日の昼食時に揶揄してきたのだ。

 実はわたしって婚約してたのです、そう二歳の時のあの流れです。

 別に、どちらかに不備があったとか、不満があったとかでは無くて、王政が終わってどちらもある意味一般人になってしまっていたので、そういう政略結婚みたいなのは無しにしようとなったらしいです。

 そもそも、あれ以来会ってもいなかったのです。戦争になっちゃったし。

 なので、戦争が終わるか学校を卒業したら、また何かそういう話が始まるかもしれません。

「ああ、そうさせてもらうよ」

「では、明日はよろしくお願いいたします」

「了解だ。

 じゃぁな」

 彼が去るのを見送り、そしてまたメモ帳に書き込むのを再開する。

 しばらくして、ノンノがお弁当を持ってやってきた。


 ここは、今のこの国においては、ずるい気がするけど、とても平和です。

 だからこそ、守りたいと思う気持ちが強くなる要因の一つかもしれません。



 夜、SWカナデはノートとメモ帳をわたしに渡し、今日の出来事などを報告してくれた。

 わたしも、成果を教える。

「いつもありがとうね……。

 ええ~~、今日、剣術の稽古無かったんだ。ずるい」

 渡されたメモ帳を読んで出た言葉だ。

「いやいや、あんたが頼んでやってもらってるんでしょ?」

「だって、あいつら厳しいんだもん」

 あいつらとは、先輩アレンとその弟アイルのことです。

 唐突だけど、この世界、人間の強さの範囲がとても大きい、というか、普通の人と強い人の差が大きいのです。この強い人間を超人と呼んでいるのだ。

 とはいえ、超人はものすごく少ないです。最初に戦った隊長さんも超人でした。あの後、この世界の事情がわかっていく中で理解しました。

 そう、その兄弟は超人で、しかも、彼らは戦士として育てられて居るので本当に強いです。

 そして、わたしもその超人の一人なのです。

 超人は、運動部への所属はできません。

 なので、必要があれば独自に鍛錬するしか無いので、実家では衛兵たちに混ざって訓練してきました。

 SWに相手をしてもらう手もありますが、人に見られるリスクを考えるととても有効では無いのです。

 そこで、同じ超人である彼らに指導してもらっているのです。

 なぜ、わたしが強くなりたいのかと言うと、魔法少女としてではなく、自分の力でもこの世界の人々を守りたいからです。

 そう考える性格こそ、魔法少女に選ばれた資質なのです。と、考える様になりました。


 魔法少女になるときに神様に言われたのが……、

「あなたは、神の使途としてではなく、自分の意思で人間を守りたいのですね」

 そういう風に言われた。

 神様は、人が起こす事態には助けを出さない。だから、魔法少女もそうなのだ。

 それが個人的には納得いかなかった。でも、人を守れる可能性が増えるならとそれを受け入れた。

 たぶんだけど、神様は、環境問題や人権問題など、単純に人間では無く、人間の業が生み出す問題が増えつつあることを悩んでいた。

 神様も変わりつつあったのだろう、だから資質の少し足らない、というかずれているわたしでも選ばれたのだ。

 あの後、どの様に神様や魔法少女が変わっていくのかはわからないけど、人が変わる速さに神様は何を感じていたのか、最近とても気になっています。



「明日は頑張ってくだされ」

 SWカナデが適当な感じで応援してくれた。

「ふぃ~」

 実際、SWにとっては他人ごとなのよね。

「さて、さっそく行ってくるよ」

 SWは定期的に北国の様子を調べてきてくれる。その内容によってわたしは行動を起こすのです。

「頼むわね。

 ああ、港の修復具合もそろそろ確認した方がいいかも」

 港が使える様になると、兵器類などの補充や敵兵士の移動がしやすくなる。

「了解っ」

 いつの間にか、忍者っぽいデザインの衣装になっているSWは答えながら窓を飛び出して言った。

 衣装、自分で考えられるのいいなぁ。



 翌日、もうすぐ朝のホームルームが始まる。

 教室の扉が開くとクラス担当の先生とその先生に連れられて一人の男の人が入って来た。黒髪で歳は二十代半ばくらいだろうか。

 その男の人を見て、わたしは思わず声が出そうになっていた。どこかで見た気がした瞬間、記憶がよみがえる。

「皆さん、おはようございます。

 最初にご紹介させていただきます。

 この方は、本日から研修をされる○○さんです」

 流れる様にクラス担当の先生が紹介する。

「マイリスだ。あ、です。

 今日から、よろしく頼む……頼みます」

 そう、あの日、わたしを殺しに来た男だ。当然成長しているが、絶対にそうだ。まさか、またわたしを狙って……いや、そうであれば姿を晒す意味が無い。

 でも、これを偶然と思えるほどわたしは呑気ではない。だから、何か別な目的が必ずあるはずだ。もしかして警告かな?

 しばらくは警戒しつつ様子を見るしかないかな、本番はSWが戻ってからだ。

 ……と思ったのに。

「ええと、王女様?

 俺の事覚えて無いよね?」

 いきなり近づいてきてそう聞かれた。

「はい。元王女ではありますが……。

 どこかでお会いした事があるのでしたら、申し訳ございません」

 そう、二歳のしかも寝ていたわたしは、こいつとは面識が無いはずなのだ。それで通す。

「いや、いいんだ。

 それは忘れてくれ、で、俺とけっ……ごほん」

 どもった。

「え?」

 け? まさか……。

「そうじゃない、君に聞きたいことがあるんだ」

 ”け”って、なんだったのかな?

「あ、え?」

 でも、王女で会ったことがある?に何か意味があるのかな。 あの時の事が関係してそうなのはわかるけど。

「君の都合の良いときに時間をとってくれないかな?

 あ、俺超人なんで、学園長から二人きりはダメだと念を押されてるんだ。 だから付き添いを連れてきてもらえると助かる」

「超人であることを明かしてよろしいのですか?」

「ああ、俺は軍とは関係ないからな。

 それに、この学校なら平気だろ?」

「分かりました。

 その際に、わたしをご指名の理由もお話しいただけるのですよね」

「ああ、そうなるよ」

「では、本日の放課後ではいかがですか?

 丁度、二人ほど適任者がおりますので」

 この際、もう早めにさぐりを入れてみますか。

 ちなみに、この国の超人については軍事機密で名前も人数も所在も明かされない。

 確かに学生である私たち以外には会えないだろう。

「ありがとう、お言葉に甘えさせていただくよ。

 あと、いきなりすまなかった。 ここへ来た目的への一歩が見えたもので、ついはやってしまった」

「いえ、こちらこそ、少し動揺してしてしまい、不躾な物言いをしてしまったかもしれません」

「じゃ、お互いさまと言うことで……あまり個人的なことに時間をとるのも申し訳ないから、今はこれで」

 マイリスは、周囲を見回し、我に返った様にその場を引いた。

「はい」

 このやり取りの最中、クラスメイトの様々な視線とささやきを受けて少し恥ずかしかった。

 クラス担当の先生も止めるタイミングを失っていたのか、ちょっとだけ注意を言ってからホームルームが始まった。

 その後も、教室の隅に移動したマイリスの視線は気になってしまった。



 同日、早朝。

 北国最北の港、今は完全に軍港となっているが、わたしの破壊によって現在というかいつも修復中だ。

 完全に復興されていないその港の桟橋の一つに小舟が横付けされた。沖に停泊した軍艦から来たものだ。

 小舟から、兵士が五名降りたあと、小柄だが大きめのローブを着こみ姿のよくわからない者が一人続いて降りた。

 五名の兵士がローブの者を囲むように並んで移動する。百メートルほど先の大きめの建物に向かうのだろう。

 その様子を少し離れた建物の屋上からSWカナデが見ていた。姿は消している。

 ふいにローブ姿が止まった。 なぜか兵士たちは少し距離を取る。

 ローブ姿は裾から両腕を出す。

 右手は横に伸ばしただけだが手首から先が無かった。左手は手の平をSWの方に向ける。手の動きが止まると、左手の平から炎の塊の様な物体がSWに向けて放たれた。

 SWは慌てて避けたが、少しかすっていたらしく、その部分、左腕が無くなっていた。

「どうされました?」

 兵士の一人がローブ姿に聞く。

「あの辺りに何者かが居ました。

 ただ、あの様な魔力の塊、わたくしも初めての邂逅です。

 早速、噂の悪魔なのでしょうか」

「では、ここの者達に捜索を急ぐ様に伝えて参ります」

「いえ、無駄でしょう。

 既に何も見えませんし気配もありませんから」

「了解しました。 それでは、行きましょうか」

 ローブ姿と五人の兵士は、また建物に向かって歩き始めた。




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