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対西国軍

 


 上空から探してみると、暗殺者はあっさりと見つけられた。だけど、予想よりも距離を逃げていた。 今は、城の端の方にある建屋の屋根の上を走っている。常人とは思えないほど身軽で早い。スポーツ選手とかのレベルでもなく、あれ人間よね?

 とりあえず、そいつの眼前に着地する。

「ちょっと待ちなっさい」

 通せんぼのカッコで立ちはだかる。あ、ちょっとしまったと思った。水着同然だったんだ。まぁ十歳ならいいか、いや、きっと良くない。

「あんた、超人かと思ったが、魔導士だったか……よく知らないが。

 それに格好も雰囲気もずいぶん変わったな?」

 暗殺者は、素早く反応して停止すると同時にバックステップで距離を取る。

 魔導士って聞こえたような、この世界、そういうのは居るのかね。

「何のことだか」

 ああ、そうか、年齢に合わせる演技入れないといかんかった。今更だから、今回はもう諦めよう。

「俺を殺すのか?」

 暗殺者は、じりじりと後ずさる。 背中に回した手には短刀か何かの武器があるのだろうが。

「なんでよ?」

 そう思われるのはわからなくないけどね。

「じゃぁ、捕まえにきたのか?」

「どっちもいろいろ面倒だからしないわよ」

 捕まえた後、うまい対応が想像できない、ここで縛って放置しても、わたしの事をいろいろ話されても困る。 関係ない場所でなら、噂レベルで済みそうだけど。

「面倒……どういう意味だ?」

「それより、なんであの子を殺そうとしたのかだけ教えてくれない?」

 あの子ってのはわたしだけどね。

「それを聞いてどうする?」

「今後を考える参考にします。

 その答え次第で、あなたをどうこうってのはしないし、後は逃げてくれていいから」

 というか逃げてね。

「この国に西国に向けて戦力を出して欲しい」

「それって答え?

 もう少し、できれば背景含めて説明してくれる?」

 戦力って戦争みたいな? 世界情勢など、幼児には誰も教えてくれるはずもなく、当然知らないのです。

「もう、俺たちの国には戦力が無いんだ。

 もうすぐ子供も駆り出されるらしい。

 親を無くした戦災孤児から優先に復讐しろってことらしいが……。

 逆だろ、親がその子供のために使った命を無下にするのは納得できない。

 そもそも子供を戦わせるなってことだが……」

 暗殺者の声音が変わった。必死の訴えみたいな。

「それで、なんで王女を殺すのよ? あんなに小さな子を」

「西国のせいに見せかけるつもりだった」

「なるほど」

 単純過ぎて納得せざるを得ない。

「わかったなら、もういいよな?

 あと、悪かったよ。 それに冷静に考えれば、やっぱ俺が間違ってた。止めてくれて助かった。 じゃぁな」

「待って」

「見逃してくれるんじゃないのか?」

「あなたが正しい部分があるわ。

 だから、あたしが力を貸してあげる」

「確かにお前は強い、だが、一人で何ができる?

 そもそもお前いくつなんだ? まだ低学校にも行ってないくらいに見えるんだが」

「あたしって、やっぱ強い?、のかぁ さっきので……。

 って言うか、低学年って? いや、それはそうか……」

 わたしは独り言の様につぶやいていた。

「何を言ってる?」

「もう少し詳しく話してみない?

 あたしね、たぶん、単騎で戦争の優劣を変えられるくらいには強いわよ。

 でも、あたしには、わからないのよ。

 なんで、こういう状況なのか? 誰が悪いのか?

 ここまで言ってなんだけど、実際、あたしより強いのが居るのかもわからないんだけどさ。

 だから、とりあえず戦況を少し変えて上げるから、どうして欲しいか教えて頂戴。

 ええと、あたしが一個中隊、いや、一個大隊の隊長と想定して話してみて」

「へんなやつ……、

 いいか?、今、北国は、東国に責められている。

 そして、西国が北国を目指して進軍を開始したとの情報がある。

 だから、西国を止めないと、さっきの状況になるんだよ」

「あんたが北国の人間っと。

 で、その西国の軍ってのは、どの辺に居るかわかる?

 後はそれだけ教えて。

 なんとかできそうならやってみるよ」

「川沿いに北上してるはずだ。

 ちなみに川はあっちな」

 指さす方向が西なのだろう。

「なるほど。

 ところで、あなた、誰も殺したり傷つけたりしてないでしょうね?」

「ああ、ここまでは潜んで来たし、城にもすんなり潜入できたからな」

「ふむ、では最後のお願い。

 フードとマスクを取って顔を見せてくれないかな」

「これで満足か?」

 暗殺者は指示通りに素顔と黒い短髪を晒した。 その顔は、年相応なのだろうか、十歳そこそこに見えた。 そういえば体躯も小柄なのでは無く年相応か。

「あら、けっこう可愛い顔してるのね」

「そんなのどうでもいいだろ」

「まぁそうね。 じゃぁ、逃げなさい。

 もう来ちゃだめよ。

 次は、許してあげられないからね」

「ふん。

 状況次第だから確約はできないが、次は覚悟して来るよ」

「だから、来るなってば」

「じゃぁな」

 そう答えて、わたしの横を駆け抜けて行った。

 なんとなく、手を振って見送る。我ながら意味わからんよね。



 部屋に戻るとカナデが待っていた。

「けっこう掛かったわね」

 カナデは、部屋の隅々を確認しながら聞く。 最終チェックだろう。

「ちょっとね。

 でだ、えっと、その前に。

 さっきは守ってくれてありがとう。 また死ぬとこだった」

 頭を下げながら、真面目な声でお礼を言う。

「いえ、わたしはそのための存在ですし、あなたが死ねばわたしも存在できませんので」

 カナデは、ちょっと照れてそうな顔を隠すようにテーブルの下を覗き込んだ。

「それでも、ありがとう。 次はあるとも思えないからね」

「では、わたしにも言わせてください。

 あの時、守れなくてすみませんでした」

「人前だと変身にロックかかるから、どうしようも無かったわ。

 それに、あの子を優先してくれたのでしょ。違反なのに。

 それが最善で、絶対よ。

 だから、これからもよろしくお願いね」

「こちらこそ」

「で、じゃ、報告するね」

「ええとね…………」

 わたしは、先ほどの暗殺者との会話について説明した。

「なるほどね。

 でも、妙なことを引き受けちゃっていいの?」

「だって、放っておけないじゃない」

「話が本当かもわからないのに……。

 しかも逃がすって……まぁ、捕まえても面倒になるのはわかるけどね。

 いいわ、じゃ行ってらっしゃい」

「さすが、理解が早い。

 この世界の人の強さもよくわからないけど、そこまで向こうと変わらないでしょうから、とりあえず行ってみて、西国の軍を眺めてみる」

「せっかく変身できたしね」

「あなたは、申し訳ないけど赤ん坊役を頑張ってね」

「初めてなんだけどね」

「では、また行ってきます」

 わたしは、カナデに手を振ってから窓を開けて再び飛び出した。



 わたしは、転生者だ。 つまり一度死んでいる。知ってるのはその一度。

 保母として働き出して半年くらい経ったある日。

 目の前で園児が園の前の道路に飛び出した。普段はほとんど車など通らないのに、運悪くそのタイミングで車が、しかも制限速度を超過して走ってきた。

 わたしは咄嗟に園児に飛びついた。 そこまでだった。

 わたしは、保母とは別に魔法少女の役目もあった。

 魔法少女とは、いや、本来は魔法少女ではなく、神に任命された神の使いなのですが。

 昔は神使と呼ばれていたが、西暦二千年に近づいたあたりから魔法少女の方が一般では通じるだろうとしてそう呼称される様になったらしい。

 魔法というのも神与力なのだが、イメージ的に魔法と言われている。

 魔法少女には、ソウルダブルと呼ばれる分身が与えられる。

 ふだんは魂のポケットに居るらしいが、人格を持っており勝手に行動できる。 本来は、魔法少女の不在時に代役をしてもらう存在なのだ。

 ソウルダブルは魔法少女を守るのも役目の一つだが、その事故の際には園児の方を守った。

 ちなみに、魔法少女に変身していれば、車に当たったくらいでダメージは無い、だが、人前では変身にロックがかかるのだ。これは、自分ではどうしようも無かった。



 二十分ほど飛行すると大きな川が見えてきた。

「川ってこれよね」

 二百メートルくらいかな~。大河だ。

 昼に見たら、めちゃいい景色だろうね。

 今は空の星が綺麗で、月明かりのおかげも十分あるのよ。

「お? あれかな」

 川を過ぎるとすぐに一目で分かるほどの隊列が見えた。 こんな時間にも進んでるのは、それほどに急いでいるのだろうか。

「あれかぁ、すごい数居そう……進軍って言うくらいだし」

 感想をつぶやくのは、会話の練習も兼ねている。だいぶ慣れて来たけど。

「高度を上げよう」

 上を見上げるものが居るかもわからないし、夜目がどの程度かもわからない。慎重に行こう。

「人型みたいだけど大きいのが居る、人間じゃな……ふむ、わたし達とは別な種族かな」

 わたしの眼前には拡大された画像が映っている。この世界での人間の定義は把握していない。

「さて、どうやって止めようか?」

 できれば戦闘は避けたいかな。

 まず、先頭の前に降りて反応を見る。

 この姿、せっかくだから利用しよう。

 どう見ても、意味わからないだろうから、まともな者なら会話、そうでないなら攻撃の方向でしょう。

 軍勢の前に立ちはだかるたった一人の女どころか幼女が下着姿で、両手足にごっつい鎧付けてるなんて、確かに意味不明だと思う。

「で、前者なら会話、後者なら攻撃をしのいで見せれば、こっちも会話にできるかなっと。

 どのみち出たとこ勝負だし」

 速度を上げてから急降下に移る。



 わたしは、隊列の先頭から百メートルくらい前方に着地した。たぶん、気付いた者が居ても、突然現れた様に見えるでしょう。

 そのまま向かい合う形で立ちはだかる。

 先頭の一人が、わたしに気付いたのだろうか、片手を挙げた。それは、わたしにでは無く、進軍停止の合図だろう。

 隊列は五十メートルくらい進んでから停止した。

 隊列を離れて武装した十人が向かってきた。わたしの十メートルほど手前で止まる。

 中央の一人が腰の剣を抜いてからゆっくりと近づいてくる。女性の騎士の様だ。

「お嬢ちゃん、何者でしょうか?

 この状況で、あなたを普通の少女とは認定できません。

 答えないのなら問答無用で排除します」

 女性騎士は、子供に接する様な優しい声音で殺しを宣言する。

「まだ、どこの国に付くかは決めてない。

 とりあえず、ある人との取り引きでこうなってるけどね」

「どういう意味です?」

 剣先が上がる。

「あなた達と戦うって事だったら、どうされますか?

 それでも、できれば先に指揮官とお話がしたいのですけど」

 言い方これじゃだめじゃん。 わたしって……。

「何者かも分からぬものを合わせられるとお思いか?」

「そうですよね。

 では、実力行使で行きますよ」

 わたしの右手には、緑の淡い光をまとった複雑なデザインの剣が現れた。

「武器が現れた?

 やはり魔導士なのか……お前達は手を出すな、わたしが相手をする。

 何かおかしな行動に出るようなら、各自の判断で対処しろ。

 では、参る」

 指示された九人は、少し離れて半円状に並ぶ。

 今も魔導士って聞こえた。ちょっと曖昧なのは、わたしはそうじゃないからなのかな、でも、今はそれよりも……。

「あ、待って。

 何か武器、剣とか貸してくれない?」

「ん?」

 女性騎士が疑問符を浮かべたのが分かる。 そりゃそうだ。 隊列見たときに先に考えとくべきだったかぁ。

「ええと、言い難いけど、これを使うとたぶん戦いにならない」

 そう伝えてから、地面に一閃する。

 剣の刃は抵抗も無く地面を通った。

「な?」

「ね、あなたの剣は役に立たないでしょ」

「何がしたいのかわからないが、いいだろう、ハレール、剣を貸してやれ」

 指示された一人が自分の剣をわたしに渡してくれた。 わたしが出していた剣は既に手から消えている。

「ありがとう、大事に使わせていただく。

 じゃ、やろうか」

 剣を持って、開始の合図をする。

 そして決着はすぐに付いた。

 きっとこの人はそれなりに強いのだろう。

 ただ、戦闘力において神様の与えた力は十歳そこそこの体でも当然人間を凌駕するのだ。

 女性騎士が負けた瞬間、その制止も聞かずに他の九人が動いた。

 それすらも、あっさりと退ける。

「いったい何者なのだ?」

 女性騎士が、そうわたしに問いかけた時。

 ごぉっという風切り音とともに女性騎士の横を通って何かがわたしに飛来した。

「シールドっ」

 直前、わたしは咄嗟に左手の平を突き出しながらその言葉を口にした。

 飛来物は、伸ばしたその左手のひらで受け止めていた。いや、手の平にも届いていない。フローティングシールドで受けたのだ。 そして浮力を失ったのか、それは地に落ちた。長さは三メートルほどだが、騎兵の持つような太さのある槍だった。

 わたしは、飛来した方向に視線を向ける。

 騎馬が走ってくるのが分かった。

「隊長……」

 女性騎士もそちらを向いて呟いた。

 数秒後、騎馬は女性騎士の横に到着し馬を降りた。二メートルを越える巨躯だ。わたしの倍以上ありそう。体重だと十倍とかかも。

「不意打ち、お詫びする」

 隊長と呼ばれた男は、まずは詫びをしてくれた。

「あなたが隊長さんでいいのかな?」

 かなり見上げる様にして問う。

 実力者なのも間違いないけど、雰囲気的にもそんな感じ。

「そうだ。

 非礼の上塗りで済まないが、俺とも立ち会ってもらえるか?」

「その前に聞いてもいいかな?

 北の国へは戦争に行くのかな?」

「そうだと言ったら?」

「では、あたしを倒して通りなさい」

「そういうことか。では、俺も問う。

 そのはしたない恰好は、戦意の低下狙いか、視線誘導のためか?

 せっかくの美貌で、そこまでさらすのは惜しい。

 それとも、その見えない防具のためか」

「なるほど、いろいろ見えてるのね。でも、本人もこれ恥ずかしいんだけど、今はこれしかないのよ。

 わたしも、もう一つ聞いていい?」

 装甲見えてる? いや、地面に近いと塵やほこりの付着はあるからよく見れば違和感になるか。

 それにしても、ああ恥ずかし。 仕返しになんか聞いてやろう。 でも、なんかこの人、悪い雰囲気を感じないかも。

「どうぞ」

「そこの女性騎士さんは、恋人?」

「なっ」

 女性騎士が、驚きの声をあげた。

「ははは、何を聞く。

 そうだな、お前が勝ったら教えてやろう」

「なんでそういう答えかわからないけど、絶対だからね」

「お前らは下がっていろ。

 そして、俺が負けたら、急いで撤退しろ」

「隊長それは……我々も戦います」

 周囲に集まってきていた兵士たちが口々に戦意を表していた。士気の高いよい軍なのかな。

「言う通りにしろ」

 隊長さんは絶対の威厳を持って指示を繰り返した。

「あ、ええと、口を挟んで申し訳ないけど、あたし台詞間違ったみたい。

 なんか、ノリで返してしまったので訂正しておきます。

 あたしを倒して通りなさい、ではなく、あたしが勝ったら引き返してもらいます。

 それと、こちらから他の方には手は出しません。

 言わなくても帰ってくれるならそれでもよかったけど、とりあえず、そういうことで。

 じゃ、始めましょうか」

「お前の狙いがよくわからないが、いいだろう。

 その自信、見せてもらう」

 他の兵士から同じ剣を借りながらだ。だが、体との対比で小さく見える。

「意地っ張りさんは嫌いでは無いけど、全力で来なさいよ」

 本職の武器が槍とはかぎらないけど、借りてるしなぁ。

 他の者たちが下がる。

「そうさせてもらおう」

 全力に答えたのか、猛然と迫り、そして最初の剣は突きだった。 槍の飛来時と同様のごぉっという風を巻き込むような音と共に。

 その剣先はわたしの体の中心から手前三十センチくらいの場所で止まっていた。

「わかってるみたいだから、あえて避けなかったけど……。

 どう? 諦めない?」

「どういうからくりかわからんが、こちらも手を尽くしていないのでな」

 そう答えるとすぐに剣を変幻自在に斬り付け始めた。

「早いっ」

 なんて速さなのよ、そして重い。あの槍の投てきから考えたら、そりゃそうよね、実際、当てられる度に押されている。 斬り返してもすべて受け流されるし。

 速さは体のわりに小さな剣が奏功してるのかもだけど、力はほとんど差が無いかも、ファイナルフォームで物理戦はこれが限界か。

「口ほどにも無いな。

 受けるだけでは、勝ちはないのではないか?」

「おっしゃる通りだわ。

 でも、あなたの実力を見誤っただけなので、わたしが弱いわけでは無いのです」

 何なのよこの強さ、武術を舐めてた。

 そういえば、これまで対人ってしたことないかも。

 物理戦は大型の獣とかくらいだけど、本能で戦う相手とは訳が違うわ、連続した確実な意味を持って攻撃してくる。

「屁理屈だな。

 だが、どうやらここまでの様だ」

「え?」

「ここまでで一撃も有効打が無かった。

 さすがに素手ではどうしようも無い」

 手にした剣を見せると、片手を上げながら後ずさる。

 確かに、刃はボロボロで今にも砕けそうだった。そして上げた手は、降参の合図?

「なるほどっ……わっ」

 わたしの太ももの横あたりに矢が命中し、着弾の瞬間何かが砕け散り、同時に煙幕が広がった。とはいえ、体からは少し手前の位置でだ。砕け散ったのは矢じりで、受けたのはフローティングシールド。フローティングシールドは、念のため前面以外に展開していた。透明なのが逆に有効すぎる。

「だめか……」

 さらに、隊長の剣が頭上で止まっている。煙幕の消える前に振り下ろされていたのだ。しかしその刃も砕け散っていた。

 その結果を受けて漏れた感想だ。

「痛たた。

 ええと、あそこの辺りかな」

 特に痛みどころかダメージも無いが、なんとなく声に出た。

 そして、恐らくの飛来方向に顔を向けた。 二百メートル以上離れた場所に崖が見える。 そこを指さす。

「すまんな、俺個人の感情などは二の次だ」

 次々と少し卑怯とも思える手で来るのは、実力差をなんとかしようとしているのだ。それほどに負けられないのか。

「なるほどね。

 では丁度いいのでっと、ゴッドキャノン、モードツー、セット」

 わたしの右肩の上に大型の武器が現れた。砲身は二メートルを越えるだろう。

「なんだそれは」

 驚きを含んだ問いだ。 でもね、わたしも説明できるほど理解してないのよ、すごい武器ってことくらいで。

「すごい武器です。

 あの、あそこに人が居るのなら、逃げる様に合図を送れます?」

「なんだと? いかん」

 隊長は、慌てる様に左手を上げて、手の平を曲げて伸ばす。そして直ぐにわたしに向けて突進する。

「シールドっ」

 隊長には、フローティングシールドをぶつけた。

「がっ」

 隊長がそれに押されて吹き飛ばされる。

「よし、シュート」

 拡大画像で黒い陰が移動するのが見えたのを確認した。

 いちおう数秒待ってから撃つ。 次の瞬間光の線がつないだ崖の一部は消滅していた。

「……化け物、か」

 隊長は驚愕の表情を浮かべていた。

 後方の兵士たちからも、化け物、悪魔、魔導士、人間じゃない等の言葉が聞こえていた。”あんなに可愛いのに”も聞こえた気がする。

「さて、まだやります?」

「なぜ、最初に今の武器で攻撃しなかった?

 こんな部隊など、一瞬で塵とできただろう」

「わたしの主義じゃないのが答えだけど、そうしなくてよかった。

 あなたと話せたからね。

 でも、もう時間が無いので、引いてくれないなら、それなりのダメージを与えることになります。

 ゴッドキャノン、モードスリー、セット」

 左肩の上にも同じ武器が出現した。

 時間については、朝日の昇る気配がしてきたためだ。 できれば、城に戻っていたい。向こうも状況が動いているはずだ。

「あれを見せられたら、引くしかないさ」

「ありがとう。

 では、すぐに帰ってください」

「よし全軍後退する」

 後方に向けて大声で指示を出してくれた。

「よろしいのですか?」

 近づいてきた女性騎士が確認する。

「ああ、引くぞ。

 おっと、忘れるところだった。

 これは俺の妹だ」

 隊長は、戻ろうとした動きを止めてさっきの問いに答えてくれた。

「そういえば……似て無いのね」

 聞いてたのすっかり忘れてましたよ。

「ふん、次にあった時は手を抜くなよ。

 お前が戦争をする気が無いのは分かるが、俺たちは戦争をしているんだ」

「負け惜しみね」

 返せる言葉が無い、今のわたしにできるのは、こういうやり方くらいしか思いつかなかった。プライドとかではなくて、責任感を踏みにじった気がする。

「そうだ。

 また、合おう」

 部下が連れて来た馬にまたがると、そのまま部隊の先頭に向かって駆けて行った。

 わたしは、彼らが去っていくのをしばらく見送った。

「さて、途中まで様子を見ながら帰るとしよっと。

 それにしても神衣がここまでダメージを受けてるとは思わなかった。

 見えて無いからわからないけど、触るとけっこう大きな傷もあるのがわかる。

 あの普通っぽい剣じゃなくて槍の方だったらと想像するとちょっと怖い。

 再変身で元にもどるけど、今だと正体ばれるかもだしなぁ」

 王女とはわからなくとも二歳児は、いろいろと問題かもしれない。

 透明部分の傷に触れながら、変な想像をしていた。

 その後、しばらくの間、上空から隊列の動きを観察してから城に向かった。




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