代償、そして本当の敵?
約束の日の朝。
私たち四人は、壁のある部屋に入るための待機部屋に案内された。
案内は、皇帝さんがしてくれてそのまま一緒にいます。一人だけです。
街の人々は、城から離れた他の街へ避難しています。 軍の方々は超人を含めてその誘導などにあたっています。
ただ、魔導士達だけは、別な施設に集められており、そこには、バーストルさんとグナイゼルさん、それぞれの補佐官の女性の四人が待機しています。
実際、どの様な現象が起こるか分からないし、特に消えている右腕はいきなり無くなった状態になるかもしれない、だから本当は医療班を置きたいことでしょう。
「皇帝さんも、避難してください」
わたしは何度目かのお願いをする。一般人は居ない方が絶対いいはず。
「いや、ここに居させていただく。
魔導士の状況をわしで確認して欲しい、そして、わしがどうなろうと無視してくれて構わない」
強い意志を持った言葉を覚悟を決めた顔で言われると余計に断りたくなるけど、確かに提案もごもっともだ。
「そこまで……なるほど、では、違和感があればすぐに教えてくださいね」
「もちろんだ」
「腕を出せ」
沖田さんが、そう声をかけて皇帝さんの右腕を紐で縛りました。
「助かるよ」
「気休めかもしれんが、念のためだ。
さて、一撃目だが、俺が壁を壊すと同時に撃ってくれ」
早速、沖田さんが指示をしてくれる。
「わたしも合わせますよ。 無いよりまし程度ですけど。
ゴッドキャノン、モードスリー、セット」
テネさんも遠隔攻撃装備があるのだ。
「いえ、気持ちが倍になりますよ」
「そうね、全開で込めるわ」
「では、ミラ、強化を頼む」
「おまかせを」
ミラ様は、妙に大人しいうえに余所行きしゃべりだ。
そして、強化を全員に撒いてくれた。
「じゃぁ、ゴッドキャノン、モードシックス、セット。
テネさん、スリー、ツー、ワン、シュートでいきます」
カウントは英語だ。
「ゴッドブレード、モードファイブ、セット。
では、行くぞ。
ゴッド、ブレイクッ」
沖田さんが躊躇なく先行する。
攻撃で壁が溶けながら砕け散る。
その様子は確認せず、沖田さんが下がったタイミングに合わせる。
「でわっ。
スリー、ツー、ワン、シュートぉっ!!」
少し早口でカウントして、撃つ。行け~っ。
「ファィァ~」
テネさん、タイミングばっちりで合わせてくれた。その声は、私の声で聞こえなかったかもしれないけど、ごめんなさい。
放たれた魔力のビームは、周囲の大気を道ずれにしつつ徐々に広がった形を取る。
砲撃の結果、壁の瓦礫も消し去り進んだ先には、大きな卵があった。その殻を割った中には、魔導士の使う術で見た魔力の様なもの、それがどろどろと蠢いているのが見えた。
受けたエネルギーはそのどろどろで相殺されて消えたのだろうが、当然その分そいつの部分も消えている。嚙みちぎった様にへこんだ形でわかる。
つまり一撃ではやはり消せなかったのも確かだった。
「次、行きますよ~。
スリー、ツー、ワン、シュートぉっ!!」
障害物も無くなり、はっきりと見える敵へ向けて撃つ。声がさらに大きくなる。
テネさんの、ファィァ~の声も重なる。
殻の割れている部分に魔力ビームの束がぶつかる。 周囲の殻を壊しつつ中身を削る。
確実に削っているが、まだ核に届かない。 いや、容量を減らしてるイメージだ。削れた部分を残ってる部分がすぐにカバーするのだ。
「だから、続けますよ~うっ。
愛の力で撃つ。
……スリー、ツー、ワン、シュートっ」
何がだからかわからんけど、次を撃つ。勝って戦争を終わらせる。あの人と約束したからとか思っちゃったけど、終わらせる事が重要なのよっ。
でも、一瞬、目がくらみそうになったかも。
テネさんも、撃った後に座り込んだ様だ。
だが、まだ存在していた。それでも、もう少しだ。かなり小さくなっている。殻ももう無い。
「だめか~、じゃぁ、もういっ……ぱつ……」
ふらつき、気付くと、わたしは膝をついていた。 沖田さんが咄嗟に支えてくれていなければ倒れていたかもしれない。
その時、皇帝さんに異常が起こった。
「ぐっ……お前たち……早く、逃げろ……」
声を殺しているのは痛みに絶えているからなのが分かる。 右手首を左手で強く掴んでいるし。
おそらく、弱った化け物が魔導士を吸収しようとしているのだ。予想はしていた、だから急がないと。
「逃げません」
わたしは立ち上がる。ここからは正義の意思の力、魔法少女の真骨頂、といいたいけど地球に居たときには要求されたことないけど。
「もういいのだ……頼む……逃げて、くれ」
皇帝さんは、苦しそうだ。
「逃げません。
あぁ、でも魔力が……足りない?」
撃てるだけの出力が上がらないのだ。 魔力って、意思の力ではなんともならないのね。悔しい。
と思った時、
「あなただけで戦わないで」
テネさんが、抱きついてきた。いつもより強く。
「君だけで戦うな」
沖田さんが、ゴッドキャノンを支えてくれた。
「お前だけで背負うでない」
ミラ様が、肩に手を添えてくれた。
すると、ゴッドキャノンの出力が三人の魔力を吸うように上がる。これ仕様?
「撃てる!!
撃ちます。
カウント無しで、シュートっ」
たぶん最後の攻撃だ。 お願い、これで消えて無くなって~。
攻撃後、塵が薄れてくると、核を失い消滅していく化け物が見えた。そして、消えた。
「おお~」
最初に歓声を上げたのは皇帝さんだ。
「やったか」
沖田さんは満足そうに呟く、あれ変身解けてますよ。 そしてそのセリフ……なんてのは言わないどこ。
それでも、視線は化け物が居た場所に向け、警戒をしながらそこへ向かう。確認するのね。
「勝ったね」
テネさんは、言いながらへたり込んだ。
「勝ちまし……た、あれ……」
わたしもへたり込む。 すぐに変身を解除する。
「君たち、ありがとう……ぐっ」
皇帝さんは無事だ、いや右手首から先はやはり無く、縛ってはいても血があふれ出ている姿が痛々しい。突然湧いた痛みはどれほどだろうか。
「大丈夫ですか、急いで戻りましょう」
テネさんが立ち上がり肩を貸して歩き始めようとしたとき。
わたしは倒れているミラ様に気付いた。 変身も解けている。
慌てて駆け寄る。
「ミラさま?、ミラさま?、ミラさまっ?」
体をゆすってみる。反応が無い。
呼吸を確認する。してない?
胸に耳を当てて心音を確認する。聞こえ無い。
「沖田さん、来てください」
沖田さんを呼びながら心臓マッサージを開始する。
超人のわたしには一人でも造作もない行為だ。力加減は慎重にしないとだけど。
「キャサリンっ」
沖田さんが走って戻って来た。
きゃさりん?
「おい」
と、誰かの声がした。テネさんじゃない、でも小さい女の子?
「電気ショックを試します。
チェンジ、ファイブ」
そんな事はどうでもいい。AED的なのを試そう。
だから、サンダーフォームに変身した。いつもみたいな恥ずかしいとかいう気は全くなかった。
「おい、こら、やめい、やめてくれ」
少女の声が必死そうに……ん?
声の方向、上を見た。
なんか居る。なんかって言うか、四分の一スケールの人間? じゃなくて、小さい天使? 光ってるし、羽もあるし、頭の上にリングがある。
顔は見覚えが……ミラさま? アリスフォーム時の顔をさらに幼くした感じだ。
ああ、人って死ぬとこんな感じで魂が抜けるのかな? 始めてみた。自分の時はならなかったし。
「ミラさまなら、戻ってくださいよ」
とりあえず心臓マッサージを続けながらお願いする様に話しかけてみた。
「もう、戻れんよ。
その体は死んだのじゃ」
「え?」
「だから、無駄に傷つけんでくれんかの」
「無駄にって……そんな言い方、っていうか、ほんとにミラさまだ」
「ああ、ミラじゃ。
テネ、先に行け、そいつが死ぬぞ」
話し方、もう気にしてないのね。
「あ、はい、み、ミラ様」
テネさんは、おろおろと迷いつつも皇帝を連れてその場を離れた。医療室には誰もいないが道具はあるので応急処置は可能だろう。
「嘘を言っても混乱するだろうから正直に言うが、寿命が近かった体に無理をさせた。
あれは今回で確実に倒しておくべきだったからの、わしの命一つでは安いもんじゃ」
天使は早口で説明する。 なんか元気そう。
「そんな……」
それでも死んだって言われたら……。
「そして、神に会ったと言ったじゃろ。
その時に、このフォームを仕込まれておったようじゃ」
「フォーム?」
「ああ。 マニュアルに、ゴッドフォームと書いてある」
「どれどれ……ほんとだ。 でも、ゴッドって?」
落ちる様に寄ってきてくれたので、顔を寄せて覗き込む。
「まだ、先を読んでおらんから分からん」
そして、ページをめくってくれた。
(これを見ていると言うことは、とても悲しいことが起こったかもしれないね。
そんな折に勝手ですまないが、僕の願いを聞いて欲しい。
要らないかも知れないけれど、ゴッドフォームを仕込ませていただいた。
君には、これから神として成長して欲しい。期待しているよ。
親愛なるキャサリンへ)
「なんじゃこりゃ~」
思わず声が出た。
「どういうことだ」
いつの間にか同じく覗き見ていた沖田さんも疑問符を浮かべる。
「わしも知らん。
とりあえず、体を運んでくれるかの?」
「そうしよう。 戻るぞ」
沖田さんが、ミラ様の体をお姫様抱っこで運び始めた。
「は……い」
悲しんでいいのかよくわからなくなったまま、とりあえず城に戻ります。
「セビル、飛べるか? 可能なら先に連絡役を頼む」
「了解です」
結果を知らせないと人々が戻れない。
魔導士さん達も心配だ。
あと医療班は何人か抱えて戻って来よう。
「こら」
十歩ほど進んだところで背後から声がした。 天使ミラ様の声だと認識して振り返る。 同じ位置に居た。
「行きますよ?」
「動けん」
羽をゆっくりとはばたかせているみたいだけど、ほとんど動かない。
「掴まれ」
沖田さんが戻って袖を寄せる。
「すまんの」
天使ミラ様はその袖に掴まる。
「変な言い方だが、遠慮するな。
そして、セビルはいいから行け、急げ」
「あ、はい」
なんかこう、戦いの事もだけど、ミラ様の死も、考える余裕も無いや。
まぁ、とにかく今はやることを優先だ。
数時間後。
沖田さん、テネさん、バーストルさん、グナイゼルさん、天使ミラ様は皇帝の病室に集合していた。天使ミラ様はどうやら魔法少年少女以外には見えて無いらしい。
「ミラ殿は?」
皇帝が見回しながら聞く、かなり気にしているようだ。
「死んだ。
だが、寿命らしいから気にするなと伝言を受けている」
沖田さん、間違って無いけど、なんて言うか。 まぁ秘密ですよね、はい。
「そうか……。
わしの方が、こうしてのうのうと生き残ってしまった。
どう、感謝していいのかもわからない……」
「あなたには、やることがたくさんあると思います。
そのためにも生きてていただかないと困りますから。
それに私たちに感謝はいらないです。
償いとかも考えてるかも知れないですけど、後回しでお願いしますね。
そして、何よりもお体早く治してください」
「ありがとう。
早速だが、バーストル、グナイゼル。 急いで事態の収集に動いてくれ」
「御意」
二人は返事も短くすぐに部屋を出ていこうとしたとき。
「外だっ」
沖田さんが、珍しく叫んだ。
つられるように全員が窓の方を向く。
外壁が崩壊した。
ガラスや壁材が室内に飛び散る。
全員が固まった。
「……」
皇帝の顔は恐怖におびえる表情に変わる。声も出せ無いほどに。
ただ、それは他の者も同じ様だった。知ってる者も知らない者も関係なく恐怖する存在。
見たのだ、外に居る者を。
「人間は、ここだけか?」
そいつが人語で言った。
皇帝さんが話していた”やつ”なのだろう。
人間の五倍ほどの大きさ、人型、猛獣の様な体と顔、翼、言ってた通りだ。 そして、とんでもない殺傷力を持っているという。
「ゴッドブレイク」
沖田さんが、”やつ”の背後から斬りかかっていた。
壁が壊れた際の喧騒にまみれて外に出ていたのだ。この人は、問答無用という覚悟を最初から持っていた。
「ア?」
”やつ”は振り向きながら長い腕を伸ばす。腕は、ヒットアンドウェイで離れようとしていた沖田さんに追いつき掴もうとするが、それを武器を刀に変えて弾く。
「通る」
沖田さんの言葉は攻撃の成果のことだ。
だけど、振り向いた”やつ”の背中に付いた傷は消えるところだった。
こいつも、火力押しが必要なのね。 そして反撃が速い。
今、予想していた敵が現れた。 あらたな戦いが始まる。 いや、ここからが本番の戦いと言えるのだろう。
ただし、全員が消耗した状態、かなり絶望な状況だ。
でも、
「チェンジ、ゼロ」
猫フォームに変身した。
こいつは叩き潰す。
即、テネさんが「何それ可愛い」と呟いていた。
「きみらが消したのかい?」
あの化け物の事だろうけど、消えたって分かるんだ。
「ええ、そして、あなたも消します」
勝算ははっきり言ってよくわからないけど言いきっちゃった。
「やはりそういうやつらか」
魔法少女を知ってるってこと?
「逃げなさい。今回こそ、頼む」
ベッドの上の皇帝さんは自分は逃げる気が無さそうなのにそう言う。
「今言うことでも無いけど、
わたし、好きな人ができたんです。つい最近。
早く平和にして会いに行きたいです。
だから、こいつとは戦う理由があります」
実際理解してない気持ちだけど、たぶん、そういうものよね。
「ほう、我と戦いたいとはっきり言われたのは初めてだよ」
普通に答えた? 絶対の余裕があるのだろうけど、まさか会話に乗ってくるとは思わなかった。やっぱり会話できる?もう問答無用の後だけどさ。
さて、背後の沖田さんが動かない、隙ってのが無いんだろうなぁ。ここからは最初の一撃とは違うよね。
「あなた、誰の指示で動いてるの?」
「はっはっは、言っても理解できんよ」
笑うの? 感情もあるのかよ。
「神様とか星の意思とかかな?」
「……戯言にこれ以上は付き合わん」
ちょっと間があった。 やはり、ミラ様の予想通りか。
そして、翼が大きく広がる。
それ攻撃態勢なの?
「ゴッドブレイク」
沖田さんは既に翼に斬りかかっていた。
だから、今だ。
「くらえ~」
ただのパンチって、なんて言って打つのかわからず、月並み?な台詞が出ていた。
さすがに猫パンチ~とは言えないしね。
”やつ”が翼への攻撃に対応すると思ってたのに、そっちは完全に無視してわたしの拳を受け止めていた。
「こんな僻地の島でクラルが消されたから、興味が湧いて見に来た。
気が向いたらまたクラルを置きにくるだろうが、しばらくはガレンダ大陸のどこかに居るつもりだ。
戦いたければくるがいい」
そう静かに言うと、わたしを別な建物へと投げてから、空に舞った。
急いで瓦礫の下から抜け出した時、もう姿は見えなかった。
「逃がした~」
と、わたしが強がりを言うのと同時に。
「あ、待て~。 追いついたと思ったのに~」
若い男の声がした。沖田さんじゃ無いよね。
視線を少し横に向ける。
そこに浮いてるのは、魔法少年?!




