パワーアップイベント?
やっと自分の部屋に着いた。
長い一日だった。
「おかえりなさい」
カナデは部屋でくつろいでいた。 いや、留守番だから他にどうしようも無いけどね。
さて、まずはそんなカナデに話を聞かないと。
「カナデ、早速だけど報告をお願いできるかな」
「もちろん」
そう答えるとすぐに皇帝との会話について説明してくれた。
「皇帝が魔導士というのは、はったりの可能性はあるの?」
「ええ、どうだろう、自信ありそうだったよ、百パーセント違うとも言い切れないから、逃げて来ちゃった」
「もちろん、それでいいわよ。 あなたが無理する理由なんて無いから。
でも、勝てるって言ったら、居場所を教えてくれるのかな?」
「どうだろう。 山を消して見せたのにそう言ってたからね。
やっぱり、もっとすごいことできるって証明しないとなのかなぁ?」
「単純に最大火力を見てもらうくらいしか思いつかないけど、どうやればいいかが思いつかない」
「う~ん、やっぱりあの人たちにもわからないんじゃないかな?」
「ああ、そうかも……じゃ、どうすんのよ~」
「協力してもらえる条件を変えてもらえないかな?」
「そっちか。
なら、諦めずに話をしに行くしかないわね。まずはこっちの意図と戦力をちゃんと伝えて見よう」
「そうね。 話くらいは聞いてくれそうだし」
「そういえば、居場所はマイリス先生が探してくれるって言ってたんだよね? でも、危険だしなぁ」
「そうなのよね。 ただ、個人的には、あの人にはもう堅気でやってて欲しいなぁ」
「同感っ。
上から目線に聞こえるかもだけど、なんて言うか超人って普通の人とそんなに違わないって言うか。
わたしも能力があるからって、勝手に使命感持ってるだけなんだけどね」
マイリス先生は、なんて言うか戦いに向いて無いって気がする。 私たちも心的には向いてるわけでも無いけどさ。
数日後、
今、東自治区のシクセトという街に来ています。
ここは、北国と国境を挟んでいる土地なのですが、帝国側から攻めてくることは無いので警戒区域といった感じです。もちろん軍の最重要拠点の一つでもあります。
ミラ様に夏季休暇をやってろと言われたからでは無いけど、元婚約者のグレッドさんに会いに来ました。
お父様から、自分は直接話を聞いたから、お前もいちおう挨拶ぐらいしておけと言われたのです。
グレッドさんには、二歳の時にほんのちょっとあっただけで顔もよく覚えて無いし、婚約の話も破棄されるまでほとんど気にしていなかったのです。
その辺を思うと、実は失礼で申し訳なかったかもしれないという罪悪感を感じて来たのもあって、お父様の話に乗っかったという訳です。
なれば、夏季休暇のこのタイミングがベストと、お父様は面会のセッティングまでさっさと終わらせてしまった。
留守番が必要の無い公式な旅行なので、カナデに同行してもらってもよかったのですが、これもミラ様に言われたように帝国を探りに行ってもらってます。
乗合馬車から降りるとそろそろランチタイムという時間でした。
まずは飲食できそうなお店を探しに、乗合馬車の窓から途中見えていた大通りの方に出てきました。
ちなみに、軍の人も多いからなのか街はとても賑やかです。
それっぽいお店を見つけた時、そこから出て来た三歳くらいの子供が出て来た勢いのまま道に飛び出しました。
大通りですので、馬車がそれなりに走っています。 馬車が制動を掛けました。 それでもタイミング的に子供はその馬車に轢かれる。
「チェンジ、ツー」
わたしは子供に向かいますが、間に合わないと判断、小声で素早く変身ワードをつぶやきウィンドフォームへと変身し加速、速度をゼロにして子供を抱いた。 その瞬間、なぜかわたしごと抱えられてました。 そして、そのまま道の端に転がる。それでも、その前に風でもう一人を含めて覆ったので全員ダメージもほとんど無いはず。
そのもう一人は、逞しい中年男性で、かっこいい顔よりも眼帯といくつかの傷の方が印象に残りました。それよりもなんでしょう、この感じ、安心感というのでしょうか……。
ん? そんな事よりもと、すぐに男性から離れると子供の状況を確認します。
「どうだ?」
男性はそれ以外は気にしていないかの様に真剣に聞いてきました。
「気を失ってるみたいですね。馬車に驚いたのかな。
でも、傷とかは無い様ですが、脳震盪を起こしてるかもしれないので病院へは行った方がいいかもです」
わたしはほっと一息つきながら答えた。
「そうか、それはよかった。
ところで、素敵で不思議な格好のお嬢さん、君は噂の悪魔なのかな?」
安堵したその緩んだ顔に見とれていたら、何か聞かれた?
「え?」
きっと少し間の抜けた表情をしていたかもしれない。
「君は悪魔なのか?と聞いたんだが、違っていたら申し訳ない」
「あ、ええと、そうかも?
いや、あの、この子をお願いします。 ではさよなら~」
膝枕していた子供を男性に託し、逃げる様に空へと舞いあがった。 その時のわたしは、きっと舞い上がった顔をしていたことでしょう。
それでも、子供の危険に直面した時、変身できるとはいえ一瞬よぎったあのシーンにも躊躇せず飛び出せた事はとても自己満足できました。
でもやっぱり、それよりも、あの人にまた逢えるかな~とか考えてます。 まぁ無いわよね、明日にはこの街を離れて、普通に来ることはもう二度と無いでしょうから。
さて、今回の目的、グレッドさんに会いにとある軍の施設に来ました。
お父様にセッティングしていただいた時間と場所です。
受付で要件を話すとあっさり応接室に通されました。
「お待たせしてすまない」
入室してきたグレッドさんは申し訳なさそうに言う。
わたしは、その顔に驚いた。眼帯と傷、昼の人だ。 心臓がなぜか鼓動を早くする。 え、なんで?
「…………こ、こちらこそお忙しいところお時間をいただき申し訳ございません」
少し固まってた?
「久しぶりだね。 あの時の面影があるがとても美しくなった」
「ごめんなさい、わたしはほとんど覚えて無くて」
「小さかったからね」
答える笑顔にまた見とれそう。
「はい……」
とりあえずの返事を返せた。
「さて、婚約の件、勝手に決めてしまって申し訳なかった。
君が超人になったからとか、何か落ち度があるとかでは無いんだ。
まぁ、正直に言うと、俺はいつまで生きていられるか自信が無くなってね。
弱音では無くて覚悟を決めたくて、そうさせてもらったんだ」
忙しいのだろう、本題に入るのが早い。 そしてその傷の多さはどれほどの危機にあったのか。 この人だけでは無いのだろうが、とても心が痛い。
「大丈夫です。 わたくしへのお心遣いと受け取っております。 本当にありがとうございます」
ぬくぬくと暮らせている立場のわたしには、何も答えらえない。
「でも、こんなに綺麗になってるならおしいことをしたかな」
「そんな……」
ああ、なんか言葉がぜんぜん出てこない。でも、顔、舞あがってそう。恥ずかしい。
「ただ、こういう話をするのも変なのだが、俺は、今日初めて恋をしてしまった」
「はい?」
変な聞き方だぁ。だって、何を言った?
「たぶんあれは噂の悪魔だ。 初めて見た」
「はい」
ええ?
「君が来て、その日に悪魔に初めて会った。 これは偶然か?
しかも彼女の顔は君にとてもよく似ていたんだ。
彼女の事を知らないか?
俺個人としてもそうだが、軍としても情報が欲しい」
「いえ、心当たりはありません。
以前にも同じような事を聞かれた事がありますが、わたくしも会ったことがありませんのでなんとも。
お役に立てず、ごめんなさい」
平常心、平常心、平常心……。
初恋がウインドフォームのわたし?
ど、ど、ど、ど、どうすれば……。
「そうか、すまなかったね。
変な話をしてしまって。
話を変えるけど、今、君の学友がここに来て居るんだ、呼んでくるから会っていくといい」
「わたしの学友ですか? どなたでしょう?」
どういうこと? 展開についていけて無いかも。
「向こうは知ってると言ってたから、少し待っててくれ」
そう言うとグレッドさんは部屋を出て行った。
二分後、部屋に男性が入って来た。
「セビルさん、逢えてとても嬉しいです。一週間ぶりくらいですね」
軍服を着たスコットくんだった。ものすごく嬉しそうだ。そして目つきのいやらしさが倍増してる様に感じた。
「え? あ、ええと? なんで?」
たぶん、わたしは笑顔では無かったと思う。
「僕は、学園を飛び級で卒業して、昨日軍に入りました。
今は、研修でたまたまここに来ていました」
「あの……いえ、ええと、なんで?」
「あの日、自分は悔しかったからです。
あの時恐怖で何もできなかった。 だから同じ思いをする人を出さない為に僕にできることをしようと思ったんです。
それにカナデさんと一緒に仕事したいなぁなんて」
途中まですごいなぁと関心しながら聞いてたのに本心はそこか……それはそれで行動力的にはすごいんだけど。
ちなみに、カナデは探しても軍にはいないけどね。それどころかあの設定のカナデは今後出ることあるのかな?
「あの事件、そんなに思いつめていたんですね」
「いや、カナデさんのおかげですっかり前向きになりました」
「は、はぁ、そうなんだ」
「あの、もしかするとセビルさんとはもう逢えないかもしれませんので、ハグとかしてもいいですか?」
ほんと、意味わからんこの人。
「あ、いやぁ、ちょっとそれは……」
「やっぱりそうですよね。 過ぎたお願いでした。 では握手とかも無理でしょうか?」
「そのくらいなら」
そっと右手を出した。
「ありがとうございます」
両手でがっと掴まれた。
「い、いえ~、へ?」
この瞬間、わたしは、いやスコット君も、別な場所に居た。
そして次の瞬間、わたしは神様の部屋に立っていた。
「わっ……か、神様?」
「お久しぶりです」
神様が普通に話しかけてきた。
「あの、今一瞬、船橋駅だった様な?」
「ええ、あなたと一緒に無関係な方を転送してしまったので、そこで途中下車してもらいました。あそこはあなたの最寄り駅でしたよね」
「駅だから途中下車って、まぁ分かるけど。
彼は大丈夫なのですか?」
「そんなことよりも、君に伝えておきたい事があってね」
「そんなことでは無い様な?」
「魔法少女を廃止することにしたんだよ。
さっき、全世界にCMを配信した」
「CM~?」
「君に指摘された様に、確かに、人類はもう自分で対処できる力を有してきていると感じたんだ。
それと、これは、まだそこまで重視はしていないのだけど、魔法少女の立場も変わって来ている。
先日、学校を占拠して魔法少女を出せってテロリストが現れた。
本来、手は出さない案件なのだけど、数人のSW達に処理してもらった」
だから、今後、魔法少女は作戦を実行せず、新規魔法少女の勧誘もしないことにするんだ」
「なるほど、わざわざ教えてくれてありがとうございました。
この世界に居ないわたしには、必要ない気もするけどね」
「君は、向こうでも戦ってるのかい?」
話が変わった。
「ええ、まぁ、ちょっと」
「では、最後だし、せっかく来てもらったから変身フォームを最新にしておいてあげよう。
ファイナルフォームを強化したのを追加してあげるから。火力がたぶんすごいよ」
「え? あ、とても助かります。
あの?」
「では、がんばりなさい」
「あ、ちょっと、スコットくんも、あ、わぁ~」
わたしは、もう元の世界の元の部屋に居た。
「な、何が……」
スコットくんも居た。
「どうかしたの?」
しれっと聞く。
「今、なんて言うか、大勢の人の前に立っていて……」
「何の話? わたしと握手できたのが混乱するほど嬉しかったのかな?」
とにかくごまかそう。
「あ、そうかもですね。
こんな僕と握手してくれてありがとう。
でも、ほんとに残念ですけど、すぐに戻るように言われてますので、もう行きますね」
「ええ、これから頑張ってください。
応援しています」
なんとか収まったかな。
その後、グレッドさんは急な会議に行っちゃったらしく、事務の方が来て申し訳なさそうに説明してくれました。
仕方ないので、今日は宿に戻ります。帰りの馬車は明日の朝の便なのです。
そして夜、宿を抜け出してきました。
グレッドさんの私室の窓の外、ウィンドフォームで浮いてます。
実は、せっかく来たついでと言ってはなんですが、もう一つ目的があるのです。
でも、なぜ、ファイナルフォームで来なかったんだろう。
カーテンが閉まっているので中の様子はわからないけど、不在な様です。
そして、なんでこんなに緊張しているのだろう。 この世界に生まれてから、緊張なんてした記憶が無いのに。
不在でよかった様な気もする、ゆっくりと待ってる間に落ち着かせよう。
と思ったら、こんな時に限って、運良く?少し待っただけで、誰かが部屋に入って来た。
ああ、もう、どうにでも成れだ。
気配が一人なのを再度確認して、窓をこんこんと叩く。
「こんばんは」
挨拶してみる。
「誰だ?」
たぶん、声の主を探して居るのでしょう。
「窓の外です」
「お前は……」
カーテンを開けてわたしに気付くと窓も開けてくれました。
「あなたに伝えたいことがあって来ました。
今後、帝国への手出しをしないでください。 向こうからは何もしてこないと思いますし」
目的はこれです。帝国のやり方に付き合うのは無駄な争いなのです。でも、さっさと要件言っちゃった。
「掴まってる人がまだまだ居るのを知っているのだろ?」
「ええ、これからも帝国本土への連行は必ず阻止しますので」
顔をそらしつつ答える。
「お前は我々の味方なのか?
その力があれば敵の本拠を攻め、容易に大将を討ち取れるのではないか?
それをしない理由は何なのか?」
「まず、味方であることは絶対と思っていただいて構いません。
そして、本拠を攻めない理由は、敵は帝国では無いからです」
「なんだと……。
では敵はどこだと言うのだ?」
「今分かってるのは、人を食らう化け物ということです」
「帝国の魔導士製造装置の事を言ってるのだろうが、今更それを理由に軍が行動を変えられると思っているのか?」
「主従が逆だとしたら?」
「化け物に帝国が使われて居ると?」
「はい。
証明する方法は今はありませんが、それでもお伝えしておきたかったのです。
あなたがたでは戦争を終わらせられない事と、わたし達ならそれができるかもしれないと言うことを」
「わたし達……か」
「そうです。
その力をもつ者が、勝手に使命として集ったのです」
「なるほど、わかった。
あえて、そんな話をする為に来訪されたのだ。これまでの恩義も含めて従うとしよう。君らと敵対する訳にもいかんしな。
だが、三十日だ、それ以上は俺の力では抑えられない」
「ありがとうございます。その三十日、大事に使わせていただき、何かしらご納得いただける成果をお見せします」
「本来、これまでの助力に礼を言いたいし共闘をお願いしたいのはこちらなんだがな。
さて、ここからは私的な話だ。立場上の言い回ししかできなくてすまなかった。
本当は、いくら能力があるからと言って、君のような若い女性に代わりに戦争してくれなんて言いたくは無いんだ。
なんともできていない我々に君たちの提案を無視する権利さえも無い。
そんなただの愚痴だ、聞いてくれてありがとう」
「英雄もたいへんですね」
「持ち上げられてるだけだが、そういう役回りも誰かやらんといかんからな。
では、せっかくだからついでに聞いても良いか?」
「なんでしょう?」
「君は、今日の昼、子供を助けてくれた者なのか?」
「……そうです」
それを隠すためにファイナルフォームで来たかったのに、なんでかあっさり認めちゃった。
「やはりそうだったか。
では、すまない、その件、君の功績を逆に悪事に捉われてしまうことになってしまった」
「どういうことでしょうか?」
「君が飛び去った直後に民衆が集まり始め、悪魔が子供を誘拐しようとしてそれを俺が助けたということにされた。
中途半端に目撃した誰かがそういう解釈を言い始めたのだろう、俺の説明などかき消されてしまった。
そもそも、君についての情報を軍が全く出していないのが原因なのだが、悪魔という存在はなぜか噂として広まっているんだ」
「そういう話なら問題無いですよ。 今更混乱させるよりも都合よく使ってください」
「どうしてそうあっさりと……。
君は、いったい何なんだい?」
「それについてはコメントできません。ご容赦を。
ただ、戦争を終わらせられたら、悪魔って呼ぶのは止めて欲しいかな」
「承知した。
そうなることを俺も願うよ。
最後に名前を聞いてもいいかな? 俺はグレッド」
「それ聞きます?
いいですよ、今は悪魔で。
ついでに、わたしは、あなたが想像してるよりは長く生きてるかも」
「ははは。
じゃぁ俺は、君とまた話すことがあるとしたら、勝手に天使と呼ばせてもらうよ」
その傷だらけの笑顔の方が、わたしには天使に見えた。
「好きにしてください。
……あ、やっぱり、天使と呼んでいただける様に……いえ、また、お会いしましょう」
思わず照れてしまった。 恥ずかしいから気付かれて無いといいけど。
「頑張ってな、応援しているよ」
空へと舞い上がるわたしに手を振ってくれた。
わたしがそれに答える様に一瞬だけ振り返って笑顔を見せたのは、無意識に近かったと思う。




