皇帝に会いに行く
合宿から戻った日の夜。
とあるアパートの三階の一室にSWカナデは居た。 その姿は大人バージョンで得意の忍者服だ。
しばらく待つと、部屋の主が帰宅して来た。
主が照明を付けると、当然カナデの存在に気付く、そしてものすごく驚き尻もちを付いた。
四十前後と思われるごく普通な感じの男性だった。
「だ、誰だ?」
カナデに聞く。 忍者服が効いてるのか、普通のかっこの美人女性だったら反応違ってたりして。
「帝国とは仲がよろしいのですね」
冷たい視線と口調だ。カナデはこういうの得意なのだろう。
「何者だ?」
男の表情は怯えから厳しい顔に変化した。
「元南国王女襲撃は失敗しましてよ。
お心当たりはあるのでしょ?
……ああ、人づて以外の連絡方法って鳥かなぁって。
なので以前から、あなたの正体はわかっていたんですけどね」
「俺を捕まえるのか?
こ、殺すのか?」
「どちらもノーですよ」
「何?」
「勝手ながら、これからあなたを国外追放にさせていただきます。
つきましては、手早く荷物をまとめてください」
「何を言っているのかわからない」
「わからなくていいですから、早く準備をしなさい。
もたもたしていると殺して連れて行っちゃうかもしれませんよ」
「わかった。 言う通りにする」
男は、旅行カバンを持ち出すとあたふたとしながら荷物を詰め込んだ。
「では、窓の傍に立っていただけますか。
ここの処理はしておきますから」
カナデは窓を開けて手招きする。
「どうする気だ。 ここから突き落とすのか?」
「しないってば。
その荷物はこちらに渡しててください」
カナデは荷物を受け取りつつ、男の体も軽々と持ち上げ窓の外に突き出す。
「うわ~」
「よいしょっと」
外で待機していたわたしが男の体を受け取る。
「お前が……白い……悪魔……なのか?」
「じゃ、行きますかぁ、帝国へ」
男をフローティングシールドで囲うと、カナデから荷物も受け取って上空へと一気に舞い上がった。
「うわ~」
男は、悲鳴に近い声を上げた。
「騒がないで。
あと、上を向いたら、痛い方法で気絶させるからね。
でも、たぶん三時間くらいかかるから寝てていいわよ」
「いや、こんな経験は初めてだ。下をずっと見ていたい」
「そ? では、ご自由に」
そのまま高度を変えずに飛んだ。
海を越え帝国領に入ってすぐの森の中に着地した。始めてでは無いルートはスムーズに進めたと思う。
「ここからは、自力で移動してね。
スパイをやってた理由は知らないけど、できればもう止めて普通の仕事についてくださいよ」
男を自由にしてからお説教する様に警告した。
「いったい何が目的なんだ?」
「わたしに関わらなければ放置でよかったんだけどね。 放置できなくなっただけよ。 後は詮索するだけ無駄だからね。
あ、そそ、あなたの住んでた部屋、スパイしてた痕跡は彼女が消してくれてると思うから、謎の失踪程度になるから安心して。
じゃ、ここでお別れよ」
説明を終えると、微かな笑みを見せてから、そのまま飛び去る。 この後向かうのは帝国の城だ。苦情を言いに行く。こっちの方が目的かもしれない。
そんな飛び去るわたしにかすかに聞こえた気がする男の言葉、
「あれが伝説の悪魔なのか? まるで天使じゃないか」
と。
自室でデスクワークをしていたバーストルは、ふいに窓際に立つ人影に気付いた。窓は開いていない。
「何者だ?」
「さすが冷静ですね。
お忘れですか? わたしです」
変身した状態では無いわたしだ。
「白いビキニの悪魔か、だが変身無しでいいのか?」
「ええ。もう身バレしてるみたいですし」
「それで、何用だ?」
「昨日、襲撃にあいました。
しかも一緒に居た子供を攫おうとした」
「俺は知らない案件だな」
「では、誰の仕業か教えていただけます?」
「それもさっぱりだ。
いや、そうだな。 まぁいいだろう、ついて来い」
バーストルは一緒に部屋を出た。
「どちらへ?」
「直接、皇帝に聞くがいい」
「……いいわ、連れて行ってください」
皇帝に直接って? 罠? 罠よね? でも、そんな準備の時間も無かったよね。 苦情に来るのを予想してなら、襲撃の件やっぱり知ってる?
城内をしばらく移動したが、あっさりと皇帝の私室に着いた。たぶん最上階付近だろう。
「皇帝、白いビキニの悪魔を案内して参りました」
バーストルが扉の前で要件を告げる。
「バーストルか、入れ」
入っていいの? 中は兵隊で固められている? この人が居て、魔導士も居たら不利かも。
「こんばんは、初めまして」
予想に反して、部屋の中には皇帝だろう男性が一人だった。 とりあえず挨拶をしてみた。
ベッドに腰かけて居る。 寝ていたのだろうか、そういう格好だ。
「こちらこそ、わざわざのご来訪、歓迎しよう」
「この者が、皇帝にお伺いしたい事があるそうです」
「わたしを襲撃するように命令したのはあなたですか?」
ここまで来た以上、当たってみるのみ。 質問文としてはちょっと変かもだけど。
「同行していた子供を攫おうとしたらしいです」
バーストルがなぜか補足してくれた。
「知らぬな。
だが、命令はしておらぬが、事実なら誰かの忖度ではあるのだろう。
であるならば、やはりわしの責任だ。
それで、どうする?」
「聞いてると思うけど、わたしの大事な人に危害を加えるなら相当な反撃をします」
「わしを殺すか?」
皇帝は、特に隠しているという印象は無かった左手を前に出した。手首から先が無かった。
「あなたも魔導士……」
「超人と魔導士の組み合わせは、悪魔に通用するというのがこちらの見解だ。
どうするかね?」
その時、外で隕石でも落ちたような大きな爆発音が聞こえた。衝撃波の様な振動も伝わって来た。
「なんだ?」
皇帝とバーストルは窓際に立ち外を見て驚愕する。
「山を一つ消したのよ。
理解したかしら」
「悪魔め、いや、お前は我々の知る白いビキニの悪魔ではない。
わしにはお前の姿は見えているのだ」
「以前に魔導士から報告のあった者でしょう。
外に居るのが白いビキニの悪魔ということかな」
「ええ、その通りよ。
そして、今、ここを狙っています。
もちろん、わたしはダメージを受けない」
こっちはSWカナデだ。
「わかった。 今後、南国には手を出さないと約束しよう」
皇帝は、あっさりと応じた。 そう答えるしか無いという風でもあった。
「賢明なご判断ありがとうございます」
カナデは、お礼を口にした後、さらに皇帝を見つめた。
「何が聞きたい?」
要求には答えたが、帰ろうとしない以上次の何かがあると推測したのだ。
「魔導士を作るやつってどこに在るのかしら? ”壁”の場所でもいいわ」
「ほう、少しは調べてあるのだな」
「まさか直接聞ける機会があるとは思ってませんでしたけど」
「聞いてどうする? というのも愚問か」
「教えていただけないかしら?」
「勝てる算段があるのか?」
「壊すでは無く勝てるの方なのね。 でも、見てみないとわからないわ」
「では、教えられんな」
「なるほど、ありがとう。
今度来るときは、話を進展できるといいわね。
バーストルさん、いつもすみませんね。今回も冤罪でした」
「俺の都合で動いているにすぎないだけだ。 協力者扱いされても困るよ」
「そう?
それでは、またお会いしましょう」
そう伝えるとカナデは姿を消した。
この時、SWカナデの方が交渉でわたしは外でファイナルフォーム待機してました。
合図があれば山を破壊する作戦です。
目標の山周辺は、人が居ないのも確認して、シャドウフォームの毒(死なないけど生き物が嫌がるやつ、害獣対応でたまに使ってました)でできるだけ生き物を逃がしてます。
植物と逃げ遅れはごめんなさい。縄張りとかもごめんなさい。 その辺がわたしの線引きです、神様なら人間以外はほとんど気にしなかったけど。
カナデの交渉が終わったころ。
「おい、そこの魔法少女」
上空で待機するわたしに声をかけて来たのは、変な衣装の少年。ここで?
「え? 誰?」
魔法少女では無くて少年よね?
「キャサリン、いや、ミラに言われて来た」
魔法少年の沖田だが、わたしが知る由も無く。
「ミラって、おばあちゃんの?」
「そうだ」
「あなたは?」
「その説明は今は要らんだろ?
ミラが呼んでいる。 一緒に来てくれ」
「あ、そういうことね」
(「ちょっとミラ様のとこに行って来ます。戻って留守番よろしく」)
カナデに連絡。
(「了解。 伝えたいことがあるけど、戻ったらにするね」)
(「緊急で無いならそれでいいです」)
「いけるか?」
「はい、行きます」
沖田と共に飛行を始めた。
「いらっしゃ~い」
ミラ様の家に着くと、既に来ていたテネさんが当たり前のようにわたしに抱きつく。
「早かったの。
もう一日くらいかかると思っとった」
ミラ様は、いつものテンションだ。
「途中、帝国の城の上で見つけた。だから海も越えていない。
山を消すほどの爆発が見えたので向かってみたら居たのさ」
沖田が説明する。 わたしを呼ぶために南自治区に向かっていたらしいです。
「山を消した?」
ミラ様は、いぶかし気な表情でわたしを見る。
「あ、ええと、ちょっと色々ありまして……」
「おとなしく夏季休暇をやってろと言ったはずじゃが?」
「仕方ないでしょ、それやってて襲われたんだから、それに報復しただけ」
「はぁ、ほんとに頭に血が上りやすいやつじゃなぁ」
「俺は沖田、君の力は当てにしている」
沖田は、話の腰を折る様に、いや本筋に戻すためか、そう自己紹介すると部屋の隅の壁に寄りかかった。
「魔法少年、初めて見ました。
わたしがやってた期間では一人も居なかった」
「めったに採用されんらしいからの……ん? そんな話は今はいらん。
さて、お前に来てもらったのは、こやつが協力してくれるのを伝えるためでは無い。
敵を倒してきた。 それを伝える為じゃ」
「えっ?」
その言葉に驚いた。
それから、ミラ様は事態の説明をしてくれた。
「なるほど……なんて言うか、あの、ご家族のこと……」
「俺のことは気にしなくていい。 心のケリはついている」
沖田には辛い記憶だが、それを振り返らずにこの先の敵に挑む決意をしているのだ。
「敵は倒せる。 ただの……、
あの町の住人は五千人くらいだそうだ。
つまり、帝国に居るやつが、どれほどのものか想像がつかんのだよ」
「桁が違うのですね。
年に数十万人、それを何年続けてたのか……。
ただ、動くのと壁では少しイメージが違う様な気がします」
「ああ、それもある。 じゃが判断のしようが無い、それでも、おそらく今はまだ勝てぬだろう」
「もし、帝国の人が仕方なくやってるとしたらどうですかね?」
「生贄か」
「戦線をわざと膠着させたりしてる理由。 自国の民を犠牲にしてる理由。
どうもしっくりこなくて。
あっ、そういえば、カナデが皇帝と話をしたんですよ」
「なんじゃと?
どういう話じゃ?」
「ああ~……すいません聞いてないです。
聞く前にこっちに来ちゃった」
「ふむ、では、お前はまずカナデに話を聞け。
それから、お前なりに帝国を調べて欲しい。さっきの話前提でもいい。
ただ、夏季休暇を優先するように」
「ミラ様は?」
「他の魔法少女を探す算段をしてみるよ。
レーバルト大陸では、沖田の町しか見て無いしの。
他の大陸や島の情報もあればいいが」
「この世界って、世界地図とか無いですもんね。
早く、大航海時代やればいいのに。 帝国さんが戦争なんかしてないでそういうことに力を使えば……いや、あいつらだと侵略になっちゃうか」
「飛んで行くにしてもあてがないと何日も無駄になるからの」
「ちなみに、簡易的にこの星の大きさを計算したことあるんですけど、直径が地球の三倍くらいあるんですよ。
つまり表面積は単純に考えて約九倍なんです」
「とほうも無いな。
お前が上がれる上空から他の大陸は見えんのも頷けるか」
「はい。 自力では無理ですね。 必要な時は神様に送ってもらってましたし」
「では、呼んでおいてすまんが、はよ居ね」
「はいはい、そうしますよ。
沖田さん、いつか前世のお話聞かせてくださいね」
「ああ、面白い話は無いがな」
「その衣装から察すると、めちゃめちゃ興味あるんですけどね」
「変なやつだな」
「変なやつじゃよ」
「なんでよ。
じゃ、テネさんもまたね」
「わたしあんまり役に立たなくてごめんなさいね。
早く、ゆっくりお茶したいわ」
「わたしもお茶したい~。 でわ~」
そして、外に出て飛び去る。




