水着回?
ここは、元南王国の別邸、浜辺に面しており主に夏季の利用を想定されている施設だ。
現在は、一般向けの観光ホテルとして多くの方が利用出来る様に運営されています。
そこを、今回は、なんと一週間貸し切りにすることができました。いちおう所有者特権みたいな感じです。
でも、十二部屋もあるので本来は貸切る必要も無かったのですが、とある事情からSWカナデの提案によりそうなりました。
SWカナデが掴んだ情報によると、わたしが先日帝国を訪れた際の姿で似顔絵がつくられたそうです。
つまり、白いビキニの悪魔の正体である者の似顔絵です。
そのくらいは想定していなかったわけでも無いですが、それが各地のスパイに送られ、わたしに行きついたのだと。
とはいえ、この南自治区領内へ帝国(元北国)側から何かしら仕掛けるのは非常に困難なはずです。
しかも相手が相手なので。
それでも、スパイは存在するので、今回、関係者以外は無しとして近者のみとしてもらったのです。
あ、ここで何をするかって?
稽古ですよ。
アレンとアイルとわたしに一応顧問的な感じでマイリス先生という面子でなのですが、最初の一泊だけは友人を含めて遊ぼうと言うことになってます。
友人枠は、ノンノとその妹さん、なんでかスコットくん、いやアレンの友達だけどさ、さらに、わたしの友人枠でもう一人ねじ込んだのがSWカナデ、彼女は軍の休暇ということにして護衛の為に混ざってもらいます。
というわけです。
一行は、学園前で集合し馬車に同乗してここまで来ました。
いきなりスコットくんに謝られたときはかなり引いたけど、まぁ、既にどうでもよいことなので軽く流してその件はおしまい。
そんななんやかんやもあり到着したのはお昼前です。
「ようこそ」
扉をあけて入るとそこに待っていたのは、SWカナデです。 先に着て準備をしてくれていたのです。もちろん彼女も王族の家系と皆には説明してあります。
だが、驚愕なのはその容姿で、二十代後半の年齢、日焼けした肌、大胆な黒のビキニ、それにラッシュガードを羽織っているだけなのも、何?そんなのは聞いてないよ~だけど、驚愕とつけたのはその胸だ、ありえないサイズだった。
「おじゃましま~す」
と皆は、そこにはあまり触れない様に中に入った。スコットくんはアレンとアイルに無理やり引っ張られながらだけどね。ただ、一人を除いて。あ、二人。
一人はもちろんわたし、カナデの姿にちょっと言葉がうまく出てこなくて。
「ご、ご無沙汰しています」
少しぎこちなくそう伝えた。
(「何か言いたそうね?」)
(「何じゃそりゃ?」)
(「あなたとの差異を大きくするために決まってるでしょ。顔は年齢分しか変わらないから、このくらいインパクト無いと」)
(「ぐぬぬ……まぁ、今はいいわ」)
「こちらこそ、本日はお招きいただき光栄です。
あの、そちらの方は?」
「こちらは引率役のマイリス先生です」
残っていたもう一人、マイリス先生を紹介してあげた。かなりアッサリ気味だけど。
「お、おみゃえは……」
マイリス先生……。
この人、感動で固まってるのがよくわかる。表面的には思い人との十四年越し感動の再会でしたわ。
「話は聞いてますけど、ごめんなさい。 わたし、あなたのこと全く覚えていないわ」
「あ、そんなことは良いんだ。
会えたことの奇跡。 ここから始められればいいんだ」
「そ? では、初めまして、わたしはカナデよ。よろしくね」
カナデはどうぞと手で中へ入るように誘導する。
「ああ、カナデさん、なんて素敵な名前だ」
動けよおっさん。
「さっそく始めたみたいですけど、とっとと入りますよ」
仕方なくわたしが引っ張って中へ。
「部屋は階段上って右が男子、左が女子です。
個室じゃなくてごめんなさいね。 いくつも部屋を使っちゃうと後でお掃除とかたいへんなので」
カナデが説明する。
どっちの部屋もファミリー用の大部屋で、なるべく一緒に居てもらう方が安心というのが本音なのだ。
「スコットくんと一緒じゃ無ければなんでもオーケーです」
ノンノが女性全員の言葉を代弁してくれた。
スコットくんが苦情を言い出すと思ったが、彼は集中していて聞こえてなかったみたい。集中先はもちろんカナデの胸のあたりである。
「みんな仲いいのねぇ。
では皆さん、お昼は外でバーベキューです。
準備は済んでますので、着替えたらすぐに浜辺の方に出てきてくださいね」
カナデの説明にそれぞれは~いと答えて部屋に向かった。
そして、お昼のバーベキューを堪能し、自由時間となった。
男子は海に入って暴れていて、女子は日除け用につくられた屋根のある場所で談笑しています。
「あの、カナデさん。
一つ聞いてもいいですか?」
ノンノ妹がカナデに聞く。
「何かな?
一つでなくてもいいのよ。
答えられることは、なんでも教えてあげるから」
「ありがとうございます。
ええと、皆さんの水着姿を見て思ったのですけど……」
「ん? えっちな話?」
「あ” そんな全然です、たぶん」
「そうなんだ」
「今日参加されてる方で、普通の人のスコットさんが一番ムキムキなのが気になって。
カナデさんも、あまり筋肉質ではないんですね。 スタイルはすごいのに」
「たぶん、あなたも気付いてそうだけど、超人だからよ。
本気で見せる様な筋肉を付けるなら、負荷を何十倍にもして何倍も時間かけないとなの。でも、その時間は全く足りない。
そういう意味では、あの先生はかなり頑張ってそうね」
カナデは超人では無いけど、その知識はもちろんわたしを見て知ってるからです。マイリス先生のせいで超人ってことになってるからね。
「やっぱりそうなんですね。
ごめんなさい、変な興味本位で……」
「わたしは、スコットくん?が、あの体っていうのにちょっと驚いちゃった」
「ああ、彼はなんでもすごいですからね。
ほんと、あの性格と目つきだけは勿体無いですよ」
「そこはコメントし難いわね」
「大丈夫です。 みんなそうですから」
「なるほどね~。 ん?」
「ちょっといいかな?」
今度は、マイリス先生がカナデに声をかけて来た。
「何かしら?」
「ちょっとこっちへ」
そう言って、海の方へ引っ張って行く。
男子たちがちょうど戻って来たのもあったかもしれない。
マイリス先生はカナデを波打ち際まで連れて行く。
「あの時、本当にすまなかった。
手に傷とか残ってないか?」
マイリス先生は上半身を九十度倒して謝った。
「ほんとに覚えて無いから、もう気にしなくていいわ」
「じゃぁ、結婚してくれよ」
「いやよ」
カナデは断ると急に駆けだした。
「好きなやつが居るのか?」
マイリス先生も追いかける。
「ノーコメント。
でも、ここから始めるって言っておいて、いきなり求婚って何?」
加速した。
「だから君へのアプローチを始めるんだよ、思いを十四年分詰めてな」
「へぇ~。 確かに十四年も思われてたって聞いたら悪い気はしないけどね」
加速した。
「じゃ、まずは、キスくらいだめか?」
「だめ」
加速した。
「胸を少し触らせてくれるとか?」
「だめ」
加速した。
「尻を……」
「子供たちの前で何を考えてるんだか……」
マイリス先生も追いすがる。
その光景を見ていた者は超人のすごさを実感していた。 砂浜をものすごい速度で走る姿に。
そして、カナデは海岸の端、岩に阻まれて止まった。
マイリス先生は、勢いのままに岩ドン。
「可能性はあるか?」
「そうね、キスくらいならいいわよ」
「え?」
「彼女を守ってくれるならね」
カナデはそう答えてキスをしていた。
「ぐがっ」
次にマイリス先生は苦鳴を上げた。
「欲張りね。砕くわよ」
マイリスの手がカナデの胸に近づいていたのだ。その手首を掴んでいる。
「俺は、その表情に惚れたんだ。会えてよかった。
だけど砕くって、せめて折るくらいにって、痛たたた……」
今度は腰に回そうとした手首だ。
「彼女のことお願いします」
「任せろ。
その働き次第では進展もあると思っていいのな?」
「さて?
でも、働きが悪いとそこまでかもよ。
少なくとも前払い分は働いてくれると思ってるわ」
「なるほど、理解した」
「それから、わたしは白いビキニの悪魔の事は知らないわ。
わたしに似てたんなら、親族の誰かかも知れないけど」
帝国を倒す手伝いという言伝の件だ。
「そっちはもういいよ。
君が君だとわかったからね。
後は自分で探すさ」
「そうですか。 では、戻りますよ。 せんせ」
(「先生と何を話したの?」)
戻って来たカナデに聞いてみた。
(「あの人、あなたが思ってるよりも良い人よ。
真面目だし優しいし。
まぁ、最近あなたほとんど不在だったから知らないでしょうね。
つまり彼を見てるのはほとんどわたしだった」)
(「好きになっちゃったってこと?」)
(「まさか。 ただね、わたしもあなたと同じだなって気付いたのよ。
前に、あなたに人間としてちゃんと生きた方がいいかもって言ったけど、わたし、人のこと言える立場では無かったなって。
そもそも人間では無いわたしには、はなから関係ないのかもしれないけど……それでも最近なんかざわつくのよ。
だから、彼には悪いけど、わたしの心がどうなるのか試させてもらおうかなって。
今後、こういう人、絶対出てこないと思うから」)
(「ウィンウィン?」)
(「最終的にはノーサイドかなぁ?」)
(「それは、先生的には負けなんじゃぁ」)
夕食後。丁度、日が沈んだくらいの時間です。
あ、夕食もバーベキューでした。昼が海鮮メインで夜はお肉メインな感じでしたよ。
男女それぞれの部屋に戻りお風呂へ向かう準備をしていた。
「あ……人? きゃぁ~」
ノンノがおびえた表情でカーテンの開いた窓、外の方を指さし悲鳴を上げた。
女子全員がそちらを向く。
黒い人影が立っていた。
「何者っ」
カナデが、動くと影はすぐに逃げた。
カナデは、そのまま窓を開けて外に出ると、人影が逃げたと思われる方向へ追う。
すぐに隣の男子部屋の扉が開く音がして、アレンとアイルの慌てる声がする。
「どうした?
何かあったのか?」
マイリス先生は扉の前でこちらの状況を聞いてくれた。
「そこで待っててください」
わたしは咄嗟に答えた。
現時点でここには敵もいない。 いざとなればわたしが戦う。
(「泳いで沖に向かっているわ」)
SWカナデの状況報告だ。
(「どういうこと?」)
(「その後異常は?」)
(「男子が扉の外に来てくれてるくらいかな?」)
(「あ、沖に船が見えた。 軍船ね。 そっちに向かってみるよ。
距離的に話は届きそうだから、何か指示が有れば言ってね」)
(「了解」)
「とりあえず中へどうぞ」
扉を開けて男子達に中へ入ってもらった。
「何があった?」
マイリス先生は室内を見回しながら確認する。
「怪しい人が外に居た……先生、スコットくんは?」
「はっ」
アレンたちを見る。
「スコット~」
アレンとアイルが慌てて部屋に戻る。
「まさか……」
「スコットが居ない。
窓も開いていた」
アレンが焦っているのが分かる。
「攫われたのか? なんで?は今はいいか。
カナデさんは?」
マイリス先生は、一番気になるだろう事を聞いた。
「追っていったわ」
「そうか。 とりあえず、全員ここに居てくれ」
マイリス先生は指示すると男子部屋に戻った。
(「カナデ、スコットくんが攫われちゃった」)
(「なんで彼? いや、人質にするきね。
……あ、小舟が見えたわ。 人影が三つほどあるからそれでしょうね。
大丈夫、わたしに任せて、回収して戻るから」)
(「お願いします」)
軍船の甲板には船員が五人ほど小舟を回収するために出てきていた。
カナデは、その全員を海に叩き落とし、近づいて来ていた小舟に飛び降りた。
小舟には黒い装束が二名とスコットくんが居た。
カナデは、すぐに小舟の船底を叩き割るとスコットくんを抱いて海に飛び込んだ。
その直後くらいに軍船の方では火の手が上がっていた。
怪しい者達は、船上でも海上でも混乱していた。
「怖かった?」
カナデは、背中に張り付いているスコットくんに聞く。
スコットくんは泳ぎも得意ではあるのですが、夜の海で見失うのが危険なのでそういう状態というカナデの判断です。
「いや、はい、とても怖かったです」
「おっぱい揉んでおく? 元気出るわよ」
「え? あっ、そんなこと……。
そんなことしたら、僕はあなたのことまで考える様になってしまう」
「そう?
そんなに、あのこの事好きなの?」
「ええと、まぁ、はい、好きです。 いや、大好きです」
「あのこのどこが好きなの?」
「顔です。あと、こういう言い方はあれですけど、全部です」
「へぇ~」
「彼女って、いつも清楚にしようと頑張ってるじゃないですか。
そんな中、たまに見せる、素っていうか、熱い感じが一生懸命っぽいというか……。
そんな時の彼女が特に大好きなのです」
「よく見てるのね」
「そのせいで嫌われてますけどね」
「どうなんでしょうね」
「あの、やっぱりすこしだけ、揉ませていただいても?」
「だめよ。
冗談に決まってるでしょ?」
「がっくし」
「ここからはもう足が付くわ。 だから離れてね」
「…………はい」
「その間は何かしらね」
「あの、本当にありがとうございました」
「どういたしまして。
私の仕事みたいなものだから、気にしないで。
それよりも、嫌な記憶は忘れちゃってね」
「……はい」
スコットくんは元気のない返事を返すと浜辺へ向かって歩き出した。
そして波打ち際で立ち止まる。
「どうしたの?」
「ここまで来れたって安心したら……。
もし、助けて……いただけなかったらって……」
「きなさい」
カナデは、スコットくんの頭を両手で掴むと自分の胸に押し付けた。
「あっ、え?」
「泣かないで、あなたに非があるわけでは無いし、あなたが弱いからでは無いのよ」
「……うっ……」
「手はダメ」
「はい」
「じゃ、戻りましょう。
皆、心配しているから」
「そうですかね?
僕のことなどたぶん心配してないでしょうから、もう少し今のやつ続けて欲しいなぁなんて」
「元気でたみたいね。
じゃ、わたしは先に戻るから、ゆっくり来なさい」
「あ、いえ、ご一緒させてください。 みんなを安心させないと」
少し後方に付いて歩き出したスコットくんの視線は、おそらくカナデを舐めるような感じだったことでしょう。
さて、この事件のせいで合宿は一日で中止になりました。合宿の目的やってないけど。
なので、翌朝すぐに出発して学園前で解散。
マイリス先生は、その足で警備、学校へ報告に行ってくれました。
カナデは、ホテルの後片付けをした後、軍船の様子を見に行ってくれました。
沈めない程度の火災にしたので、ちゃんと帰ってくれた様です。
ちなみに、昨夜見た感じだと、軍船には超人も魔導士も居なかったそうです。
すごい遠回りをしてわざわざ来たにしては、いまいち腑に落ちないとも言えます。




